38:リーゼントとウサギ。
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家を出て学校へと向かう因幡は、シロトにだけ聞こえるように小声で愚痴をこぼす。
「一個解決してもまた一個新しい問題が起きてちゃキリねーよ。それどころか溜まってる気がするんだけど? 母さんは未だに行方不明だし、悪魔野学園が攻めてくるらしいし…」
“文句を垂れるな。コハルについては心配する必要はないとだけ教えておく”
(……………)
歩道を歩きながら、因幡は宙を見つめてしばらく考えごとをしてから、口を開く。
「…………シロト、おまえはオレに言いたくないことは言わねえけど、ウソはつかねえよな?」
“虚言は信頼を損なうものじゃからな。ワシとおヌシにとって、今は欠かせんものじゃ”
それを聞いて因幡は口角を上げる。
「じゃあ、これからオレが聞くこと、答えたくなきゃ、答えなくていいから、答えてくれ」
“?”
*****
同じ頃、愛らしいウサギの姿になってしまった姫川は数十分かけて部屋の一室を出たあと、マンションの階段を駆け下り、外へと出ていた。
(ドアのカギ開けるためにどれだけの時間を浪費したことか…。オレはチンパンジーじゃねーんだよっ!!)
ひたすらジャンプして疲れ切ったあと、ダイニングからわざわざ重い椅子を押してドアの前に設置し、カギを開け、ついでにノブも開けて外へと出たのだった。
本物の動物ならば、動物のバラエティ番組に出演できただろう。
ぴょこぴょこと跳ねて移動ながら学校へと向かう姫川。
(このオレがなんだって徒歩で行かねえと…)
「きゃー! ウサギー! カワイイー!」と黄色い声で騒ぐ女子高生。
「ウサギさーん」と興味津々の幼稚園児。
「わんわんっ!!」と無性に追いかけたくなる散歩中の犬。
(うるせえええええっっ!!)
文句を垂れているヒマもなく、それらをかわし続ける。
この調子で進めば、聖石矢魔に到着するのは夕方になるだろうと考えた姫川は、途中で軽トラックの荷台に乗りこみ、移動する。目的地と違う場所に向かいそうになれば、違うトラックに乗り変えた。
知的キャラでなければ違う目的地に着くというお約束が発生したことだろう。
遠くで聖石矢魔の校舎が見えてきたところでトラックを飛び下りる。
因幡達が下りる駅に最も近い場所だ。
それからまたぴょこぴょこと移動する。
(休憩したくなってきた…)
ふう、と赤い郵便ポストの前に座り、背をもたせかけて一息つく。
(普通に二足歩行で行けねえものかな…。テレビ局に電話されそうだけど…)
「姐さん姐さん! こんなトコにウサギがいるっスよ!」
聞き覚えの声に顔を上げると、花澤が前屈みになってこちらを見下ろしていた。
その後ろには、邦枝、大森、谷村、飛鳥、梅宮のレッドテイルメンバーがそろっている。
谷村も花澤の横に並んで「カワイイ…」と姫川を見下ろした。
「野生のウサギか?」と飛鳥。
「山からこんなところまでおりて来ちゃったんですかね?」と梅宮。
(やっぱりオレがわからねえか…)
ため息をつくと、谷村は手を伸ばしてその頭を優しく撫でる。
「ため息ついてる…。元気出して」
「ウサギってため息つくんスか!?」
そこで姫川は今の自分がハーレム状態にいることに気付いた。
女子大好きの古市なら、こんな美味しい状況を逃すはずがない。
女子達の腕の中におさまるチャンスだと、欲望のままに行動することだろう。
ちなみに姫川ならどうするかというと、
(どうもしねえよ! つか、邦枝の視線がさっきから痛い…っ)
先程から怪訝な目を向けていた。
(あのウサギ…どこかで…)
勘の鋭い邦枝は、姫川のリーゼントを見つめながら考えていた。
今のこの状況で自分が姫川であることをバレるわけにはいかない。
古市のように容赦ない陰口を叩かれることだろう。
「ほーら、ねこじゃらしっスよー」
焦る姫川をよそに、花澤は拾ったねこじゃらしを、みょんみょん、と上下に揺らしていた。
「ぶーっ!(ネコじゃねえっっ!!)」
「あれ? なんか怒ってる?」
「由加ちー、ネコじゃないんだから…」
言葉が発せない姫川の代わりに谷村がつっこむ。
「不思議の国とかつれてってくれないっスかねー」
(安心しろ。てめーの頭がすでにワンダーランドだ)
失礼なことを内心で返す姫川。
「由加、千秋、バッチィから放っておきなさい。野生動物ってどんな病原菌持ってるかわからないのよ?」
ずっと眺めていた大森が2人に注意する。
「ぶふーっ!!(失礼な奴だな!! ちゃんと体洗ったわっ!!)」
自分のことは棚に置きながら、姫川は大森を睨んで声を荒げた。
「早くしないと遅刻するわよ」
邦枝がそう言うと、花澤と谷村は「はーい」と名残惜しそうに姫川から離れ、邦枝のあとを追う。
ようやく行ったか、と姫川が安堵した時だ。
今度は大森が近づいてきた。
(あ? まだなんか文句あんのかよ)
先程の失礼な発言を忘れず、姫川は睨みを利かせて大森を見上げる。
すると、大森は先を行く邦枝達を一瞥し、おそるおそる手を伸ばして姫川の頭を撫でた。
(は?)
「強く生きてくんだよ…」
目を点にしている姫川に、優しい笑みを向けた大森はカバンからビスケットを口に咥えさせてから邦枝達のあとを追う。
(大森…)
これが女のツンデレというやつか。
姫川はクラスメイトの意外な一面を知ってしまった。
その背中を見送りながら、もらったばかりのビスケットを、サクサクと音を立てながら食べる。
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