04:育ての親より不良の親。
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因幡は神崎の教室の前で立ち止まり、そっと中を窺った。
窓際のいつもの席では、神崎が王のようにエラそうに座っていた。
他の不良と一緒にカードゲームをやっている。
その様子を見た因幡は「よっしゃーっ」と内心でコブシを握りしめ、ほくそ笑んだ。
(いつもオレの邪魔ばかりするヨーグルッチは奴の手元にねぇ! チャンスだ! 夏目と城山もいねーしな)
「よー、2年坊、なにやってんだ?」
「また遊びに来たんだろ。さっさと入れよ」
「!?;」
背後から登校してきたばかりの3年の生徒に声をかけられ、はっと振り返った因幡は「お…、おう…」と動揺を隠した返事を返し、堂々と中に入った。
「よぅ」
「よ…、よぅ…;」
神崎の挨拶に因幡も返す。
どうしてこんなに自分だけ緊張しなければならないのか。
(つうかおまえら慣れ過ぎだ! オレ一応おまえら襲撃した奴だぞ!;)
もう警戒心もなにも持たれてないといった雰囲気だ。
ならば、今日この場で思い出してもらおう。
因幡は神崎がやられて仕返しにくるだろう教室にいる生徒達の数を数え、ずんずんと神崎の席に近づいていく。
今はカードゲームの真っ最中。
突然顔面を蹴られても避けられはしない。
助走をつけようとしたとき、
「神崎くーん、ヨーグルッチ買ってきたよー」
背後からの夏目の声に、思わず立ち止まってしまう。
振り返ると、夏目と城山が持っている、ビニール袋にたくさん入れられたヨーグルッチが最初に目に留まってしまう。
「く…」
トラウマ持ちの因幡は、予定していた大胆な行動を抑えられてしまう。
「あれ、因幡君来てたんだ? 今日は早いね」
「おう夏目ー、因幡にあれ渡してやんな。…よっしゃ、あがり!」
ドベを免れた神崎の言う通り、夏目は袋を漁ってそれを取り出し、因幡に渡した。
「はい。トロピカルフルーツ味のキャンディー」
渡されたのは、ポップキャンディーだった。
「…は?」
「あれ? 忘れちゃった? 昨日神崎君とオセロして勝った賞品。今日渡すって言ってあったのに…」
因幡はあっと昨日のことを思い出し、素直にそれを受け取った。
「おい因幡、こっち混ざれよ。昨日のリベンジだ。今日のオレはマジできてるぜ」
「フン、なにを言ってんだか。さっきので運使い果たしたんじゃねーの?」
鼻で笑う因幡は早くも勝ち誇った笑みを浮かべながら神崎の席に近づいた。
そこではっとなる。
(って違ぇよ!!! カードゲームで勝とうとしてどうする!! ケンカだ!! ケンカで倒しに来たんだろが!!!)
今回は早くも初心を思い出し、席に着こうとして動きを止める。
「? どうした?」
神崎は城山からヨーグルッチを受け取り、因幡の様子に首を傾げた。
「…悪い。ちょっと他にも用事が…。また今度…」
「具合でも悪いのか?」
因幡の背に声をかける神崎に、因幡はただ前を見たまま手を軽く振るだけだった。
(あいつも、もう少し警戒心を持てよ…っ)
廊下を渡りながら神崎に悪態をつく。
弱みを握られてはいるが、相手はそれを握ったままで振りかざそうともしない。
いっそ、「女だとバラすぞ」と脅してくれた方が蹴り飛ばしたあとにすっきりするというのに。
とにかく、相手を変えなければ。
姫川ならば、ヨーグルッチも持っていないし、いざとなったら弱みをちらつかせるかもしれない。
3-Bを通過するあたりで因幡はポケットからヒルダが落としたと思われるアメ玉を取り出し、包みを解いた。
気分を落ち着かせるため。
神崎…、正確には夏目からもらったポップキャンディーを先に手をつけなかったのはお楽しみのためだ。
アメ玉を口の中に放り込み、舐める。
「うわっ、甘っ。なんだこれ、砂糖の塊みたいな…;」
気合いを入れるつもりが、あまりの濃い甘さに眉をひそめた。
そんなことをしていると姫川がいると思われる教室はすぐ目の前にあった。
扉の、割れた窓からのぞくと自分の席に座って携帯をいじっている姫川の姿が見える。
「よし…、もうペースに巻き込まれるな。なにがあってもあいつに殴りかかる。あいつは敵。…よし!」
自分に言い聞かせるように言ったあと、心を決めて扉を開けようとした。
「…あれ?」
手をかける位置が高くなっている。
それどころか、どんどん縮んでいる気がする。
「なにが…あっても…;」
まさかこんなことになろうとは、因幡自身も周りも思わなかっただろう。
「ひ…、姫川さん…;」
「どうした?」
部下に声をかけられた姫川が肩越しに振り返った時だ。
「びええええええ!!!」
耳をつんざくよな泣き声が教室中に響き渡った。
「なんだなんだ!?;」
姫川は両手で両耳を塞ぎ、声を上げる。
「こんなもの! 拾いました!!」
泣き声でかき消されてしまわないように部下も大声を出し、両手のものを見せつけた。
「…は?」
部下が持ってきたのは、学ランの上着に包まれた赤ん坊だった。
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