42:ただいま修行中です。
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コハルを保健室に運んだあと、桜が長い竹ぼうきを手に戻って来た。
「―――というのは冗談で、ここからは私が引き継ぎます」
「姉貴が?」
「ええ。修行方法は鬼ごっこ。グラウンドから出ずに私から逃げ続けてください」
「「「「「鬼ごっこぉ?」」」」」
全員が声を揃え、首を傾げた。
桜は楽しげに微笑んでいる。
「私の持つ竹ぼうきに触れた人はアウト。5分間動いてはいけません。過ぎたら逃亡を再開してください。また追いかけます」
本来の鬼ごっこなら、タッチされた逃げ役は鬼になって他の逃げ役を追いかけるものだ。
変わったルールに不思議そうな顔をした因幡達だったが、修行というのなら受けなければならない。
早乙女の修業より、遊びもあって気も紛れるだろう。
「では…、スタート!」
同時に、桜はすぐに古市の懐に潜り込み、その肩に軽く竹ぼうきを当てた。
「…!!」
瞬間、古市の脳裏に昔の記憶がよみがえる。
あれは、小学3年の頃だ。
『せんせー! 古市君が女子トイレに入ったー!』
『うわー、古市君、女の子だったんだぁ』
『オカマだったんだぁ』
『間違えただけだよぉ!! 間違えただけだよぉー!!』
「ぎゃああああああっ!!!」
封印していた屈辱の過去に、顔から火を噴いた古市は頭を抱えて悲鳴を上げ、その場に膝をついた。
「どうした古市ぃっ!!?」
突然の古市の様子に、男鹿を含め全員がぎょっとした。
桜は笑みを浮かべたままだ。
「さぁ、ほら、逃げないと…」
不気味に首を傾げる桜に、因幡も思わずあとずさる。
一瞬だけ、竹ぼうきが蜃気楼のように揺らいだ。
一瞬見えたのは、悪夢の幻影を見せる大鎌“ファントムサイズ”だ。
全員の目には、ただの竹ぼうきに見えるよう幻術がかけられてあった。
『逃げろ――――ッ!!!』
その残酷さを知っている因幡は誰よりも早く逃げ出した。
古市は未だに「違うんだ。違うんだ…」とうずくまったまま独り言を呟いている。
それでも、5分しか動いてはいけないのだ。
動きたくなくても。
桜の動きは俊敏だ。
いつものおだやかな雰囲気では想像がつかないほど。
次に狙われたのは、神崎だ。
背中に竹ぼうきが当たる。
「!!」
あれは、5つの頃。
夜中にこっそりヨーグルッチを飲んでやらかしてしまったことだ。
『若ぁ、ヨーグルッチ飲み過ぎておもらしっスか?』
『いやぁ、しかし見事な日本地図だ。日本、鏡みたいに反転してるけど』
『若、将来は大物っスね!』
組員総勢30人が、外に干されたおもらし布団を鑑賞しては、悲しいフォローをしていたとか。
「おもらしで判断するんじゃねえええええっ!!!」
「おもら…、なに?」
因幡は思わず気になってしまう。
今度は姫川がやられた。
こちらは8つの頃。
小学校の帰り、迎えに来た蓮井は姫川の異変に気付いた。
『竜也坊っちゃま…、リーゼントが、45度右に曲がっております』
『……っ!!!』
「あの時、一体いつから…っ!!!」
「そんな寝ぐせ気にするみたいにっ!? 女子かっ!!」
つっこんでいる間に、目の前に桜の影が迫る。
「あ…」
こつん、と額に当てられた。
小学3年生の頃。
まだ女の子らしい女の子時代の因幡だ。
「次、因幡桃ちゃん」
「はい。…3年3組、因幡桃。作文、“将来の私へ”…。私は将来、キレイでおしとやか、幸せなお嫁さんになるのが…」
「やぁめろおおおおおおっ!!!」
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