35:ウソツキを見つけました。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ノーネームの別のアジトである廃ビルに監禁された、古市と姫川。
見張りの数人立つ部屋の一室で、背中合わせの椅子に座らされ、腕と足首に明智の紐を結ばれている。
「てめぇ、金魚のフンが、なんで金魚と一緒にいねえんだよ」
「オレも男鹿とはぐれてしまって…」
「チッ。どいつもこいつも…」
「姫川先輩、帰ったんじゃなかったんですね…」
そう言う古市の口元には笑みが浮かんでいた。
「あ? 用事済ませて帰るつもりだったんだよ。余計なこと言ってっと殺すぞ」
「この状態でですか?」
「フン!」
「のがっ!!」
姫川が勢いよく頭を上げると、すぐ後ろにいた古市の後頭部にぶつかった。
「ごめんなさい…」
もう一撃を食らわされる前に謝る古市。
後頭部に膨れ上がるたんこぶ。
「とにかくここから抜け出さないと話になんねえな」
「無茶な…。策でもあるんですか?」
「当然だろ。このオレがタダで捕まる男かよ」
平然と言ってのける姫川に、古市は「頼もしいです」と苦笑する。
「―――で、どうやって抜け出すんですか?」
そう尋ねると、部屋の扉が開いた。
「なにをくっちゃべってんだ」
数人の男達が部屋に足を踏み入れた。
扉とは反対方向に向けられている古市は肩越しでそれらを確認しようとしたが、その前に、つり上がる姫川の口端を見てしまう。
*****
ゼブルブラストで霧の結界を切り抜けた男鹿とベル坊は棄見下町を駆ける。
霧が晴れる様子はなく、また橋の前に放り出されてはかなわないと、まだ通ったことない道を選んでいく。
「どこだよ、ここ。迷路みたいにグニャグニャしやがって…」
「アー」
その時ベル坊はなにかを指差した。
「あ? どうしたベルぼ…」
そちらに顔を向けると、紫のローブを被り、顔を隠している人間がシャッターの閉まったベーカリーの前に立っていた。
胸には六芒星の首飾り、右手には明らかに、「占い師です」と言いたげなガラスの水晶玉を持っている。
「そこのお兄さん…」
声からして若い女性だ。
「……………」
その胡散臭さに男鹿は関わるまいとあえてスルーする。
「お待ちになって!」
「!!」
素通りしていく男鹿の頭に水晶玉がぶつけられた。
その痛さに男鹿はうずくまり、占い師の恰好をした女を睨み付ける。
「なにしやがるこのアマぁっっ!!」
「いえ、そちらは凶の道です。待ち人に会えなくなってしまいますよっ」
「知るかボケッ!」
女には手を上げず警告をスルーしようと走りだすが、
「グス…ッ。そっちは…、凶なのに…っ」
いきなり、いじめられた子どものように泣き出す女に、男鹿の小さな罪悪感が足を止めた。
「アウー」
ベル坊がジト目で男鹿を見つめる。
「なんだよ!「あーあ、泣かしちゃった」的な!? だったらどっち行けばいいんだよ!!」
半ギレで女の元へ戻った男鹿は乱暴に尋ねる。
すると、女は右手の甲で涙を拭きながら、左手で向かいの路地を指さした。
「あっちか?」
「そのあと、T字路が見えてきたら、左へ、そのまままっすぐ行って3番目の路地を右に、で、Y字路が見えてきたら左へ、そのまま行くと郵便局があって…、案内しますね」
耳から煙を上げていた男鹿は「おう頼むぜ」と答えた。
道案内を任された女は小さく笑い、「こちらです」とやや早足で男鹿を先導する。
すっぽりと被ったローブのフードから、白い毛先がのぞいた。
*****
因幡が閉じ込められていた地下の一室の隣の部屋に、神崎は放り込まれていた。
背後で乱暴に閉まる鉄の扉。
そこには同じく手足を縛られた中学生くらいの男子たちがいた。
あまり良い食事を摂らせてもらってないのか、やつれている者が多い。
「だ…、大丈夫か?」
その中のひとりが神崎に近づき、首の傷を見て、「明智にやられたのか」と目を伏せる。
「おまえらは…?」
「オレ達は新生・夜叉だ。―――って、こんな状態で名乗りたくはなかったけどな」
我ながら情けないと言いたげな顔をして、男は仲間を見回しながら言葉を続ける。
「オレ達で新しく立ち上げて、呼び戻した寿さんを中心に、この棄見下町を縄張りに活動していたんだ…。けど、ノーネームにあっという間に占領されちまって、オレ達も人質にされてこのザマだ」
「だからっ、売られたんだよオレ達は! 寿に騙されて…」
「そうだ! 待ち伏せされていた集会所に呼んだのは寿さんなのに! なんで寿さんも拉致られてないんだよ!」
「おかしいだろ!?」
喚く男達と、不安げにうつむく男達。
神崎に駆け寄った男は「落ち着け。疑心暗鬼になるな」とたしなめる。
「副リーダーのオレにもどうすることもできない…。アンタ、オレ達が捕まったあとの夜叉のこと、知らないか?」
「……………」
副リーダーに尋ねられても、神崎にはうまく答えることができなかった。
寿に騙されて売られたというのは本当のことだろう。
ここにきて、また嘘をつかれていたことを知る。
(あのヤロウ…、人質にとった夜叉はうまく説明して仲間に引き入れたとかぬかしてたクセに…)
「…?」
いつまで経っても答えない神崎に、副リーダーは首を傾げ、「知らないならいい…」と寂しげに答えた。
「…っ!」
(ヤバ…ッ!)
その時神崎は、身に覚えのある熱に襲われた。
すぐに尻の付け根を隠すように座りなおす。
「? どうした?」
「いや…」
(冗談じゃねえぞ、こんな時に…!)
笑みを浮かべるが、焦りの汗がにじみ出ていた。
こんな、シリアスなシーンに似つかわしくない、可愛らしいウサギのシッポが生えてしまったことなど、バレてはならない。
それでも容赦なく高上していく体の熱。
ある意味、絶対絶命である。
.To be continued