41:踊っていただけませんか?
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フィフニールは因幡から飛び退き、古市の前に着地した因幡の様子を窺う。
「因幡先輩ぃ―――!! 待ってましたぁ―――っ!!」
相手の出方を窺っていたのに、いきなり古市は泣きながら因幡の背中に抱きついた。
ゴキンッ!
間髪入れずに古市の頭を踏みつけてにじる因幡。
見事に床にめり込んだ古市の顔面。
「おう、てめーらも無事でよかった」
「おまえオレ達より先に走ってなかったか?」
尋ねる神崎に、因幡は顔をしかめる。
「その名の通り、足止め食らってたんだよ」
苛立ちをぶつけるように、右足の爪先を床で叩く。
シロトは「忠告をしてやったというのに…」とブツブツと文句を言っていた。
「石矢魔の奴らが仲良く並んでめり込んでたの見かけて来てみりゃ…、妙な連中に乗っ取られてるみたいだし…」
ちなみに、昇降口のドアが開かなかったため、突き破られた窓ガラスから侵入したという。
「ねぇねぇ、あなた、どうしてソッチにいるの?」
「あ?」
フィフニールに声をかけられ、因幡は睨みつける。
「どうしてそんなトコにいるの? あなたは、コッチでしょ?」
「…!」
不思議そうに因幡を見つめ、首を傾げるフィフニールに、因幡は彼女の言いたいことを察する。
どうして人間達といるのか。
フィフニールは、因幡から漂う魔力の匂いを嗅ぎとったのだろう。
「ねぇねぇ、どうして?」
「当ててみろよ」
女とはいえ、相手は悪魔。
目を合わせるだけで殺気が伝わってくる。
先程も本気で古市を殺そうとしていた。
周りは襲い来る人影の群れで、ここを切りぬけるにはフィフニールを倒して、あとは周りのザコを蹴散らすしか逃げ道が作り出せない。
瞬時に考えた因幡は、地面を蹴り、フィフニールに突進して蹴りにかかる。
「ワタシと踊ってくれるの?」
楽しげに声を弾ませるフィフニールの顔面目掛け、因幡は回し蹴りを食らわそうとした。
数秒遅れたフィフニールも、素早く一回転して回し蹴りする。
再び激突する2人の右脚。
互いの爪先が互いの顔面で止まる。
だが、
「…!?」
因幡は、鼻先にツンとした痛みを感じたかと思えば、鼻から、ツゥ…、と鼻血が垂れた。
「っ!」
数歩、フィフニールから後ろに下がり、左手で鼻を覆った。
因幡の強さを知っている神崎達も目を剥いて驚く。
「ウソだろ…! どっちも当たってなかったのに…!」と神崎。
「なんで因幡が…!」と城山。
フィフニールはその様を見て、見下すような目で馬鹿にするように笑っていた。
因幡は目付きを鋭くさせ、右手の甲で鼻血を拭い、小声でシロトに呼びかける。
「シロト、ちょっと本気出すぞ」
因幡の瞳が真っ赤に染まる。
爪先を床で、とんとん、と鳴らし、近くにいた人影を5人ほどフィフニールに向かって連続で蹴り飛ばした。
「あれは、葵姐さんに使った時の…!」
大森は、邦枝と因幡が戦った時のことを思い出す。
邦枝の時は、人ではなく机と椅子だった。
フィフニールは口元の笑みを絶やさずそれを体を反らして避ける。
目を閉じても避けられると誇示するように、瞼を閉じていた。
「ねぇねぇ、それだけ? !」
目を見開いた先に、因幡の姿はない。
「んなわけねーだろ」
その声は背後から聞こえた。
人影を蹴り飛ばすと同時に床を蹴り、その陰に隠れながら突進し、フィフニールの背後に回り込んだのだった。
「後ろを取った!」
そう声を上げたのは姫川だ。
因幡は勝利を確信した笑みを浮かべ、右脚をその脇腹に打ち込もうとした。
「ねぇ、それだけ?」
「!!?」
はっと気付けば、今度はこちらが後ろに回り込まれていた。
渾身の一撃を食らわそうとした右脚は空振りしてしまい、勢いは止まらずにバランスを崩して体が傾いてしまう。
「おっそー」
ドゴッ!!
