38:リーゼントとウサギ。
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両手で姫川の両脇をつかんだ神崎は、ショックを受けた姫川の顔を見下ろす。
「え…と…」
いきなり手渡されても扱いがわからない。
託されたからには無下にもできなかった。
姫川と気付いていない神崎の様子に、姫川は「事情も理解していないクセにどうすんだよ」と内心で因幡に悪態をつく。
因幡は間違いなく気付いていたはずだ。
初めに自分の名前を呼んだことを聞き逃さなかった。
「どういうつもりだあいつ…」
(まったくだ)
「因幡ちゃんのペットかな?」
夏目は「カワイイねー」と姫川の頭を撫でる。
姫川は「触るな鬱陶しい」と頭を振った。
嫌がっている様子に、夏目は「あらら」と苦笑して手を戻す。
迷った神崎だったが、元から面倒見がいいため、そのまま教室に連れて行くことにした。
神崎の肩にのるウサギに、当然、クラス中が注目する。
「あ、そのウサギ! 神崎先輩のウサちゃんだったんスか!?」
「違ぇよ。因幡のを預ってるだけだ」
「因幡先輩のウサギ…」
「そいつのせいでオレ達酷い目にあったんだぞ」
「ダァブ」
「神崎、そのウサちゃん…、だっこさせてもらっていいか?」
現れた東条に、姫川は神崎の膝におりて丸くなる。
「怯えてるぞ」
「なにっ!?」
ガーン、とショックを受ける東条。
陣野は「あれだけ全力で追いかけたらな…」と慰めるようにその肩を軽く叩いた。
赤ん坊であるベル坊を連れている男鹿もいるため、佐渡原はノータッチだったが、早乙女はウサギになった姫川を見るなり、
「女子は知ってるか? ウサギって万年発情期らしいぞ。はっはっはっ」
セクハラまがいなことを発言した。
「なんで女子に聞いたんだオッサン!!」
大森は思わず席を立って怒鳴る。
レッドテイル1番のウブな邦枝は顔を真っ赤にしてうつむいていた。
昼休み、神崎達は屋上のペントハウスの前で昼食をとっていた。
「ようやく学校に復帰できたと思ったのに…、さすが、見てて飽きないねぇ、神崎君達って…」
弁当を食べながら言う夏目に、神崎はヨーグルッチのストローを咥えたまま睨む。
「思いっきり他人事だな、夏目…」
「ぶー(人の苦労も知らねえで)」
神崎の横に座る姫川も文句を垂れる。
「棄見下町のとき、オレ達不参加だったからねー、城ちゃん」
「む…。拗ねてるのか?」
「べつにぃ? タコさんちょーだい」
城山の返事も待たず、夏目は城山の弁当からタコ型に切ったウィンナーを奪った。
城山は「あ!」と声を上げたが、「おまえなぁ…」と呆れた声を出す。
「そういや、姫川のヤツ、今日は学校に来てねえな」
自分の名前が出て、ピクッ、と姫川の耳が動く。
「姫ちゃんのことだから、眠くて休んでるんじゃないかな? 昨日の今日だし」
的を射た夏目の発言に驚き、姫川は「そのつもりだったんだがな…」と耳を伏せる。
「不真面目なヤロウだぜ。オレだって眠いっつー…ふわぁ…」
神崎は大きな欠伸をしてから、弁当のごはんを口に入れて咀嚼する。
(逆に、なんでてめーは真面目に学校に来てんだよ)
不良ならサボるだろう。
姫川は眠そうな目を擦る神崎を見つめながら内心でつっこんだ。
その視線に神崎は気付き、「おまえもメシ食うか?」と弁当の蓋の上に梅干しをのせて姫川の目の前に置いた。
「ぶーっ!! ぶーっ!!(梅干しなんざ食えるかっ!! 生き物に与えんなっ!!)」
「なんだよ。ブーイングなんて生意気な…。神崎さんの施しが受けられねえってか?」
「神崎さん、ウサギに梅干しは…。せめてニンジンをあげましょうよ」
そう言って城山は、梅干しの横に、乱切りされた煮物のニンジンを置いた。
犬食いは気は進まなかったが、箸も持てない手だ。
仕方なくそのままいただき、パッと顔を明るくさせた。
「ぷー(美味い…っ)」
城山の手作りだ。
おふくろさんの味がした。
「じゃあオレもあげるねー」
夏目は、きんぴらごぼうと一緒に混ぜられていた、千切りのニンジンを弁当の蓋にのせる。
(細か…っ。嫌いな食べ物よけるみたいに…っ)
「仕方ねえな…」
神崎もやれやれと弁当の中のものをひとつ箸でつかんで蓋にのせる。
「ぶーっ!!(ニンニクじゃねえーっっか!!)」
「ニン」しか合ってない。
ニンニクの欠片を、姫川は勢いよく払い、神崎の顔にぶつけた。
「てめークソウサギィーッッ!!!」
激昂した神崎。
両耳をまとめてつかもうとすれば姫川はその顔に蹴りを入れ、捕まえようとすれば手の甲を噛み、毛を毟られれば頭突きを食らわせる。
城山と夏目は止めようとせず、自分達と神崎の弁当を持ってペントハウスのドアの内側に避難して陰から窺った。
「あのウサギ…、実は姫ちゃんのペットじゃないの?」
「ありえなくはないな」
暴れる一人と一匹によって、屋上は昼休み中、賑やかだった。
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