45:くしゃみをしないでください。
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部屋は薄暗く、日はとっくに暮れている。
「…!」
目が覚めた因幡は、自室から聞こえる寝息に身を起こした。
カーペットが敷かれた床には、神崎と姫川がテーブルに伏せて眠っている。
「おまえら…」
一度起こされたかと思えば、とんでもない毒物を口に入れられ気絶した夢を見た気がしたが、神崎と姫川が来たことは夢ではなかったようだ。
“ずっとかかりっきりじゃったぞ”
「シロト」
右靴がベッドの上で軽く跳ねていた。
“バカめ。神崎の分の負担をすべて背負うからそんな目に遭うんじゃ。それに、強くなったのは攻撃性だけで、防御性はそのまま…。死ぬ気か”
フィフニールから受けたダメージもまだ癒えていない。
「それは嫌だな…」
因幡は苦笑し、軋む体に顔をしかめながらもベッドから降り、クローゼットからタオルケットを2枚取り出し、神崎と姫川にかけてベッドに腰掛けた。
“あまりアイシングドロップ(分け与う滴)は使うな。貴様のことじゃ。どうせ懲りもせず負担を負う気じゃろう”
「たぶんそうするだろな…」
“まったく…。ようやく2人の影響も消えたというのに…”
神崎と姫川にはもうウサギ耳は見当たらない。
因幡が負った負担が落ち着いたからだろう。
シロトの一部とリンクしているため、衰弱した契約者の影響を受けてしまっていたとシロトは言う。
「まあ、余程のことがねえかぎりは使わねえよ。使ってもなるべく短時間で済ませるから」
そう言って微笑んだ。
その時、ドアが開き、頭に三角巾をつけてコハルのエプロンを着た城山が入ってきた。
「起きたか、因幡」
「家政婦さんっ!!?」
おそろしいほど似合う。
城山の両手にはおかゆの入った鍋が持たれていた。
右腕にはビニール袋に入った薬がある。
「オレが作ったんだが、食べてくれ。それとこれ、事情を聞いた夏目がおまえにと…」
ただの卵粥ではなく、ほのかにカニの匂いがして、きゅ~、と腹の虫が鳴った。
因幡はサイドボードの上に載せてもらい、レンゲを渡される。
「熱いから気を付けろ」
「悪いな。ありがとう」
「…神崎さん達にも、起きたら感謝しておけ。ずっとおまえの看病をしていた」
「ああ」
ぼんやりと、汗を拭かれていたことや、冷えピタを貼られていたことを思い出す。
それが元に戻りたいがための自分のためなのか、熱で苦しむ因幡のためなのかは、因幡にとってはどうでもいいことだった。
そのくすぐったさに、はにかむように笑った。
「それじゃあオレはこれで…」
「帰るのか?」
「ああ。家族の夕飯の支度があるからな」
「大変だな、大家族だと」
「大家族とまでいかなくても、おまえのところも相当大変そうだ」
城山は、精神的にも瀕死状態のコハル達を思い出して苦い顔をする。
「今日はわざわざどうも」
因幡が改めて礼を言うと、城山は「ちゃんと温まって寝ろ」と母親のようなことを言って部屋を出た。
階段を降りると、ちょうど帰ってきた日向と出くわす。
「お邪魔しました」
「ああ、お気をつけて…」
礼儀正しく一礼し、エプロンを外すのを忘れて玄関を出ていく。
日向は靴を脱いでから、はっとするように勢いよく玄関に振り返った。
「家政婦さんっ!!?」
熱は引いたが、因幡は体を万全にするため3日ほど学校を休んだとか。
.To be continued