35:ウソツキを見つけました。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
早朝、男鹿は夜通しで町中を走りまわっていた。
「クソ!! またここかよっ!!」
ひとりでもノーネームをとっ捕まえてアジトの場所を吐かせようかと思えば、あれだけいたのにひとりも遭遇せず、何度も、阿利華町と棄見下町である橋に出てしまう。
見えない手に後ろ首を掴まれてつまみだされるように。
「古市ぃっ!! てめーもはぐれてんじゃねえよっ!!」
「ダァッ!」
古市が明智達に捕まったことなど知りもせず、男鹿とベル坊は悪態をつき、霧の中に飛び込んだ。
棄見下町一帯を包む濃霧は未だに晴れない。
*****
ノーネームのアジトの7階の片隅で布団に包まって眠っていた神崎は、7階の窓から差し込む朝日に目を覚まし、半身を起こし、茫然と宙を見つめる。
「ふぁ…」
大きな欠伸をし、ぼりぼりと後頭部を掻きながら立ち上がる。
「…?」
一瞬だけ目眩に襲われ、よろめく体。
喉は熱く、渇きを求めている。
風邪かと思って額に触れてみるが、熱っぽくはない。
(…風邪…? 因幡待ってたからか…? 姫川のヤツ、ちゃんと手紙渡したんだろうな…)
手紙を託したあと、神崎は冷える夜の中、本当の待ち合わせ場所で因幡を待っていた。
別の廃ビルの駐車場だ。
しかし、数時間待っても因幡は姿を見せなかった。
「ん…」
朝日の眩しさに目を細める。
窓の外を見ると、7階から下は霧が立ち込めていた。
「神崎」
「! 明智」
ドアが開いた音に振り返ると、朝から爽やかな顔をした明智が立っていた。
その口には火を点ける前のタバコが咥えられている。
「意外と早起きだな」
「たまたまだ」
「あ、そう。…夜叉との約束は昼だ。もうちょっと寝ててもいいんだぜ?」
「いや…」
神崎は窓の外に顔を向けて答える。
「…オトモダチのことが心配か? …酷なことをさせて悪いな」
「いいや。これで話がつくんだろ? あいつが大人しく石矢魔に帰っててくればいいが…」
「おまえのダチだ。わかってくれるだろ…」
「どうかねぇ~」
神崎は腕を伸ばし、「時間までちょっと外出てくる」と言って明智の横を通過する。
「わかってくれるさ」
明智は呟き、不気味に口端を吊り上げた。
それに気付かず、神崎は無言のまま、手すりを支えに1階へと向けて階段をおりる。
ノーネームの人間とすれ違うたびに「おはようございますっ」と丁寧に挨拶された。
1階をおりた途中で歯磨き中の名護と出会う。
「おお。神崎氏、おはよう」
口の周りを泡だらけにしながら名護は挨拶する。
「ん」
「調子悪そうに見えるけど、大丈夫?」
「問題ねえ。明智に余計なこと言うなよ」
「了解ッ」
ビッ、と敬礼のポーズをとる。
本当に言わないのか心配になる神崎だったが、強く念を押すことなく外へと出た。
「うわ。寒…」
秋の真っ直中だが、朝の空気は冷え、思わずぶるりと震えた。
「!」
散歩しようと一歩踏み出した時だ。なにかを蹴飛ばした。
見下ろすと、それは見覚えのあるものだった。
神崎はしゃがみ、それを手に取る。
「これ…、因幡の靴…」
靴の裏を見ると、特徴的なうさぎマークがあった。
右足だけの靴。
「なんでこんなとこに…」
辺りを見回すが、因幡の姿は見当たらない。
靴の片方だけを落として気付かずに行くなんて滅多にない。
どうしたものかと考えたとき、突然、靴がひとりでに神崎の手から落ちた。
「…あ?」
神崎は靴を凝視する。
ぴょんぴょんと跳ねているからだ。
「うお!!?」
靴は神崎の足下を通り過ぎ、開けっ放しのドアからノーネームのアジトへと入る。
「お、おい…!」
靴に呼び掛け、神崎はぴょんぴょんとウサギのように跳ねる靴を追いかける。
.