「…っが!!」
因幡の腹に、フィフニールの勢いのついた後ろ蹴りの足裏がめり込み、蹴りあげられて真上へ飛ばされる。
それだけでは終わらず、フィフニールは大きくジャンプし、真っ逆さまに落下してくる因幡の背後に近づき、
ゴッ!!
空中で一回転して因幡の背中にまたも強烈な蹴りを打ち込んだ。
蹴り飛ばされた因幡の体は3階の壁にヒビを刻むほど強く打ちつけられ、床に落下して仰向けに倒れ、「ごぷ…っ」と口から血が流れ出る。
「因幡っ!!!」
「因幡ちゃんっ!!」
「先輩!!」
神崎達が駆け寄ろうとすると、フィフニールが立ち塞がり、全員が足を止める。
「ねぇねぇ、さっきので、死んだと思う?」
「死ぬようなタマなら苦労してねえよボケが!! そこどけやっ!!」
神崎が怒鳴りながら右腕で払うように横に伸ばすと、フィフニールは小さなため息をつき、落胆するような目を神崎達に向け、「ねぇねぇ、もう蹴り殺してもいい?」と小さく尋ねた。
「「「「「!!!」」」」」
その殺気に胃が締めつけられ、冷や汗が流れる。
「…!」
倒れた因幡の周りを取り囲んでいた人影達が弾き飛ばされた。
そこには、口から血を吐きながらも自力で立っている因幡の姿があった。
「殺した気になってんじゃねえよ…、クソアマ…!」
ゼェゼェと息を荒くしながら、鋭い目つきを向けている。
瞳から窺える失せない闘志にフィフニールは「あはっ」と滑稽に笑った。
「…ガキみたいにとろいダンスだったクセに、めげないのね…。ねぇ、なに?「オレの仲間には一切手出しさせないぜ」的なアレなの? ぷっ! あははははっ、面白いわね、あなた! コッチの血が混じってもガキはガキね!」
「あ゛?」
腹を抱えて笑いだすフィフニールに声を荒げると、フィフニールは因幡に歩み寄り、そのアゴを右手でつかんで上を向かせ、その耳に冷たく囁く。
「できないことをしようとするのが、ガキだって言ってんの」
「…っ!!」
声を失うほど、因幡の腸が煮えくりかえる。
瞳は大きく見開かれ、血が出るのではないかと思うほど唇を噛みしめた。
神崎達に目をやると、迫る人影の群れを蹴散らしながらこちらに駆けつけようとしている。
「ねぇ、あなた達もやめたら? 仲間同士で争うの」
「あ!? なに言って…!」
「あっ!!」
そこで城山が、人影の群れの正体に気付いた。
「石矢魔の生徒ですよ!! こいつら!! 聖石矢魔以外の学校に転校したはずの…!!」
この空間が薄暗くて気付かなかったが、全員、石矢魔の学ランを着た石矢魔の不良達だ。
あれほど蹴散らされたというのに、その不気味な笑みは消えず、意識を奪われているのか白目を剥いていた。
「「「「「!!!」」」」」
「フフッ。その通りじゃ…」
全員が驚く中、場違いな幼い声が空間に響き渡り、神崎達はその場で辺りを見回す。
「!?」
「誰だっ!?」
(―――…この声…!!)
