38:リーゼントとウサギ。
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昼休み終了のベルが鳴り、夏目と城山は教室に戻ろうとする。
「神崎くーん、教室戻るよー」
ボロボロになった神崎と姫川は、どちらも大の字で仰向けに倒れていた。
声をかける夏目に、神崎は手を振って「疲れた。オレは寝る」と投げやりのように言う。
「えー」
「城山、オレの弁当箱、教室に持って帰れ」
「は、はい…」
夏目と城山が屋上から出て行ったのを目の端で見た神崎は、上半身を起こす。
姫川も起きて、「ケンカの続きでもやんのか?」と構えたが、神崎は小さくため息をつき、姫川を目の端で見て舌を打った。
「姫川と因幡のヤツ、マジで今日1日サボる気かよ…」
「?」
その独り言に、姫川は首を傾げた。
(オレに用でもあったのか?)
神崎は姫川に顔を向け、手招きする。
「そこの…ウサギリーゼント。ちょっと来い」
(ウサギのリーゼントじゃありませんが? リーゼントのウサギですが? 国語教えてやろうか…)
ヘンな呼ばれ方をしたが、渋々神崎のもとへ行く。
「今からおまえ、姫川役な。オレの練習台になれ」
「…ぷ?」
なにを言いだすかと思えば、と姫川は口をポカンとさせる。
「本人だし」とつっこみたい。
練習台とはなんなのか。
「棄見下町に行った時は世話になったからな…。……礼を言う練習に付き合えよ」
神崎は恥ずかしげに頬を染め、うなじを掻きながら小さく言った。
(いや、ちょっと待て…)
本人を練習台にしようとする神崎に、ウサギとなっている姫川に止めるすべはなかった。
その場から逃げようにも、ペントハウスの扉は閉まっている。
神崎は姫川の両脇を両手でつかんで自身に近づける。
「姫川…、その…、あの時は………」
神崎の脳裏をめぐるのは、明智達に囲まれて絶体絶命かと思われた時、敵側に混ざって助けに来てくれた姫川の姿だ。
他にも、因幡に手紙を届けようとしてくれたことも礼を言いたかった。
「……………」
練習の相手はウサギとわかっていても、礼の言葉が出てくれない。
(早く言えよっ!! オレが気恥ずかしいわっ!!)
姫川もつられて照れる。
「あの時っつーのは、てめーがド汚い手で敵側に潜んで助けてくれたことで…」
(説明はいいっ!! しかもそれ褒めてねえだろっ!!)
「ちょ、ちょっと休憩な…」
耳まで真っ赤にさせた神崎は、ペントハウスに背をもたせかけて座り、ポケットからヨーグルッチを出して飲み始めた。
(早っ!!? ウブかっ!!!)
ぐだぐだな練習に脱力する姫川。
「美味いからおまえも飲んでみろ」
姫川が疲れたように見えたのか、神崎は姫川にストローを咥えさせて飲ませる。
普通に飲みかけをのまされたことをわずかに意識する姫川だったが、ニンジンだけでは足りないのは確かで甘い乳酸飲料が喉を通った。
「ぷ…(甘…っ)」
「美味いだろ?」
そう言って神崎は優しい笑みを見せてその頭を撫でる。
「……………」
その顔を見た姫川は、小動物相手だとそんな顔をするのか、と意外のあまり凝視した。
「助けてもらったし、べ…、べつに、礼を言いたくないわけじゃねーんだからなっ…。……もうコレでいいだろ」
(挙句ツンデレ!!? けど確かにおまえってそっち寄りだよなぁ…)
妙に納得してしまう。いや、しかしそれでいいのか。
最後の神崎は素直になることを諦めるように肩を落とした。
その目はうとうとと眠そうだ。
「なんかよ…、真剣に考えたら…、マジで…眠く……」
うつむくと、神崎は姫川を胸に抱いたまま目を閉じた。
(お、おい、この状態で寝るのかよ!)
慌てる姫川をよそに、神崎は寝息を立て始める。
カラのヨーグルッチが風で倒れた。
「……………」
(なんだこの状況…)
よく見ると、神崎の目の下にはうっすらと隈ができていた。
自分のように休めばいいものを、ヘタクソな礼を言いたいがために学校に来たのだ。
妙なところで律儀な男だと思わせる。
不良らしく眉間に皺の寄った顔もすれば、無意識かもしれないが優しい顔もするし、こんな無防備な寝顔もする。
一緒の病室に入院する前まで見れなかった顔ばかりだ。
顔を上げると、鼻先が冷たいチェーンに触れた。
(これもウサギになったせいか…。こいつがなんか…、かわいく見えるし…)
あの時もきっと、迂闊にもそう見えてしまったのだろう。
だから、自然とその下唇にキスができた。
「!!!」
皆さんはこんな童話をご存じだろうか。
悪い魔法使いにカエルされた王子の話を。
その結末を。
「な…っ」
姫とキスをした王子は、元の姿に戻りましたとさ。
めでたしめでたし。
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