41:踊っていただけませんか?
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聖石矢魔に戻ってきた古市達。
因幡は神崎達に保健室に連れて行かれ、ベッドに寝かされた。
同時に緊張の糸がぷつりと切れたように意識を失う。
“おっそー”
“ガキみたいにとろいダンス”
“ガキはガキね!”
“できないことをしようとするのが、ガキだって言ってんの”
“ガキ、おこちゃま、デコ出しオールバック、チビィ~、新章始まったからって調子に乗ってんじゃないわよ、バーカバーカ”
そこまで言われてないのに、因幡は眉をひそめてうなされる。
「このアマ…、ブッ転がす…っ!!!」
がばっ、と勢いよく起きると、そこは保健室ではなく、ただの白い空間だった。
四方八方見ても、白一色の無風の空間。
「…あれ?」
確か保健室に寝かされたはず、と身を起こして立ち上がる。
(まだ夢の中ってことか…?)
冷静に考えながら、進もうと足を踏み出したとき、右靴がないことに気付く。
「…?」
足下を見回しても、右靴は見つからない。
まさかどこかで落としたのではないかと不安になりながらも、片方が靴下のまま先に進んでみることにした。
そこで背を向けて座りこんだ人影を見つけた。
(人…?)
警戒しながら、それに近づく。
地面につくほど腰まで伸びた真っ白な髪と、銀色の高価な着物を身に纏っていた。
声をかける前に、あちらから口を開いた。
「言わんこっちゃない…。あれほど引き止めた結果がコレじゃ…。ここか? ここはおヌシが夢というものを見る時に使用する空間を、ワシが間借りしとる」
「……おまえ…」
その口から漏れる低音は男の声だ。
ふぅ、と吐息を漏らすと、煙が宙に浮かび、煙管を吸っていることがわかる。
「シロトか?」
因幡が尋ねると、頷いたシロトは右肩越しに振り返り、その横顔を見せて薄笑みを浮かべた。
それを見た因幡は目を見開く。
見知った顔がそこにあったからだ。
「姫川!?」
わかりやすく、色眼鏡までかけている。
「ほう? じゃあこちらは?」
次にシロトは左肩越しに振り返った。
耳と唇を繋ぐチェーンと、アゴのヒゲ、頬の傷と、先程の顔とはまったくの別人になっている。
「か、神崎…!」
「ふむ…。おヌシの目にはそう見えるのか…」
立ち上がったシロトはそのまま左向きに振り返り、正面を向いた。
さっきの右顔は姫川だったのに、神崎の顔のままだ。
驚く因幡の顔に、煙管の煙を吹きかける。
「げほっ、げほっ」
「ワシには実体がないからのう。おヌシのイメージがそうさせとる…。コハルの時は、確か日向じゃったのう」
「おま…っ、けほっ、男だったのかよ…」
煙たさに噎せ、目の前に漂う煙を手で払いながら、因幡は問う。
神崎顔のシロトは目線を上に向け、首を傾げた。
「ワシにオスメスはないんじゃが…、まあ…、ほとんど男の姿で出て来たことじゃし…。今も、タマついとるから男でよいのじゃろう」
気だるげにそう言って自らの下半身をぽんぽんと軽く叩く。
「ついてる言うな。その顔で」
「―――それで、感想は?」
「感想?」
「本物の悪魔と戦って、危うく殺されかけて…、どう感じた?」
「…!」
傷口が痛み、フィフニールと対決した場面が脳裏をめぐる。
シロトの言う通り、ヘタをすれば殺されていたのかもしれない。
日常の不良達を相手にするのとはわけが違った。
シロトは背を向ける。
「前回、魔界に行った時、オブトの一族とその長と戦ったようじゃが、あれは魔界だからよかったのじゃ。おヌシが元から持ち合わせている魔力も格段に跳ねあがるからのう。今回は条件が悪すぎた。ここは人間界で、相手は戦闘部族…しかも柱爵…。あの無様な戦いぶりで、身の程を知ったじゃろう」
「……………」
右方向へ振り返ったシロトの顔は、今度は姫川になっている。
目を合わせると、真っ直ぐな因幡の視線があった。
「シロト、あいつに勝つにはどうすればいい?」
その闘志は消え失せていなかった。
「…わからんか? ワシは忠告をしとる。また死ににいくつもりか? おヌシの命はワシの命じゃ。忘れるな」
それでも因幡は食い下がる。
数歩、シロトに近づくと、コブシを突き出してその胸を軽く打った。
「その顔でごちゃごちゃ言うな。オレはてめえの契約者だ。最後まで付き合ってもらうからな」
力強い言葉に、シロトは呆れたように項垂れる。
「諦めの悪さはやはり親子じゃな…。まったく…。ワシは、おヌシの魔力を調整しているにすぎん…。蛇口の栓と同じじゃ。おヌシの意思に合わせて緩めたり締めたりするだけ…。今のワシにはそれしかできん。神崎と姫川の“尾”と“皮”があれば、おヌシの力になれるんじゃが…。ないものねだりしても仕方あるまい。コハルか、早乙女に修業をつけてもらえ」
そう言ってシロトは煙管を吸い、煙を吐いた。
「思うんだけど、あの2人って一体どういう関係なんだよ…? 昔付き合ってたとか?」
「家を飛び出したコハルを、早乙女らが保護しとった。どちらも大戦にも参加したことがある…。ちなみに、日向とコハルが出会っておヌシが生まれたのも、早乙女のおかげじゃぞ。日向はヤツの舎弟だったからのう」
「父さんがっ!?」
「とは言っても、ワシの目から見ても、「禅さん禅さん」と犬のように勝手についてまわったことしか覚えがない。コハルは腐った目で見守っておったが」
その頃からコハルが腐女子だった事実が発覚し、両親の過去に因幡はなんともいえない複雑な気持ちになる。
「早乙女、薺、コハル、日向…。戦い後の休息はいつも4人で楽しく飲んでおった…」
「……………」
「桃、死んでくれるなよ? おヌシは貴重な…――――」
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