49:お土産も思い出もお忘れなく。
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そして、翌日、聖石矢魔の修学旅行は終わりの日を迎え、一行は那覇空港にいた。
ラウンジで帰りの便を座って待つ中、ひとり、明らかに機嫌の悪い因幡の姿があった。
キャンディーを咥えたまま、頬を膨らませて拗ねている。
「ほらもう機嫌直しなよ、因幡ちゃん」
ホテルを出た時からずっとこの調子だ。
隣に座る夏目はなだめようとするが「フン」とあしらわれてしまう。
「なんでそいつそんなに機嫌悪ぃんだよ」
因幡の前の席に座る男鹿は、肩越しに振り返って因幡を指さして神崎に尋ねる。
「あ―――…」
心当たりはあった。
男鹿と哀場の決着に立ち会えなかったことだ。
「こいつ、朝まで母ちゃんの仕事の手伝いにつき合わされちまって…」
姫川のおかげで火が点いたコハルの原稿の手伝いをしながら、窓から寂しそうに見学をしていたとか。
そのあと、なんとか早めに終わらせたものの、男鹿達が呼び出されたビーチに駆けつけてみればすべてが終わったあとだった。
思い出すだけで余計に顔をムスッとさせる。
「おかげで仕事終わってから一言も口をきいてくれません」
近くの席に正座して座るコハルは、どんよりとした空気を纏わせてうつむき、「でも〆切に間に合いそう。来月の巻頭カラーはいただきよ」と小さな喜びを感じていた。
これでも反省はしている。
「東邦神姫どころか、男鹿ヨメと古市も立ち会いに参加してたそうじゃん? …で、男鹿が勝って、珍高との諍いも終了。よかったよかった。んで、本物の東邦神姫ってことが判明して、ホテルでもキャーキャー珍高の奴らに騒がれてたじゃねーか。アイドルの追っかけみたいにっ。……オレの扱いってモブ? モブ市扱いなのか…? 冷酷兎の因幡様が? なんか置いていかれた気分……」
キャンディーを咥えたままブツブツと明後日の方向を見る因幡は、いつの間にか三角座りになっている。
「あ゛―――っ!! ネチネチと、んなこと気にしてんじゃねえよウゼェ!!」
思わず席から立ち上がって怒鳴る神崎と、「桃ちゃんホントごめんなさいね?」と謝るコハル。
「オレ達も立ち会えなかったんだから」
「二葉ちゃんを助ける時に活躍してたそうじゃないかっ」
夏目と城山はフォローをしていた。
「ふん。哀しいフォローされる小物までに成り下がったか、因幡」
「ことぶ…」
聞き覚えのある声に振り返り、寿の全体を目にした因幡は言葉を止めた。
同じく神崎達も。
両腕と背中の土産ものの入った袋や旅行鞄。
なんて声をかけていいのか。
「チッ。最後の最後にてめーらのツラを見ることになるとは、マジでついてねーな」
「文句言う前に、おまえ一回自分の荷物持ちに成り下がった姿、鏡で見て出直して来い」
そこへ稲荷達も現れる。
ほとんど寿に荷物を持たせているのか寿以外の4人は手ぶらだ。
「奇遇って重なるもんだね」
「つうか、確かに寿はてめーらに預けたけど、あの扱いはちょっと…;」
気の毒に言う因幡に、稲荷は首を横に振った。
「ううん。あみだくじで決めたよ?」
「あみだくじ…?」
どうやら、寿はハズレを当ててしまっただけだ。
「そう。豊川に作ってもらったくじで」
「ええ」
(絶対稲荷さんに当たらないように作ったからなぁ!!)
