44:さぁ、合いの手を。
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フィフニールの脳内に、疑問ばかりが浮かぶ。
明らかに、因幡の魔力の量が、神崎と一緒に戦っている時より格段に跳ね上がっているのだ。
鎖を断ち切ったはずなのに。
じわじわと焦りが芽生え、頬を冷や汗が伝う。
「のんびりしていられねえんだ…。さっきみたいに、飛ばしてこいよ」
挑発的な因幡の言葉に、フィフニールのこめかみがピクリと動いた。
(この私が気圧されるなんて…、あるはずがない!!)
フィフニールは両脚に魔力を纏わせ、漆黒に染める。
「ブレイクダンス…? あの下品なダンスで私を倒すって…? ありえないわ」
ヒビが刻まれるほどの勢いで地面を蹴り、人間の目ではとらえないほどの速度で因幡の目前に詰め寄る。
「!?」
すると、突然、因幡が視界から消えた。
(消え…!!?)
ドッ!!
「っ!!?」
因幡はフィフニールが距離を詰めたと同時に、地面に手をつき、両足でその腹を蹴り上げたのだった。
宙で血を吐くフィフニールは、目の端で、ジャンプしてこちらに近づく因幡に気付き、体勢を変えて蹴り落とそうと右脚を振り上げる。
2人の脚がぶつかり合うと、衝撃波が巻き起こった。
相手に当てようと空中で攻防戦が繰り広げられる。
因幡の攻撃は、フィフニールと初めて戦った時より、荒々しかった。
無茶苦茶に見えて正確に狙いを定めてくる。
攻撃の一撃一撃が重く、フィフニールも驚きと焦りを隠せずにいた。
(なにコレ…! テンポが…読めないっ!!)
「わからない…っ!! なんであなたみたいなコが、人間と!!?」
首に迫る因幡の脚を右腕で受け止め、その衝撃に顔をしかめながらも問う。
「…てめえは、さっき、オレがあいつらと肩並べようとしてるって言ったよな…。昔は、オレと肩並べようとしてくれる奴なんていなかった…。オレから並ぼうとしたこともあったけど、向こうがそれを拒絶したんだ」
フィフニールが右腕を払うと、因幡は後ろに飛んで着地する。
それと同時に、フィフニールの振り下ろされた左脚が右肩に直撃した。
「うっ!!」
脳裏をよぎるのは、夜叉のメンバーと、遠巻きにこちらを怯えた目で見る、前の学校の生徒たちだ。
なめられてなるものかと男のなりをしたことで、友達を失った。
仲間ほしさに夜叉に入ったことで、裏切りの辛さを知った。
次こそはと新しい町の高校に転校し、自分が忌み嫌われる存在だと気付いた。
終わりはいつも孤独なものだった。
隣を見ても誰もいない。
最初から誰もいなかった。
『(もういいや。オレはもう、ひとりでいい)』
いつしか、それでいいと思っていた頃もあった。
その方が気楽だと。
それが自分に対する欺瞞だと知りつつも、そうでもしないとまた身が裂けるような思いをしてしまうことを危惧していた。
だから、天下の石矢魔の頂点に立つことで、誰もが恐れ、その強さを、自分の存在を認めさせてやると決めたのは、ずっと孤独でいることを決意したのと同時だった。
神崎達と出会い、その決心が崩れてしまったのはいつからだろうか。
次に脳裏をよぎったのが、黒狐に勝利したあとの神崎と姫川との下手くそな二人三脚、ノーネームに勝利したあとの駅で待っていた神崎と姫川、神崎達との放課後の帰り道だ。
その隣の居心地のよさに、気付けば石矢魔のトップの座を諦め、代わりに、自分を倒した2人に最強でいてほしいと願うようになったのも、いつからだろうか。
フィフニールの右脚が因幡の胸の中心を蹴り上げ、真上の宙へと飛ばされる。
尻尾の鎖が、火が点いた導火線のように短くなっている。
“ラビットテイル”の効力も、もう数十秒ももたないだろう。
本当は、神崎といる時もやろうと思えば、今のように魔力を限界まで出すこともできたのだ。
ただ、そうしてしまえば、今の姿を晒すことになる。
それだけは意地でも避けたかった。
それと、シロト曰く、魔力を引き出すほど普通の人間である神崎の体に負担をかけてしまうらしい。
戦いの最中、そんな気を遣うなんてシロトに言わせてみれば「甘ちゃん」だろう。
「また、あなたの負けよ!!」
因幡より高く飛んだフィフニールがトドメをさそうと、右脚を因幡の首目掛け、ギロチンのように振り下ろす。
(オレの負け…?)
「冗談じゃねえ」
「!!?」
因幡は宙で体勢を変え、振り下ろされたその右脚を両脚で挟み、勢いをつけて身をよじった。
「オレが負けたまんまなのは…、あいつらだけでいいっ!!」
「な…っ!!?」
因幡とフィフニールの上下が逆転した。
フィフニールを自分の真下にやると、因幡はフィフニールの右脚から離れると同時に宙でスピンし、脚に勢いをつける。
「…っ!!」
危機を感じ取ったフィフニールは体勢を変えて避けようとしたが、その前に、
ドゴッ!!!
因幡の蹴りがその腹に炸裂した。
「ぐは…っっ!!」
とんでもない速度でフィフニールは落下し、地盤が割れた。
舞い上がる土煙の中、因幡は地面に着地する。
「はあ…っ!」
大きく息をつき、割れた地盤の中心で仰向けになってピクリとも動かないフィフニールを見、乱れたオールバックを撫で付けて直した。
その口元には、勝利の笑みが浮かんでいる。
「借りは返したぜ。…オレの…―――」
ドオオォン!!!
「!」
時計塔の方から、轟音が聞こえた。
地鳴りがおさまると同時に、辺りの殺気だった空気が薄れていくのを肌で感じ取る。
「…―――オレ達の、勝ちだ」
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