50:金持ち学園に潜入です。
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しばらくして、在校生たちの姿がちらほらと見え始めた。
登校時間となったのだろう。
全員、当然徒歩ではなく、ベンツやリムジン、ヘリといったブルジョア丸出しの移動手段で登校してきた。
高級車を使っている生徒は、正門の前で車から降り、その傍らに使用人をつけることもなく開かれた正門をひとりひとり通って校舎へと歩いていく。
「通過できるのは、あくまでお坊ちゃまお嬢様だけと言ったところか。使用人もつけやしねぇ」
観察していた神崎が言うと、同じく眺めていた因幡は「やっぱりな…」と呟いた。
「セキュリティが万全…って言っても、それは正門を通らず侵入しようとしたバカが言ってることだ。制服にIDが編み込まれていようが、警備員が銃刀所持者だろうが、正門の方がまだ警備が薄い」
「堂々と正門潜ろうとするバカもいねーだろ」
神崎がそう言うと、因幡は不敵な笑みを浮かべ、コハルからもらった呪符を取り出した。
「オレ達は今から、そのバカをやるぞ」
「あ?」
「警備員もまさか、透明人間が侵入してくるとは思いもしねーだろ。後ろ向け、神崎」
「???」
意味がわからないまま、神崎が背を向けると、因幡はその背中にコハルの呪符を貼り付けた。
すると、神崎の体が半透明から透明になり、豊川達の目から見えなくなってしまった。
「神崎!!?」
「消えたぞマジかっ!!」
非科学的な現象に仰天した豊川と寿は、辺りを見回し、消えた神崎の姿を探す。
「なんだ?」
当然神崎は、因幡に呪符を貼られてから一歩も動いておらず、慌てふためく2人に疑問を浮かべた。自分が透明になったことにも気付いていない。
「姿が見えなくなるまじないだ。騒ぐな、そこ。警備員に見つかっちまうだろ」
冷静な因幡に、豊川は「神崎どこ行った!?;」と尋ねる。
「神崎なら、たぶん、オレの隣にいる。言っとくが、確認しようとして触るなよ? 触ったらまじない効果がなくなるらしいから」
因幡はそう言うと、伏見に自分の分の呪符を渡し、「背中に貼ってくれ」と頼んでから、チャックを閉めたボストンバッグを肩に提げた。
受け取った伏見は、おそるおそる因幡の背中に貼り付ける。
すると、因幡の体も、身につけているボストンバッグごと半透明から透明になり、姿を消した。
「因幡…!」
驚いた伏見は一歩たじろいだ。
「おい因幡…!!」
神崎は突然姿を消した因幡に驚いたが、すぐに「オレならここだ」と声で位置を知らせた。
「おまえも消えてるからな」
「オレも…!?」
神崎は自分の手を見るが、視界にはちゃんと自分の手があった。
試しに、豊川に近づき、馬鹿にしたような変顔をしてみるが、豊川はそれに気づかず違う方向を見たりして神崎と因幡の行方を捜している。
「ほんとだ、気付かねえ。…やーい、バーカ、泣き虫、へたれ豊川…うぉっ!!」
いきなり、豊川は鉄パイプを取り出して殺気立った空気を身に纏い、神崎がいる位置に向かって鉄パイプを振ったが、神崎は反射的にそれをかわした。
「姿は見えねえけど、声は聞こえるからな。幼稚なことすんな」
因幡は、なにやってんだ、と言うように神崎が声を上げたほうに向かって話しかけ、豊川達に言った。
「つうわけで、こっちはなんとかなりそうだから。心配すんな。運んでくれてありがとな」
「心配はしねーが…、送ってやったからにはそっちも約束守れよ?」
寿が言うと、因幡は「わかってる」と頷いた。
「ってことで、行くぞ、神崎」
「このまじない…、互いの姿が見えねえってのが汚点だな」
常人なら、もっとつっこむべき点がいくつかあるだろうが、男鹿や因幡と関わっていくうちに、不思議現象にすっかり慣れてしまった神崎だった。
「「痛たっ」」
茂みから出ると同時に互いの頭をぶつける2人。
そのあと互いの足を踏みつけ、声にならない声を出した。
「バカおまえ足踏むなっ」
「神崎こそフラフラ歩くなよっ」
早くも不安を煽る声が前方から聞こえ、見守る豊川達は「大丈夫かよ;」とはらはらしていた。
ちなみに、コハルからもらった“ハイドカード”は、呪符を使用している者同士なら触れても魔言は解けないが、その他の人間に触れたり、呪符が汚れたり破れたり剥がれたりすると、たちまち魔言が解けて人目についてしまう。
それを伝えられた神崎と、コハルから聞いた因幡は慎重に正門へと近づいた。
今のところ、誰も近づく2人に気付かない。
「じゃあ、まずはオレから」
そう言って因幡は、正門をくぐろうとする女子生徒に近づき、触れない程度にその背中と距離を詰めた。
透明になったあとの作戦は至って単純だ。
生徒とともに正門をくぐること。
(…よしっ)
因幡は難なく正門を潜り抜けた。
なにも変化がないことを見届けた神崎は、因幡が侵入に成功したとみる。
(次はオレか…)
神崎は男子生徒の後ろについていき、正門をくぐろうとした。
「!!」
しかし、少し離れて歩いてしまったのが災いしたのか、警備員が門を閉めたとき、神崎の左足が挟まってしまった。
「ぐ!;」
その場に転ぶ神崎。
「!!」
突然のうめき声に因幡はなにかあったと察した。
「おい、正門が閉じないぞ」
「突然どうしたんだ?」
警備員は怪訝な顔をし、正門を閉じようとする。
「――――っ!!」
(いででででででっ!!!)
左足首をぐいぐいと挟まれ、神崎は口元を両手で押さえて声を上げないように耐える。
「なにか引っかかってるんじゃないか?」
警備員のひとりが神崎に近づいたところで、「まずい」と焦った因幡は足元の小石を蹴飛ばした。
「うっ!?」
神崎に触れようとした警備員の手の甲に小石が直撃し、もうひとりの警備員も「どうした?」と駆け寄った。
その隙に因幡は、閉門の邪魔になっている神崎の足をつかんでどかし、触れた服をつかんで引きずるようにそこから逃げ去っていく。
残された生徒と警備員たちは突然調子の戻った門を見て、ぽかんと口を開けていた。
「うわなにそれっ! キモッ!」
「え、なにオレどうなってんの!?」
つかんでしまったところが呪符の部分だったらしく、呪符が皺になっただけで、神崎の上半身のみが露わになっていた。
因幡どころか、一般のマジシャンもびっくりだ。
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