古市はその声に聞き覚えがあった。
「確かにそやつらは、貴様らの仲間だった者達…。だが今は、余の忠実なしもべ達じゃ…」
「あそこっ!!」
花澤が指をさした2階の吹き抜けを見上げると、そこには欄干に立つ焔王と、その傍らにピエロのような格好をした男が立っていた。
「久しぶりじゃの、古市…」
腕を組み、口元に不敵な笑みを浮かべて古市達を見下ろす焔王。
(…焔王…)
「―――焔王…!!」と古市。
「てめぇ、こらガキ!! どーゆーこったこれは!!」と神崎。
「そーだそーだ!!」と花澤。
「ここはアタシらの学校だよっ!! とっとと出ていきな!!」と大森。
「つーか死ねっ!!」と飛鳥。
「フッフッフッ」
神崎達の罵倒の嵐を浴びせられながらも、焔王は不敵な笑みを浮かべたまま立っている。
「クソガキ!! なんだあの趣味の悪い銅像は!! 一つ残らず叩き割ったろか!!」と神崎。
「つーか死ねっ」と飛鳥。
「大体、なんでウチの学校の者がてめーのしもべなんだよ!! いくらだ!? いくらで買収した!? オレがその3倍出すぞ!!」と姫川。
「死ねーっ」と飛鳥。
「……………コアトルー」
さすがに全部受け流すことができず、焔王は傍らのケツァコアトルに泣きついた。
「よしよし」
気を取り直して、ケツァコアトルは「え―――…」と言って咳払いする。
「申し遅れました。私、ベヘモット柱師団柱爵・ケツァコアトルと申します。まず最初にあなた方のお仲間達、これは買収したわけではありません」
「いくらだ」と叫んでいた姫川は「あ?」と反応した。
ケツァコアトルは人差し指を突き立てて説明を続ける。
「私がある方法で操っております。故に、彼らは私か坊っちゃまの言う事しか聞きません」
「操る…?」と城山。
「…催眠術か…?」と神崎。
現実味のない話だ。
「そして坊っちゃまはこうおっしゃってます。おまえ達の学校も仲間も余が預った。返して欲しくば余と勝負しろ…と」
「勝負…?」
焔王の代わりに言うケツァコアトルの言葉に、古市が怪訝な顔をして呟く。
「…?」
同じく、因幡も揺らぐ視界に映るケツァコアトルを見上げながら首を傾げた。
「この学園のいたる所にステージが用意してあります。そしてここには、我々、柱師団の誰かが待ち受けている。―――つまり、これは、ゲームです。坊っちゃまの大好きな。…あの時つかなかったゲームの決着を、愛と、誇りと、友と、絆と…、命をかけて」
ニヤリ、とケツァコアトルが口端をつり上げ、その視線は因幡のアゴをつかんだままこちらを見上げているフィフニールに移される。
「―――ですから、困るのですよ、フィフニール。柱爵だからといって、勝手なことをしていただいては。坊っちゃまの遊び相手を減らす気ですか…」
柱将より上の柱爵ならば、先程の桁違いの強さも納得がいく。
「ごめんね、コアちゃん。最近踊り足りなくて…。まあ、このコも、ワタシを満足させてくれなかったけど…ねっ」
フィフニールは因幡を一瞥すると、その胸倉をつかんで神崎達の方へと放った。
遊び飽きたオモチャを放り投げる子どものように。
すぐさま夏目が身を乗り出し、それを受け止める。
「っと!」
「………っ」
因幡は悔しげに歯を噛みしめ、フィフニールを睨みつける。
焔王は人差し指を突き立てた。
「一週間じゃ。一週間後、余の軍団が全員揃う。それまでに古市、せいぜい貴様らも、戦力を整えてくるんじゃな」
宣戦布告をしたあと、操られた石矢魔の不良達が昇降口へと続く道を開けた。
今は見逃す、ということだろう。
再び攻撃されてはたまったものではない。
この場はいったん退くべきだと判断した神崎達は、大人しくその道を歩き、外へと向かう。
因幡は城山に背負われ、すれ違いに、嘲笑うフィフニールの顔を見た。
「今度、あんな無様なダンスを披露したら、仲間ごと蹴り殺すから」
「……………」
因幡はなにも言い返すことができず、城山の背中に顔を埋めた。
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