46:修学旅行に行きましょう。
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HRが始まると同時に、教卓に立った早乙女が唐突な発言をした。
「修学旅行に、行くぞ」
「あ?」
石矢魔生徒の誰もが怪訝な顔をした。
「明後日から、聖の連中が行く沖縄に、便乗する。なにか質問のある者はいるか?」
そこで古市が小さく手を挙げた。
「いや待ってくださいよ。質問だらけっスよ。そもそもオレら、金も出してないのに行けるわけないじゃないっスか」
もっともだ。
聖石矢魔は石矢魔の校舎が直るまで間借りしているだけで、学費も払っていないのだ。
実際に払うとなると、石矢魔の数倍の金額になる。
なのに、他校の修学旅行に便乗するなど図々しいにもほどがあった。
それを教師が発言しているから問題だ。
「てゆーか、まず、全員学年違いますし」
それも正論であり、そこは早乙女も素直に頷く。
「確かにな。そこはオレも懸念しているところだ。―――だがな、この機を逃しては、おまえらは一生後悔することになると断言しよう。何故かわかるか?」
そこで頬杖をつきながら聞いていた大森が口を開いた。
「てゆーか、ウチの学校って修学旅行なんてあったっけ?」
「ねーな。オレ行った覚えまったくねーもん。3年なのに」
あっさり答えたのは神崎だ。
(マジか)
(ヒデェ学校だな…)
古市に続き、因幡も思う。
「そうっ、それだ!! なんと石矢魔には修学旅行という行事が存在しない。何故なら設立当初から先輩がたが、行く先々で他校とはもめ他校とはもめ、3年目にしてついに修学旅行は廃止になってしまったのだ」
大阪、名古屋、京都など、どこへ行っても毎年石矢魔生徒は大暴れし、その土地に伝説を残した歴史がある。
「オレが入学した頃にはもう、修学旅行どころか、遠足から体育祭文化祭まで、行事と名の付くものはことごとく消え去っていたものだ」
本当にそこは学校なのかと疑いたくなる事実にほとんどが唖然とする。
(父さん…っ!!!)
その頃には当然、元・石矢魔生徒であり、因幡の父親である日向もいたはずだ。
修学旅行に行けなかった日向のことを思うと、因幡は同情のあまり泣きそうになる。
(改めて思う。なんて学校に入学しちまったんだ)
ショックを受けている古市とは反対に、男鹿は「フーン」と興味なさげに鼻をほじっていた。
次に手を挙げたのは相沢だ。
「―――…つまり先生は、こんな機会めったにねーから、なにがなんでもごりおしで付いて行っちまおーぜと、そーいってるんですかい?」
「……………」
早乙女はしばし黙り込んだあと、教卓を両手で強く叩き、
「その通りだ!!!!!」
はっきりと認めた。
職員会議で聞いてからすっかり乗り気である。
(力強ぇ…)
(てゆーか…)
(この人が行きたいだけなんじゃ…)
誰もが同じことを考える。
「いいか、おまえら。大人になったらわかるがなぁ。修学旅行のねぇ高校時代なんてのは、ライスのねぇお好み焼きみたいなもんだぞ」
(それはどっちでもいいんじゃ…)
(オレ、ライスいらねぇ)
(関西人?)
