04:育ての親より不良の親。
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学校へ向かう途中、ぶどう味のポップキャンディーをくわえた因幡は、家の屋根を飛び移りながら考え事をしていた。
(こっちへ引っ越してきて数日、オレ、確か初めは「石矢魔統一」が目的で意気込んでたのに…)
気がつけば、そんな目的を忘れたかのようにほぼ毎日神崎や姫川の教室に通い、だべっているだけ。
もっとよく考えれば、ケンカもあまりしていない気がする。
他の3年達は、神崎と姫川と親しくしているせいか、こちらも妙に親しく接してくれる。
(オレ、もしかして馴染みつつある!!?(汗))
ようやく自覚してしまい、空中で、ガーン、と間抜けな顔をしてしまう。
電柱の上で一度立ち止まり、腕を組んで考える。
「いやいやいや待て待て。前の学校じゃ相当な悪者扱いされていたこの因幡桃矢が、なんなんだ最近のこのていたらくは…」
前の学校の奴らに知られたらいい笑いものではないか。
あの因幡が簡単に自分の目的を忘れて不良達と仲良くやっている、と。
初心を思い出した因幡は「よし」とコブシを握りしめ、朝日を見る。
「今日から石矢魔統一再スタートだ!」
また神崎と姫川にケンカを売りにいこう。
元は勝手に決め付けた敵同士。
本来なら仲良くするべきではないのだ。
神崎と姫川の他にも、東邦神姫はあと2人、東条と邦枝がいる。
神崎と姫川を倒したあと、早速そいつらも倒しに行かなくてはならない。
なんて今後の予定を考えるとけっこう多忙なことになりそうだと気付く。
「よし! 全員転がしてやるぜ!」
電柱から飛び下りた時だ。
「!!」
「!?」
突然目の前に、見たことのない鳥のような生き物に乗った女が現れた。
驚きのあまり、因幡は咄嗟に避けることができずに女と衝突する。
「痛っ!」
2人は3階建ての住宅の屋根に落ち、因幡は尻餅をつき、女はふわりと着地した。
「なんだ貴様は…」
因幡は口にポップキャンディーをくわえながら声を上げる。
「そっちこそ、いきなり飛びだしてんじゃねーよ! つうかなにそのヘンな生き物! 鳥!? ダチョウか!?」
金髪美人の女の外見にも驚かされるが、その女が乗っていた鳥の方が驚きがデカい。
「邪魔だ。消えろ」
「…あ゛ぁ?」
この町に来てこんな生意気で周りを氷点下にするような冷めた目を持つ女に会ったのは初めてだった。
謝るどころか上等な口を叩かれ、因幡は頬を引きつらせた。
女は外国人なのか風変わりな外見をしていた。
見た目はゴスロリ。
右手にはオシャレな日傘を持ち、左手には哺乳瓶が見え隠れしている籠をぶら下げていた。
「てめぇ、名前は?」
「貴様のような無礼者に名乗る名などないわ」
「はははは…、じゃあ名無しのごんべとでも呼ばせてもらおうか」
「名無しのごんべ………」
「そうだ。てめぇのことだよ、名無しのごんべちゃん」
我ながら小学生のようなことを言っていると思ったが、効果的だったようだ。
女はショックを受けたかのようにうつむいている。
周りの空気も暗く淀んでいるのが目に見る。
そろそろ声をかけようかと思ったとき、女は日傘を折りたたみ、一瞬で因幡の懐に潜りこんできた。
「っ!」
反射的に体をそらし、女が横に振ったそれを避けた。
ポタ、とポップキャンディーの棒の部分が足下に落ちる。
「ヒルダ。覚えておけ、人間」
女―――ヒルダは仕込みの剣を構え、切っ先を因幡に向けた。
「へっ…、こりゃまた随分と物騒な女だな…。女をブッ転がす趣味はねえが…」
因幡は舐め終わったポップキャンディーの棒をプッと口から吐き出し、次の攻撃に備える。
どちらも睨み合い、互いの様子を窺う。
じりじりと先に因幡が動き出そうとした時だ。
石矢魔高校の予鈴のチャイムが鳴った。
すると、ヒルダははっとした顔になり、因幡は訝しげな顔をする。
「いけない! まだ坊っちゃまにミルクをお渡ししてないというのに!! 行くぞ、アクババ!」
あまり良いとは言い難い鳴き方で返したアクババに飛び乗り、ヒルダは因幡を置いて去って行った。
残された因幡は茫然とした顔でそれを見送る。
「な…、なんだったんだ…?;」
ヒルダが向かって行ったのは石矢魔高校だった。
「あいつ、石矢魔に用でもあるのか…。ん?」
ふと足下に丸いものが落ちていることに気がついた。
拾ってみると、透明な袋に包まれた白いアメ玉だ。
「アメ…?」
こんな住宅の屋根にアメ玉が落ちているはずがない。
すぐに、ヒルダが落としたものだと考える。
「これ…、届けた方がいいのか?」
かなりの確率でまたケンカが始まりそうだが。
「ちょっと! いつまでそこにいるつもり!? 警察呼ぶわよ!!」
「わっ! す、すんません!;」
この住宅の奥さまが出てきて、注意された因幡は次の屋根に飛び移って足早に学校へと向かった。
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