39:白と、黒と。
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因幡の家に呼び出された、神崎、姫川(未だにジャージ)、城山、夏目は、ダイニングのソファーに座りながら、目の前で正坐しているコハルを茫然と見つめていた。
「勝手な家出で、大変ご迷惑をおかけしました」
そう言って姿勢よく頭を下げる。
その横で立って腕を組んでいる因幡はそれを見下ろしながら、「おまえらだけには、どうしても真っ先に直接謝りたいってよ…」と言う。
「い、今までどこに…?」
城山が尋ねると、コハルは頭を上げずに答えた。
「知り合いの家で少しお世話になってたの…」
それは聞いてない、誰の家に泊まっていたのか、と因幡の中で疑問が浮かんだが、今は聞くべきではないと口には出さなかった。
「ちょっといいか…」
姫川は立ち上がり、コハルに近づいて声を潜める。
「どこぞの組織のスパイってのは…、本当なのか?」
「へ?」
コハルは一瞬間の抜けた顔をした。
横で聞いていた因幡は「しまった」と冷や汗を浮かべる。
(そういう設定だった)
神崎の尻にウサギのシッポが生えたのは、マッドドクター設定の鮫島の実験のせい(実はシロトとの契約が失敗したせい)で、たまたま姫川がその安定剤(実はシロトとの契約が失敗したせい)だとふきこんだのだった。
罪悪感がよみがえる因幡の胸。
因幡の顔を横目で見て察したコハルは、人差し指を自分の口元に当てて声を潜めて返す。
「もう組織から抜け出した身だけど、内緒にしてね?」
「……………」
(ナイス母さん。合わせてくれた)
因幡は内心でコハルに向けて「グッジョブ」と親指を立てる。
「なにこそこそ話してんだ、てめーはっ」
「いてっ」
後ろから神崎に軽く背中を蹴られてしまう姫川。
すぐに「蹴んなコラ」と睨み返す。
「とにかく、コハルさんが無事で良かった。またなにかあったら、オレ達が相談に乗るから」
そう言って夏目は笑みを向けた。
「いやぁ、桃もいい友達を持ったものだ…。全員男なのが、父さん、引っかかるけどなぁ―――」
ソファーの後ろに立つ日向は、神崎達を笑顔で見下ろす。
その背中では釘バットを握りしめていた。
「そいつらに手ェ出したら絶縁だからな」
「…っ」
娘に脅され、引き下がる父。
桜と春樹が隅っこに移動したその背中を慰める。
「神崎君の戻し方がわかれば伝えるから」とコハルは姫川に耳打ちし、その場は解散となった。
帰ろうとする4人に、因幡は「玄関まで送ってく」と見送ろうとする。
「……母さん」
「ん?」
因幡はダイニングのドアノブに手をかけ、コハルに背を向けたまま口を開く。
「オレ…、まだ石矢魔町(ここ)にいていいんだよな?」
「…いたくなくなったら、言いなさい」
「うん…。たぶん…言わねえけど…」
小学、中学、高校と転校を何回か繰り返してきた。
それは親が気を遣ってしてくれたことだった。
そのたびに、せっかく友達が出来た桜と春樹に寂しい思いをさせてしまっていた。
たとえなにが起ころうと、もう逃げたりはしない。
因幡はそう心に決め、玄関へと向かう4人を追いかけた。
外に出て、玄関前の階段を下り、神崎達を見送る。
その前に、因幡は「姫川っ」と名前を呼んで止めた。
「なんだよ?」
「いや一つだけ聞きたいことあってさ」
「?」
因幡は声を潜めて尋ねる。
「おまえ、特別な意味で、神崎のこと好きなのか?」
「……………」
てっきり「ふざけんな」とか言われるかと予想していた因幡は、なにもリアクションが返ってこないことに驚く。
2人の目は一瞬、夏目と城山に挟まれて帰る神崎の背中に移った。
「……おまえには、どう映った?」
「自分からキスしといてそれはねえだろ?」
口元をニヤニヤさせながら因幡は言った。
明らかに楽しんでるなこいつ、と姫川は睨んだが、ため息ごと怒りを抜く。
「オレにもわかんねーよ…。ウサギになったせいかもしれねえしな…。最近まで、そこらへんの奴らを粗末に扱ってきたんだ。…また普通の人間の体に戻ったら…、ちらっと考えてみるけどよ…。じゃあな」
「っ」
人差し指で額を突かれ、背を向けられる。
(…それでも、「嫌い」とは言わねえんだな…)
口元を緩ませ、額を擦りながらその背中を見つめた。
「なに話してたんだよっ」
「気になんの? 嫉妬?」
「はぁ!?」
並んだ4人分の人影のうち、真ん中の2人はすっかり見慣れてしまったいがみ合いの光景を見せている。
因幡は息を吸い、声を上げた。
「また、学校でなぁ―――っ!!」
それを聞いた4人は一度立ち止まり、薄笑みを見せて返事を返すように手を小さく上げる。
敵が誰なのかは詳しく知らされなかったが、今の因幡にはどうでもいいことだった。
向かってくる敵はすべて返り討ちにする。
いつも通りに。
ただ、今は、またあの4人と過ごすだろう明日を楽しみに待つだけだ。
明日、ついにあの学園が攻めてこようと知らずとも―――…。
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