50:金持ち学園に潜入です。
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その日、フユマは、ダイニングのソファーに仰向けに寝転びながら漫画を読むなごりに告げた。
「明日、クロト継承の儀式を行う」
部屋に入ってきて早々の報告に、なごりは漫画を下にずらし、目線をそちらにやってキョトンとした顔をする。
「…親父ぃ、そういうのは早めに言ってもらわねぇと…」
「別に大した予定も入ってねーだろがプーが」
「親父だってプー…。さぶっ!!」
フユマの口から吐き出される冷気に体を震わせた。
「穀潰しが…。切り刻まれてーか?」
「DVだ…」
「とにかく、オレ様が「明日」って言ったからには、明日だ! いいな!?」
「はいはい」
なごりは適当な返事を返してから漫画の続きに戻った。
「……だから、今日、逃げてくれるなよ?」
「! …オレはコハルとは違うから、親父を置いて逃げたりしない」
不意に弱々しくなったフユマの声に小さく驚いたなごりだったが、視線をそちらに移さず、漫画を読みながら真剣に返した。
「………なごり…、その…、いや…、明日でいいか……」
しばし視線を彷徨わせたフユマはそう言って、ダイニングを出て行った。
それからドアを閉め、廊下の曲がり角を曲がったところで、傷跡のある喉を押さえ、力が抜けたように片膝をつく。
その顔には冷や汗が浮かび、呼吸も荒かった。
「…っ」
“苦しいか、フユマよ”
「……クロト…ッ」
依代から聞こえる声に、フユマは宙を睨んだ。
“急遽、明日に変更したのは貴様にしては賢明な判断だ。もう、我を維持することはできぬのだろう? ようやく他の依代に移住することができて、我は喜ばしいぞ。歴代の継承者の中でも、長年、我とシロトの器を務めたのは、貴様らが初めてだ。卯月も“進化”したものよ。誇って良いぞ”
「エッラそーに…。けど、お褒めの言葉、どーも…」
壁に背をもたせかけて座り、引きつった笑みで返すと、クロトは威張るように語り続ける。
“まだまだ褒めちぎることがあるぞ? 貴様の婚約者であるコハルがシロトを持ち逃げし、傷心していたものの、よくぞ貴様より強い魔力を持った男子を産み落としてくれた”
「なごりのことか…。…その褒め言葉は、あいつを産んだ女に言ってやってくれ」
“産み落としたのち、貴様に愛想を尽かして本家に移り住んだあの女をか?”
皮肉混じりに笑われた気がしたが、フユマは「ああ…」と怒りもせずに返した。
“……フユマよ、今までご苦労だったな”
「なんだ突然…」
“苦しかったろう…。我から労いの言葉だ”
「今日はよく喋るかと思えば…」
“饒舌にもなろう…。今まで長く我を担ってきた者との別れともなると…”
「くく…っ。なごりに移るんだろ? 身近な引っ越しだ。こうやって直接会話することができなくなるのは、確かに寂しいけどよ…」
喉を擦り、フユマは唐突な眠気に襲われる。
部屋で寝ようかと考えたが、立ち上がるのも億劫だった。
また鮫島が見つけて、部屋まで運んでくれるだろう。
そう信じて、目を閉じた。
それを見下ろす、ユキの存在にも気付かずに。
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