35:ウソツキを見つけました。
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因幡は、窓もない薄暗い部屋にひとり閉じ込められていた。
手足を縛る紐は、明智のあの鉤針つきの紐だ。
背中の後ろで縛られた両手を動かそうとすれば痛みが走る。
「う…」
手当てもされていない体は、ちょっと動かしただけでもピリッと痛んだ。
頬を床につけると、その冷たさに「冷たっ」と顔を上げる。
(もう最悪だ…)
大きなため息をつき、空気も読まず、空腹で腹の虫が鳴った。
昨日の夜からなにも食べてないことを思い出し、項垂れる。
「おーい、見張りとかいねーのかよ。腹減ったんだけどー」
試しに、窓ガラスつきの鉄の扉に呼びかけてみると、そこから2人分の男達が顔を覗かせた。
「なにか言ってるぞ」
「開けるか?」
「まあ、縛られてるしな…」
相談してから扉が開けられ、見張りの2人の男が入ってきた。
どちらも手の甲にガラスが埋め込まれているのを見、ノーネームの連中だとわかる。
「腹が減ったんだけど…、なにか持ってねーの?」
拘束されていることも構わず、呑気に朝食を注文する。
男達は顔を見合わせ、噴き出した。
「なに言ってんだこいつ! 仲間に裏切られたクセに、食欲とかあるわけ!?」
「お気楽な奴だな!」
「…神崎は裏切っても、こんなマネはしない…」
「「あ?」」
確信めいた言葉だった。
その口元は緩んでいた。
「たとえ神崎に人より1000倍嫌われてようが…、あいつは絶対こんなマネはしねえ。…まあ…、姫川はどうかは知らんけど…」
頭の中で姫川に「おいっ」とつっこまれる。
「はっ。信用してるってわけ? おめでたいヤツだな!」
「うっ」
爪先で左肩を蹴飛ばされ、仰向けになる。
「あの冷酷兎の因幡がいいカッコじゃねえか」
額に汗を滲ませる因幡は、苦しくも嘲笑の笑みを浮かべる。
「羨ましいなら代わってやろうか? オレをどうするつもりか知らねえけど…、ここから抜けだしたら全員転がす。けど、てめえらがコレ解いてくれたら、見逃してやるよ」
上から目線の言葉に、男達はこめかみに青筋を立たせた。
「こいつ自分の状況わかってんのか…」
「ちょっと痛い目みねえとわかんねーようだな」
ひとりは扉を閉め、もうひとりはしゃがんで因幡の胸倉を両手でつかんだ。
「身動きできねえ相手をいたぶるなんざ、やっぱてめえら小物かよ」
ゲスを見る目に、胸倉をつかむ男は下品な笑みを浮かべた。
「そうだよ。オレら小物だから…、「女」のいたぶり方はプロだ」
「!!」
力任せにシャツが引き裂かれ、サラシを巻いた胸が露わになる。
同時に、さっと血の気が失せ、嫌悪に鳥肌が立った。
「見ろよ。マジで女だ!」
「明智さんの言った通りだな。そのカワイイ顔が誰を転がすって?」
「触んじゃ…ねえ…っ」
女としての危機を感じ取った因幡の声は震えていた。
殴られ蹴られる覚悟はいつだってしてきたが、この場合は話が違った。
威嚇をするが、相手の加虐心を煽るだけだ。
「触んな!!」
「暴れんじゃねえよ。そっち、肩押さえてろ!」
「はあ? おまえ最初に楽しむ気かよ」
「う…っ」
手足もままならず、因幡は悔しさに歯を食いしばる。
(ホント…、最悪だ…。なんだよ…。なんだよ…! オレ、なんでこんな目に遭ってんだよ…っ! 誰も助けに来ないし…、まるで…、あの時と同じだ…)
ズキン、と痛むのは後ろ首の火傷だ。
「仲間なんて所詮は」と嗤い、訴えるように。
次に突きささるように痛むのは胸の奥だ。
目の前には下卑た男達。
視界が霞むのを感じ、絶対奴らの前で泣くものかと意地を張り、ぎゅっと目をつぶる。
バンッ!!
「「「!!」」」
その時、扉が蹴飛ばされ、因幡と男達はそちらに顔を向けた。
最初に飛んできたのは因幡の右靴だ。
肩を押さえる男の顔面を蹴りつけて壁際までブッ飛ばす。
続いて、そこに現れた神崎が因幡の上にまたがる男の頬に勢いのよいパンチを食らわせ、最初にブッ飛ばされた男の方へ飛ばした。
「神崎…!?」
「因幡!! 無事か!?」
その必死な顔と声は、いつもの神崎だった。
駆け寄る神崎は、因幡の半身を起こす。
「おまえ…、捕まってたのか? なんか、おまえの靴が勝手に地下に下りちまって追いかけたら…、おまえが…」
やっぱり、と因幡は心の底から安堵する。
神崎は自分を売ったわけじゃなかった。
「か…んざ…っ」
名前を呼ぼうとしたら、ひくっと喉が鳴る。
その顔を見た神崎はぎょっとした。
頬を紅潮させ、鼻を鳴らし、大粒の涙を流していたからだ。
「うおっ。どうした!? あいつらによっぽど酷いことされたのか!?;」
焦る神崎に因幡は激しく首を横に振る。
「……着る?」
自分のジャージの上着を差し出し、迷彩服一枚になる神崎に、今度は縦に頷くと、上から羽織らせてもらう。
「……拭く?」
ポケットティッシュを取り出すと、因幡はまた頷いた。
ティッシュを数枚とって涙を拭いてもらう。
ついでに鼻もかんだ。
「……飲む?」
ヨーグルッチを差し出されたが、飲めないので首を横に振って断る。
「……悪い…。真っ先に…、おまえを信じていれば…よかったな…」
そう言って頭をぐしゃぐしゃと撫でる神崎に、ようやく止まりかけた涙がまた溢れ出ようとした時だ。
「地下には行くなって、ダチの約束を破るとはな…」
「「!!」」
現れたのは、明智と名護だ。
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