38:リーゼントとウサギ。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一方、因幡は1階の廊下を走り、自分から逃げる見えない人間を追いかけていた。
視線を下に向け、透明人間の足跡を目印に走る。
屋上の内側のドアの前に、あらかじめペンキを撒いたのはよかったが、そろそろ相手の足跡が薄くなってきた。
外に逃げられてしまっては確実に逃がしてしまうだろう。
その前に、相手が靴を脱ぎすてて逃げる可能性がある。
「待てよ!! そうやってなにも言わずにオレから逃げるのかよっ!! ずっと続ける気か!? ムリだろ!!」
声をかけるが、相手の足は止まらない。
舌を打った因幡は、ポケットからケータイを取り出し、フォルダを開いて全件削除のボタンを押す。
「…あ、そう!! さっきの写真!! これまで撮った写真!! ぜーんぶ破棄するけど、いいんだな!?」
見せつけるのは、“削除しますか?”の文字。
これで「はい」を押せば、因幡が今まで撮影した神崎と姫川のきわどい写真が削除されてしまう。
「ダメェ―――ッッッ!!!」
足跡がこちらに戻ってくる。
因幡はケータイを閉じ、空いている手を伸ばした。
そして、なにかをつかんだ。
「やっと捕まえたぜ…。母さん」
引っ張ると、握りつぶされた紙が握られていた。
同時に、目の前に、行方不明になっていたコハルが出現した。
透明から半透明に、そして色のある実体に。
「あ…っ」
握りつぶした紙を広げてみると、解読不能な文字が書かれていた。
「……オンラインゲームで悪魔達が使った、透明人間になる魔法…。これも似たようなもんなんだろ?」
コハルはたじろいだが、因幡はそれに合わせて近づく。
もう2度と逃がさないと凄むように。
「い…、いつ私が傍にいるって…」
「オレも最初はどこか知らない場所へ行ったのかと思ったけど…、漫画は掲載されてるとこでおかしいと思ったんだ。オレ達しか知らないネタを知ってるのも…、ずっと一緒にいたからなんだろ?」
「……………」
図星というように、コハルは視線を逸らした。
「あとは今までを通して悪魔のこと、ちょっと理解した。シロトにも教えてもらった」
「シロト…」
「言ったの?」と恨めしく視線を下ろすと、シロトは“教えてはおらん”と否定する。
しかし、今のコハルとシロトは会話ができない間だ。
“ただ…、桃が「イエス」か「ノー」でしか答えられん質問をするから…”
学校へ向かう途中、因幡はシロトに質問責めをしていた。
ウソはつかない。
しかし答えられないものは「答えない」と答える。
それを利用された。
『母さんは魔力?つーか、魔法みたいなの使えるのか?』
『“……使えんことはない…”』
『だったら透明人間みたいになれる魔法とか持ってる?』
『“…答えられん”』
『じゃあもしかしてオレの近くにいたりする?』
『“……………”』
『神崎達の近くとか』
『“………答えられん”』
因幡からそれを聞いたコハルはつっこむ。
「イエスって答えてるようなものじゃない! もう少し頭の良い答え方を…」
「頭悪いのはアンタだっ!! てっきりオレ達に迷惑かけたくないからってどこか遠出したのかと思えば…。ストーカーですかっ!!? オレと悪魔のことより、姫神のストーカーですか!!?」
ご立腹な因幡の様子に、コハルはその場に正坐して小さくなる。
「いえ…、あの…、ごにょごにょ」
「聞こえないんですけどっ!?」
「え…と…、悪い見方をすれば…そうなるけど…、桃ちゃんを見守っていたっていうのもあって…。ホントよ…。棄見下町のときだって…、母さん…、はらはらしちゃって…」
男鹿に道案内をした胡散臭い占い師の正体も、コハルだった。
「母さん…。けど、透明になってその目に見てきた姫神は…」
「御馳走様でした」
両手を合わせるコハル。
ゴッ!!
母親に蹴りを入れるわけにもいかず、因幡は右足で床を踏み、硬い廊下に靴跡を残した。
「……………」
「……我が家に帰って、話そっか…」
「……はい…」
コハルさん、おかえりなさい。
.To be continued