35:ウソツキを見つけました。
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「おーい、姫川竜也ってそんな程度ですかー?」
寿は手元のジャックナイフを弄びながら、目の前でうつ伏せに倒れる姫川を見下ろし、その背中をカカトで踏みにじる。
その右手には包帯が解かれ、怪我をしていたと思われていた手の甲には、ノーネームの印である、ひし形のガラスが埋め込まれていた。
「ぐ…っ」
呻く姫川は、地面に手をつき、起き上がろうとする。
その左頬には斜め一線の傷がつけられ、流血していた。
サングラスもヒビが入り、視界が悪い。
「因幡といい、神崎といい、てめぇといい、バカだなぁ…。オレ達の話だけ聞いて逃げ出せば、てめーの言う通りオレ達の計画は台無し。…なのに、のこのこ現れやがって…。姫川竜也ってもっと切れる奴かと思ってた。マジで」
姫川は、嘲笑しながら見下ろす寿を顔を上げて睨みつけ、握りしめたスタンバトンを膝目掛け横に振るった。
だが、寿は「おっと」と余裕で飛び退く。
「往生際が悪いことでっ!!」
「っ!!」
爪先でアゴを蹴飛ばされ、脳が揺れた。
「あ…ッ」
(姫川…っ!!)
陰から窺う古市は、圧倒的な寿の強さを目の当たりにし、口元に手を当てたまま出るに出られなかった。
明智は表情を変えず、椅子に座って無言のまま、その様子をタバコを吸って眺めていた。
「ほら、もっと往生際悪いとこ見せてみろよ。じゃないとリーゼント、切り刻んでやってもいいんだけど…」
「…っ!」
姫川は歯を食いしばり、ゆっくりと立ち上がる。
同時に目眩に襲われたが、一歩前に出した右足で踏みとどまった。
それを滑稽に見つける寿はナイフを持ちかえ、姫川に近づく。
「おおっ。頑張る…なぁ!!」
ゴッ!
「ぐぁ!!」
ナイフを横に振るい、グリップで姫川の左側頭部を撲りつけた。
金づちで撲られたかのような重い衝撃に姫川はその場に膝をつく。
撲られたところから流れる生温かい血が地面に垂れた。
「切るのも、撲るのも、最っ高…っ」
狂気に満ちた目で姫川を見下ろし、寿はグリップに付着した姫川の血を舐める。
「そのナイフ…、何キロだよ…」
姫川は寿のナイフが通常のナイフの重量でないことに気付いた。
「お。気付いた? 当ててみろよ」
姫川と寿が互いの武器を振るったのはほぼ同時だった。
バキンッ!!
スタンバトンが、真ん中から砕かれた。
先端は宙で回転しながら飛んでいき、古市の横に落ちる。
「「…!!」」
姫川と古市は折れた部分を凝視する。
通常のナイフの重さは、重くて1キロ未満だ。
寿のナイフは明らかにそれを越している。姫川のスタンバトンを折った寿は完全な勝利を確信した。
(オレのナイフの重量は…3キロ! 常人ならさぞや使いにくいだろうこの重みを、オレは与えられた“力”でものともせず駆使できた!)
常人でこの重みのナイフを扱えば、振れば重さに負けて手首や腕を痛め、すぐ構え直したくても時間がかかり、隙も多い。
空振りすればその勢いに負け、誤って自身に刺さることもある。
しかし、常人以上の力を身に付けた寿にとってはカッターナイフのよりも扱いは簡単だ。
重さもあってその分、威力も速度も上がり、男鹿ですらすぐに避けきれなかった。
また、寿のナイフより重量が軽ければ姫川のスタンバトンのように武器を破損してしまう。
寿は重みの利点を活かしきっていた。
「油断するな、寿。まだ、そいつは折れてねえ」
「!」
観戦していた明智の言葉に、はっとした。
姫川は武器を手放さず、そのまま向かってきた。
「ぐ!?」
グリップの部分で寿の鼻を撲りつけた。
寿は鼻を右手で押さえて前のめりになり、その隙に姫川はその頭をつかみ、寿の右手ごと顔面に膝蹴りを食らわせる。
「っ!!」
「チッ」
手の甲のガラスを砕けば形勢逆転のチャンスはあったが、ヒビが刻まれた程度だ。
姫川はグリップの部分でもう一度撲りつけようとしたが、振り上げたその手に、赤い紐が絡みついた。
「!」
明智の、ムカデの足のように連なる鉤針付きの紐だ。
皮膚にフックが引っかかったのを見、明智が躊躇なく紐を勢いよく引くと、フックは姫川の手の皮膚をかぎ裂き、掌、指、指の間、手の甲、手首に生々しい傷をつける。
「うっ!?」
その痛みにスタンバトンを放してしまい、うつむいたままほくそ笑んだ寿は勢いよく顔を上げ、右手で鼻を押さえ、突き出した左足で姫川の腹を蹴飛ばした。
「が…っ!!」
その衝撃に、姫川は腹を抱えて両膝をつく。
寿は袖で鼻血を拭い、肩越しに明智を軽く睨んだ。
「おいおい、マジ余計なことしてんじゃねーよ」
「やられそうになってなに言ってんだ。次は油断するなよ」
明智はそう言いながら袖の中に紐を戻し、足元に吸い終わったタバコを捨て、足裏で踏みつけて火を消し、立ち上がって姫川に近づいた。
「こいつ、オレの別のアジトで見張らせる。因幡にも、神崎にも会わせない…。計画が全部終わるまでは…」
「じゃあ任せるわ」
「……っ」
意識が朦朧とする姫川の脳裏によぎるのは、因幡と神崎の顔だ。
左手をポケットに突っ込み、因幡の渡せなかった神崎からの手紙を握りしめる。
姫川の敗北を見た古市はおそるおそる後ろに下がり、そこから離れようとした。
(男鹿に…、男鹿に知らせねえと…!)
「ああ。それと、もうひとり追加だな」
空き地から出ようとした古市の鼓動が大きく跳ねる。
はっと振り返った時には、姫川の血が付着した鉤針付きの紐が目前まで迫っていた。
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