50:金持ち学園に潜入です。
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修学旅行から数週間後、石矢魔校舎に、購買から教室へ戻ろうと階段を上がっていく因幡の姿があった。
その口には、購買で買ったばかりのキャンディーを咥えている。
鼻歌を歌いながら階段を上がっていると、「因幡」と名前を呼ばれて立ち止まり、振り返った。
「おー、神崎ー」
神崎がヨーグルッチを飲みながら、踊り場からこちらに向かって上がってきていた。
神崎が隣に来ると、因幡は再び歩を進める。
「おまえさっき購買にいただろ」
「おうよ。今秋限定の、かぼちゃ味のキャンディーが出てたからな」
「チャレンジャーだな。製造会社も」
「かぼちゃだって、ケーキとかプリンとかに使われるだろが」
「キャンディーはなんか違うだろ」
「神崎だって、なんだよそのヨーグルッチは」
「オレは普通に、野菜ジュース風味のヨーグルッチだ。今秋限定のな」
「もはや野菜ジュースなのかヨーグルッチなのか…。いいドヤ顔だな」
「飲むか? 一口くらいなら…」
「野菜ジュースの部分だけならもらってやってもいい。…あ、そういや夏目たちから聞いたけど、この間、二葉ちゃん連れて遊園地に…」
階段を上がりきって曲がり角を曲がろうとしたところで、因幡は視界に入り込んだものに足を止め、神崎の腕をつかんで後ろに引いた。
「おっ? なんだ?」
「あれ、男鹿達と姫川…?」
2人は曲がり角の陰からそれを窺った。
廊下で、男鹿(とベル坊)、ヒルダ、古市、姫川がなにやら話し合っている様子だ。
珍しい光景に、2人はなんの話をしているのかと耳を澄ませた。
「サンマルクス修道学院?」
聞き返す姫川に、古市は「はい。姫川先輩なら、知り合いがいるんじゃないかと」と頷く。
途中から聞いてなんの話かはわからないが、神崎はその学院の名に聞き覚えがあった。
「…まぁ、いないこたぁねーが…。それにしたってなんだってあんなトコに…」
そこでヒルダが姫川の目前に1枚の写真を突き付ける。
それを見た途端、姫川は驚いたように目を見開き、静かにそれを受け取った。
「これを探しておる。どうやらあの学院内にあるらしいのだが、なにか話を聞いたことはないか…?」
「………てめぇら、どこでこの情報を手に入れた?」
いつになく真剣な表情の姫川に、男鹿達と、それを窺っていた因幡と神崎も何事かと目を丸くした。
「明日の早朝、屋上で」と指定した姫川と、男鹿達が別れて教室に戻ったあと、因幡は早速姫川に先程男鹿達となにを話していたのか、姫川の前の席をいいことに尋ねる。
「てめーが気にすることじゃねーし。関係ねえだろ」
想像以上に冷たく返されてしまった。
休憩時間、因幡は廊下で呼び出した神崎とともに話し合う。
「オレ達を抜かしてコソコソしやがって…。男鹿達とそんなに仲良かったっけ、あいつ…っ」
(こいつ、もしかして傷ついてんのか?)
神崎は新たにヨーグルッチを飲みながら、廊下側の窓に額をつけながらブツブツと小言を言う因幡の心情を察する。
意外と繊細のようだ。
「私立サンマルクス修道学院っつたら…」
「?」
その学院の名が神崎の口から出て、因幡ようやく小言を止めてそちらに顔を向ける。
「いや、テレビとか、ネットでの情報なんだが…、超がつくほどの金持ち学校らしい…。財閥や政治家なんかの御曹司が通う…」
「まさに姫川と関係ありそうな学校だな…。あいつがあんな真剣な顔するくらいだ。なにかワケありなんだろうな。男鹿ヨメが写真見せてたし…、探し物でもする気か?」
考え込むような仕草をする因幡に、神崎は不安がよぎった。
「……おいまさか尾けるとか言い出さねえだろうな」
「いやだって、面白そうじゃん?」
その時神崎は、輝かしい顔の因幡の背景に、確かに夏目を見た。
「悪いことは言わねえから、やめとけ。姫川のヤロウだって詮索はされたくねーだろうし、根本的に尾行する相手が悪すぎる。あいつら、あの学院に行くみたいなこと言ってるけど、おまえ知ってるか? 学内に入るだけで数千万するらしいぜ。セキュリティは刑務所以上だ。ムリムリ」
「……………」
因幡はスマホを取り出し、“私立サンマルクス修道学院”で検索してみる。
「替えたのか? スマホ」
「今頃気付いたか」
スマホに買い替えたことにしたり顔だ。
確かに神崎の言う通り、侵入は困難を極めそうだ。
入学するだけでも億単位。
制服にはIDが編み込まれているため、偽の制服で行くわけにもいかない。
「…発砲も許可されてるってマジか」
「噂だが、学院自体がリアルファンタジーだ。たぶんそっちもリアルファンタジーじゃねーか?」
難易度が高すぎる。
因幡と同じく姫川達がしでかそうとしていることに興味はあるが、神崎はすでに諦めていた。
「リアルファンタジーか…」
呟いた因幡は検索画面を閉じ、わりと賢い頭脳を働かせる。
「…姫川達は早朝に出発して学院に向かうっつってたな…」
「…ああ。堂々と入学して潜入する、みたいなボンボン発言してたな。よくもまあ躊躇もなく…」
「……オレ達はヘリ持ってねーから、行くとしたら今夜か…」
「……因幡?」
「侵入の方も、たぶん、出来ると思う…」
「ちょっと待てよ」
「あ?」
「おまえ…、オレ達も潜入する前提で話すすめてるだろ」
「ああ。オレ、気になったらとことんまっしぐらするから。…姫川の態度も気に入らなかったしな。神崎はどうする? 別にオレはひとりでも……」
「あー、わかったわかった。付き合ってやるよ。てめーひとりじゃなにしでかすか…。言っとくが、てめーも男鹿並みにトラブルメーカーだってこと、自覚しろよな」
呆れるように言ったあと、神崎は因幡の頭に左手を置き、右手でカラになったパックを握りつぶした。
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