忍び笑いを浮かべる豊川だったが、因幡達はそんな邪心が透けてみえていた。
同じく、優しげな薄笑みを浮かべる稲荷の背景に、不気味に「コーン」と鳴いて笑う黒いキツネが見えた気がした。
「おいコラ絶対確信犯だろ」
「さすがに…、気の毒だと…、代わろうとしたのだが…、断られた…」
伏見はこっそりと因幡に伝える。
寿にも意地はあるようだ。
「せめて荷物の半分は手荷物カウンターに預けさせろよ」
姫川が呆れるように言って明智を見ると、明智も寿に「少し持たせろ。入口で引っかかるぞ」と手を差し出しているが、「マジで手ぇ出すなっ」と払われた。
寿と明智はそんなやり取りをしながら別のラウンジへと向かった。
黒狐は別の便に搭乗するようだ。
「…他にも黒狐のメンバーがいるだろ。なんだってあいつら連れてきたんだ…」
少し前までは敵対していた仲だ。
それにどちらも仲間を裏切ったことがある経験がある。
簡単に信用できるわけがない。
神崎が肩越しに見ながら稲荷に尋ねると、稲荷は「そうだな…」と2人が向かったラウンジを見つめながら答える。
「……慰安旅行もそうだけど…、ちょっとした親睦旅行ってのもあったかな…」
「けどあいつら、旅行先でも稲荷さんを潰そうとしてましたよっ。オレが手を出す前に伏見がボコボコにしたそうっスけど…」
「そうやって立ち向かい続けるといいさ…。入りたての頃は逃げようとしたことは何度もあったけど、今はボクを倒すことだけに専念している…。この旅行先で逃げる機会はいくらでもあったのに」
「……………」
「すぐに仲間ぶってもらっても信用するわけがないと知られてるから、開き直って向かってきてるんだ…。そのまま、徐々に力をつけてくればいい。黒狐のために…」
開かれた細目と不敵な笑み。
これがリーダーの器かと思わされる。
あえて好きにさせて離さないようにし、黒狐の戦力に入れていた。
預けてよかった、とホッとした因幡だったが、同時に、稲荷を敵に回さなくてよかったとも思った。
「それじゃあ、また」と会釈して車椅子を押す稲荷。
「もう会いたくねーけどなっ」と神崎を指さす豊川。
「絡むな豊川」と豊川の首根っこを猫のようにつかんで連れていく伏見。
話しているうちに機嫌も元に戻ってきた因幡は、新しいキャンディーを取り出し、包みを取り去って口に咥えた。
「あいつらもあいつらで楽しめたみたいだな…」
「写真撮るっスよ―――!」
カメラを持った花澤が声をかけると、石矢魔メンバーはそちらに顔を向け、集まりだす。
「何々? 写真撮るの?」と夏目。
「オレ達も映っていいのか?」と因幡。
「神崎さん、早く早く」と城山。
「ったく、面倒くせーな」と姫川。
「よんでねーよ」と神崎。
「おいおい先生はいいよー」と早乙女。
「いやだから呼んでねーって。つーか、久々だな」と神崎。
「あら、私も?」とコハル。
神崎は今度はなにもつっこまなかった。
撮影はアレックスに任せ、石矢魔メンバーは男鹿の座っている席を中心に集まる。
カメラの撮影を任されたアレックスは不服そうだ。
「なんで私が。…えーと、ココを押せばいいんですね」
花澤から押し付けられたカメラを構え、「はいチーズ」とともにシャッターを押す。
パシャ
神崎と姫川の前に立つ因幡は、キャンディーを咥えながら笑みを浮かべ、右手でピースを作る。
コハルは、席に座っている邦枝の隣で、少し膝を折って左手でピースを作った。
あとで因幡のケータイとコハルのデジカメにも同じような写真を撮ってもらう。
ケータイで撮った集合写真を見つめながら、因幡はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
今までの写真の中で、楽しげな自分を入れてこんな大人数で撮ったことがあっただろうか。
(パソコンにも入れとくか♪)
その時、不意に姫川と神崎に肩を叩かれた。
「上機嫌に戻ったとこ悪いけどよ…」と神崎。
「…お待ちかねの搭乗時間だ」と姫川。
同時に、さっと青ざめる因幡の顔。
ここまで来て、帰りも飛行機だと思い出す。
「オ、オレ…、海泳いで帰るわ」
「無茶ぶり言い出したっ!!」
「オラッ、腹くくれ!!」
「え、やだ、あ、ちょっと!! まだ心の準備が…―――!!」
神崎と姫川に腕をつかまれ、ケータイを持った状態のまま、攫われる宇宙人のように飛行機へと連行される。
「ちゅら―――いっ!!!」
ずるずると引きずられ、ケータイの水色のちゅら玉がゆらゆらと揺れた。
.To be continued
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