39:白と、黒と。
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コハルが行方不明になってから数週間後、
「ただいま…」
因幡家に帰って来た。
玄関で出迎えた、桜と春樹の口がぽかんと開く。
「母さん!!」
「今までどこに…!!」
「おかえり」
ダイニングから出て来た日向だけが動揺することなく、温かく迎える。
「なんで親父そんな平然としてんだよっ! 一日出かけてたわけじゃねえのに! おふくろっ、今までどこに…」
コハルは苦笑を浮かべ、問い詰めようとする春樹を「ちょっと待って…」と手で制する。
「先に…、桃ちゃんに全部説明しないと…;」
貧血一歩手前のような顔をするコハルの背後では、怒気を身に纏った因幡が腕を組んで仁王立ちしていた。
コハル越しにそれを見た春樹は「ひっ」と声を上げてたじろぐ。
「姉貴も、ちょっと来てくれるか?」
「う、うん…」
目を逸らしながらも答える桜。
因幡はコハルと桜を連れて自室へと戻る。
あとから春樹も追いかけようとしたが、それを止めたのは日向だった。
階段を登ろうとする春樹の肩をつかむ。
「親父?」
「女同士で話がしたいそうだ…。今は放っておきなさい」
春樹は不満げに階段の上を見上げた。
因幡の自室に連れてこられたコハルは、黒のカーペットの上に正坐する。
桜もその隣に正坐し、因幡は2人の目の前に胡坐をかいて座った。
「…桜のことも…、知っちゃったのね…」
桜が、本当の娘ではなく、自分に仕えていた悪魔だったこと。
桜は申し訳なさそうな顔をする。
「ああ。…けど、それはもう別に気にしてない。姉貴は姉貴だ」
最初は葛藤したものの、姉と妹が喧嘩したとしか知らないはずの神崎の言葉のおかげで考え直すことができたのだから。
「姉貴のことより、今は母さんのことだ。オレらを見守ってたって? オレがつかまえなきゃ、ずっとそうしてるつもりだったのか?」
コハルは小さく首を横に振り、因幡と目を合わせる。
「……本当は…、全部明かすのが…怖かったの…。今の私には、もう、シロトを駆使していた時のような力は残ってない…。さっきみたいに姿を消せるような初級の魔言しか扱えない。桃矢ちゃん達を守ることができない」
「母さん?」
因幡は、ぎゅっと握りしめるコハルのコブシを見た。
そこで桜が口を開く。
「母さんは、桃ちゃんには「奴ら」と関わってほしくなかったの。シロトを受け継いでも、普通に過ごしてほしかっただけ…。そのためなら、私も身の内を明かしてでも守るつもりだった…」
「「奴ら」って誰だ?」
「…私が飛びだした、家の人達…。彼らはシロトを捜してる。私が持ち逃げしたシロトを…。最初は血眼になって捜しにくるかと思ってたけど、なにをしてくるわけでもなかった。それが今になって…」
クロトを受け継いだ、フユマが現れた。
「……で、オレが狙われると思ったわけだ?」
「殺しに来るとは思わなかったけど…」
桜は奇襲をかけてきた“パンドラ”を思い出して口にする。
「たぶんフユマじゃないわね…。きっと別の誰かがやったのよ…」
コハルは視線を桜に移して呟くように言い、再度因幡に視線をやって言葉を継ぐ。
「私も、四六時中桃ちゃんといたわけじゃなくて、石矢魔町内を探ってみたの。家の人達が侵入してないか…。でも、なにもなかった。一時は一安心したけど、桃ちゃんたら、他の町に行っちゃうし、そこでも厄介ごとに巻き込まれちゃうし、シロトと意気投合しちゃうし…」
意に反した因幡の行動に、思わずため息を漏らす。
「シロトと仲良くなってるなら、私もそろそろ出る頃だと思ったけど、タイミングがつかめなくてね…。……いきなり現れたら今みたいに怒るでしょ?」
最後は「子どもか」と思わずつっこみたくなような理由に、「いや、怒ってはない」と因幡は返す。
「えっ、ホントに!?」
「激怒はしてる」
「……………」
いくつもの青筋を浮かべて平然と切り返した因幡に、コハルは細かく震える。
因幡は深いため息をつき、呆れるような視線を2人に送った。
「母さんも姉貴も水臭ぇ。そういう事情ならさっさと話せってんだ。なに2人だけでこそこそやって抱えてんだよ。そいつらが攻めてきたら、オレが転がしてやるまでだっつの」
「けど…!」
相手はそこらの不良達とは違う。
人間を超越した存在だ。
もしそれで因幡になにかあったらと考えることさえ、コハルにとっては恐ろしい。
「母さん、全部背負わなくていい。一度足を踏み入れたんだ。あと戻りできねえし、オレがほとんど知らないまま過ごすってのは、もうムリだ。オレだっていつまでも守られたくない。今のままで「弱い」っつーなら、強くなってやる! 母さん達を全部守れるくらいに…!」
「桃ちゃん…」
力強い瞳と言葉に気圧されるも、コハルはまだなにか言おうと口を開いたが、桜はその背中に優しく手を置いた。
「母さん…、知ってるでしょ? こうなった桃ちゃんはもう、なにも聞かない。アナタにそっくり…」
「……………」
これ以上はなにも言えない。
言葉だけでは止められないと悟されたコハルはうつむくが、その目前に因幡はケータイを突きつけた。
「とりあえず、迷惑かけた奴らに謝ろうぜ。片っぱしから」
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