37:今の友達は、ただそこで…。
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空は夕焼け色。
霧も晴れて見晴らしのよくなった芝生の広場を待ち合わせ場所に、待ち合わせ相手である、黒狐のリーダー・稲荷が車いすを押してやってきた。
黒髪の毛先を金色に染め、端正な顔に狐のように細い目は、因幡が最後に会った時のままだ。
愛想の良い笑みを向けながら、因幡の目の前に近づく。
「久しぶり。事情は豊川から聞いた…。ボクに頼りたいことがあるって?」
「ああ。しばらく、こいつらの面倒を見てほしい」
そう言って、笑みを浮かべたまま、因幡は縛られたままの寿と明智の頭を叩いた。
寿と明智だけでなく、黒狐や夜叉のメンバーも「へ?」と間の抜けた顔をする。
「いいよ」
「「「「「えええええ!!?」」」」」
そしてまさかの稲荷の快い即答。
それに豊川が黙っているわけがなかった。
「てめえ因幡コラふざけんなよ!?「オレに任せろ」とか言っておきながら稲荷さんに丸投げかよっ!!」
がなる豊川の怒声に耳鳴りを覚えながら、因幡は平然と「そうだけど」と返答する。
話にならないと言いたげに、豊川は稲荷に振った。
「稲荷さんも!! なに簡単に請け負っちゃってるんですか!! そいつらノーネームと夜叉の大将ですよっ!! ちゃんと考えて物を答えてくださいっ!!」
「伏見…、豊川がボクのことバカにする…。脳なしだと思ってる…」
落ち込んだようにうつむく稲荷に、伏見は「酷い…奴だ…」と背中を擦って慰める。
「ちょ…っっ!! バカにしてるわけじゃなくて…っっ」
焦る豊川。
そのリアクションに満足したのか稲荷は小さく笑い、顔を上げて「ウソだよ」と言って続ける。
「ボク達がそいつらを好きに扱いていいってことだ。…そうだろう?」
「ああ。徹底的に頼む」
頷く因幡に、寿は「な…っ」と青ざめた顔をする。
「冗談じゃねえ!! なんでオレが黒狐に…!!」
確かに最強ギャングの一つだが、過去に酷い目に遭わされたことは忘れられるものではない。
立ち上がって逃げようとした寿だったが、
「う!?」
車いすに乗った稲荷が手に持った鉄パイプで寿の足にかけて転ばせ、車いすごと圧し掛かって取り押さえる。
「逃げられると思わない方がいいよ」
「寿、一度夜叉から離れてそいつらに扱いてもらえ。てめーは今まで夜叉にとらわれすぎてた。あと、今までついてたチームにも問題があった。黒狐なら、簡単に裏切る場面には遭遇しねえだろ…。オレ達と肩並べてたチームを、もう1度、今度は下っ端の立場から眺めてみろ。…夜叉にいた頃のオレのみたいにな…」
「……………」
因幡に優しい笑みを向けられ、寿はその眩しさに目を細め、ぎゅっと瞑った。
それを眺める明智に、神崎は近づいて「明智」と声をかけ、視線をこちらに向けさせる。
「てめーもだ」
「……………」
明智は視線を逸らしたが、神崎は因幡達を見つめながら言葉を続ける。
「……てめーは、ガキの頃のオレしか知らねえだろ…。オレの家柄なんて、小学生が簡単にわかるようなモンじゃねえ。だから、中坊に上がってからは、今までオレを慕ってた奴らは怖がって去ってっちまって、逆に、家柄(それ)をバックにつけたがる連中が増えた」
「…!」
明智の視線が再び神崎に向けられる。
「不良の巣窟、石矢魔に入ってからは、ほとんど家の力でのし上がったようなもんで…、“東邦神姫”って言われるようにまでなっちまった…。オレもオレで、その地位を崩さねぇように、さらにてっぺんを取ろうと、見せつけで最悪なことはなんでもやった…。なんでもな…。けどよ…、突然現れた子連れの1年坊に病院送りにされちまって、下についてた奴らにはすっかり愛想尽かされちまって…。今までの努力もムダ。踏んだり蹴ったりで…」
『神崎さん、ヨーグルッチ買ってきました!』
『神崎くーん、今日学校でねー、因幡君が…』
『夏目! 余計なこと喋ってんじゃねえよ! 神崎も聞くなっ!』
『神崎、いくらでこいつら黙らせてくれる?』
目をつぶって瞼の裏に映るのは、入院していた時、通うように見舞いに来ていた因幡達だ。
その口元は優しく弧を描いていた。
「気付いたら…、手元には、オレの家柄とかそんなのガン無視の…バカばっか残っちまった…」
「……………」
「てめーに相変わらずって言われた時は、正直ショックだったぜ…。オレ、またガキの頃に戻っちまったんだってな…」
少し間を置いて、明智は因幡達の方に振り向き、口を開く。
「……オレも、あいつらみたいなバカとつるんだら…、今よりマシになるかな…」
「知るか。てめーで見つけろ」
「はは…。そうだな…。じゃあ…、タバコやめるとこから…始めようかな…。ホントは、目に沁みるから苦手だし…。次のオレのために…」
明智がうつむくと、秋風に揺れる緑の芝生に雫が落ちた。
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