(例えがビミョーなんだよ)
「とにかくっ!! 行くったら行くんだよ!! 湯上がり女子と楽しくお喋りすんだよっ!! オレは!!」
誰もが内心でつっこむだけで、目を輝かせるどころか大したアクションも返らず、ついに早乙女は駄々っ子のように怒鳴り散らす。
「うわ、キレた」と神崎。
「ちっ。なんだこのおっさん」と舌打ちして苛立ちを見せる大森。
「夜中こっそりみんなで好きな子の話するんだよっ!!」
「それはおっさん止める方だろ」と神崎。
「どんだけ後悔してんだよ」と因幡。
「わかります…。先生…」
そこでひとり、最初は渋っていたものの早乙女の後悔が伝わったのか涙を流す古市。
「うっとーしいのがくいついちまったじゃねーか」
「何言ってんスか、みなさん!! 沖縄っスよ沖縄!!」
「おおっ、おまえ!! わかってくれるか、おまえ…えーと、おまえ!!」
魅力的ではないのかと思わず席を立った古市に、早乙女は指をさして名前を言おうとしたが、それも教師としてどうなのか古市の名前を覚えていなかった。
「沖縄がどーしたのよ」
大森に問われ、古市は目をつぶって語りだす。
「いいですか、みなさん。想像してみてください。沖縄といえば、海!! そして海といえば…」
想像の中で、沖縄の海の景色と、女子の楽しく騒ぐ声が聞こえてきたとき、
「深海生物か?」
そこで水を差したのが男鹿だ。
想像がいきなり深海魚に切り替わり、想像に浸りかけた当然古市はキレる。
「死ねっ!! すべての読者に謝って死ねっ、おまえは!! 沖縄まで行って、なんであんなエイリアン見なきゃなんねーんだよっ!!! 水着だ!! 水着!!」
本気の古市。
「カテナチオかってくらい、普段ガードの堅いうちの女子達も、南国の海という解放感から大胆になるわけですよ」
「誰がカテナチオか」
女子の怒りを買っているとも知らず、古市はしつこく語る。
「あぁ。想像しただけで胸が躍るじゃないですか。いつも見なれたあの娘は一体どんな水着を着てくるのか……」
沖縄の海にて、「待て待て~~~」と追いかける古市と早乙女から、水着姿の大森達はきゃっきゃっと砂浜を走って楽しく逃げる。
「ロリコン」と谷村。
「クソキモーイ」と大森。
「つかまえられたら舌かんで死ぬー」と飛鳥。
「パネェー」と花澤。
きゃっきゃしてるわりに普段のイメージから言葉は辛辣。
「どうした、早く塗らんか」
シートの上でうつ伏せになり、サンオイルを要求するヒルダ。
「じっ、じろじろ見るんじゃないわよ」
浮き輪を片手に、恥ずかしげな邦枝。
「この水着、胸…きついんだけど…」
ビーチボールを右腕に抱え、恥ずかしげに自身の水着を見下ろす因幡。
「誰だ今想像した奴っ!!」
古市につられて想像した誰もが黙った。
「ちょっ、何想像してんのよ。サイテー。てゆーか、寧々まで…。古市…、アンタもよくそこまで全快になれるわね」
「もういいんです。どーせオレはヨゴレですから」
邦枝に引かれようが、古市は鼻血を垂らしながら笑顔で開き直る。
「キモ市、それ全部アランドロンに変わるパターンだぞ? 学習しろ」と男鹿。
「どーでもいいけど、この時期、いくら沖縄でも海はムリよ?」と大森。
季節は、すっかり肌寒くなった冬に近い秋。
南国の沖縄といえど、海に入るのは躊躇われる。
「ア―――」
ベル坊が眠さのあまり欠伸をしたとき、男鹿の前の席でベル坊を抱っこしていたヒルダは「修学旅行とは…、なんだ?」と肩越しの男鹿に尋ねた。
「あ? 旅行だよ、旅行。学校の連中といく旅行。侍女悪魔の学校でそーゆーのなかったのか?」
「…ああ、サバトのことか」
儀式的なアレ。
「サバトじゃねーよ」
「でもいーっスよねー、沖縄。オニいきて――っス。ウチ、ちんすこうのこと、ずっとやらしー食べ物だと思ってたんスよねー」
そう言う花澤に、前の席の大森は呆れている。
「いーわよ、そんなどーでもいいカミングアウト。何いってんの?」
花澤と同じことを考えていたのか、神崎は黙り込んでいた。
「アハハ、確かにこのメンツで行くのは楽しそーだね」
それを聞いた前の席の谷村は、PSPを取り出して肩越しに「またゲームやりますか」と目を輝かせる。
沖縄に行く前提で盛り上がってきたところで、「ま」と姫川。
「ゴホン、あれだ」と神崎。
「たまには」と因幡。
「貧乏旅行で」と姫川。
「沖縄ってのも」と東条。
(((((いいかもなっ)))))
全員が席から立ち上がった。
「よぉし、おまえら、職員室にのりこむぞっ!!」
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