34:ウソツキは誰ですか?
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神崎の家に、一通の手紙が届いていた。
「若、若宛てに御手紙が…」
「!」
表は、“神崎一様へ”。
裏は、“明智翔”の筆文字。
帰宅後、父親である武玄の部下からそれを受け取った神崎は、部屋のベッドに腰掛け、封を切った。
(明智翔…)
懐かしい名前だったが、相手の顔を覚えていない。
封から手紙を取り出す前に、神崎は小学と中学の頃のアルバムを捜した。
武玄に聞いたところ、アルバムは家の裏の倉に入れられていた。
明智翔は、小学のアルバムから発見した。
「ああ…、あいつか…。懐かしいな…」
この頃から、地毛なのか怪しいくらい真っ白な髪だった。
なのに、忘れていた自分に驚いた。
家も近所で、よく遊びに来ていたというのに。
生徒名簿だけでなく、他の写真を見てみると、自分とよく写っていた。
一緒にいたのは、小学4~6年の間だけ。
転校早々、いじめっ子に絡まれているところを助けたのがきっかけだった。
怖がりで、泣き虫で、ケンカも弱いくせに、やたらと懐いてくるので最初は煩わしかったが、その鬱陶しさも徐々に慣れていくうちにすっかり打ち解け合う仲になっていた。
家に連れて来た当初は相当驚かれたが、明智も慣れたのか何度も気軽に遊びにくるようになった。
『神崎君! 次は…、手紙書くからっ。絶対…、またこの町に遊びに来るからぁ…!』
『わかったから、鼻水拭けよ。あとほら、ヨーグルッチ』
引越しの前日はこちらの涙が引くくらい、それはそれは泣き喚かれたものだ。
小学を卒業したばかりなのに。
(結局…、手紙来なかったけどな…)
懐かしさのあまり、アルバムを閉じた神崎の口元が綻ぶ。
(それがなんだって、今更…。あれから…、6・7年ぶりか?)
アルバムを倉に戻し、自室に戻った神崎は開封した封筒から手紙を取り出して読む。
久しぶり、元気にしているか、自分のことを覚えてるか、自分の町のことなど、ありきたりなものだったが、後半になると急に重みのある文章になる。
“どうしても手を貸してほしいことがある 助けてほしい オレは今 “ノーネーム”ってチームのリーダーをやっている 現在 そこと揉めているのが“夜叉”というチームだ”
「!!」
すぐに因幡がいたチームであることを思い出す。
“噂で聞いたんだが 元・夜叉の因幡桃矢がそっちでおまえとつるんでいるって本当か? 本当だったらおまえと一度会って話がしたい そのあとオレに手を貸してくれるかどうか判断してほしい ようやく書けた久々の手紙だっていうのに すまない”
(因幡に関わることか…?)
神崎は一度ケータイを取って因幡のアドレス帳を開いたが、すぐに閉じた。
因幡にとってはもう終わった過去だ。
思い出したくもない過去でもあるだろう。
それを今更ほじくり返してどうするのか。
一度、明智に会ってから考えようと神崎はケータイを枕元に放り投げた。
次の日、学校をサボって阿利華町にやってきた。
この町に明智は住んでいるが、待ち合わせ場所は棄見下町だ。
噂では聞いていたが、一度足を踏み込めば阿利華町の活気のある雰囲気とは真逆だ。
薄霧が漂う町を徘徊していると、ノーネームの連中が現れ、一瞬ケンカ腰だったが明智のことを口にすると相手の態度は一変した。
急に腰が低くなり、明智がいるアジトへと丁寧に案内された。
連れてこられたのは、町の一角にある8階建ての廃ビルの屋上だ。
「明智さん…、神崎さんです」
欄干に背をもたせかけながらタバコを吸う男。
雰囲気は昔のそれとは違っていたが、その面影から間違いなく明智だとわかった。
「明智…か?」
「神崎…!」
神崎の姿を見るなり、明智は嬉しそうな顔で神崎へと近づき、「久しぶりだなぁっ」とタバコを咥えたまま神崎の右手をとり、両手で握りしめた。
「お…、おう、おまえも元気そうだな…」
「おい、なにか飲みもの持ってこい!」
「はいっ」
あの泣き虫だった明智が、今では自分でチームを作り、下の不良達をアゴで使っている。
廃ビルに入った時に見かけた人数から、大きなチームであることはわかった。
神崎と明智は屋上で缶ジュースを飲みながら今の自分について語っていた。
「おまえ、変わったな。こんな大きなチーム率いるようになっちまって…」
「そっちこそ。噂で聞いてんぞ。あの不良の巣窟・石矢魔の東邦神姫のうちのひとりとか…。さすがオレの尊敬する男だ。それぐらいデカくなってもらわねーと」
「エラそうに言うようになったじゃねーか」
くつくつと笑い、神崎は缶ジュースを一口飲んだ。
「神崎…、それで本題なんだけどよ…」
「ああ。「助けてくれ」ってやつか? 夜叉って解散したんじゃなかったっけ?」
「最近、また復活したそうだ。黒狐を潰した因幡の影響が大きい。ほぼ中坊で出来てたが、そのリーダーが、寿研人。黒狐に追い込まれて一時的に解散した夜叉のリーダーでもある」
「!」
真相を知っている神崎は驚いた。
仲間を裏切ったはずなのに、どのツラを下げてまたリーダーを名乗っているのか。
憤りすら湧いてくる。
「……因幡とは仲が良いのか?」
「…それなりにな。昔のおまえほどじゃねえが、よく懐いてくる」
「その因幡が…、近々、夜叉に戻ってくるってのは本当なのか?」
「…あ?」
初耳だった。
そんな話があれば真っ先に報告してくるか、悩みを言ってきそうなのに。
「寿の奴がふれまわってたんだよ。オレ達に追い詰められてるからって、虚言かもしれねーけど…、用心に越したことはない。神崎、おまえにはオレ達の勢力拡大に協力してほしい。それで、もし因幡本人が出てきたら、おまえに止めてほしいんだ。オレだって、おまえのダチとケンカおっぱじめるのは気が引けるからな」
「そうは言ってもな…」
困惑の表情をして後頭部を掻くと、一度間を置いて明智は言う。
「一部のヤツしか知らない情報だが、寿のヤロウ、夜叉が復活する前はとんでもないことをしてたらしい…」
「?」
寿が裏切ったせいで夜叉が解散したのは知っているが、他になにがあるのかと神崎は首を傾げた。
「夜叉が解散したあと、他の町で暮らし、他のチームに入ってこき使われていたらしいが、状況が悪くなるとすぐ相手のチームに寝返ったらしい。せっかく腕も立つってのにもったいねえ奴だ…」
「ちょっと待てよ…。なんでそんな奴が当たり前のように夜叉のリーダーやってんだ?」
「新生・夜叉が呼び戻したんだよ。旧・夜叉をな。結果、リーダーと一部の古参が舞い戻ったって話だ…。寿はあっちでは偽名を使っていたからな。こっちには伝わらなかったようだ」
「……………」
「名のあるこの町を取りたいのか、オレの要求にも応じねえ。それはそれでタチが悪くてな。追い込んだかと思えば、簡単に仲間を囮に使って撒きやがる。…因幡が戻ってくるっつっても、仲間としてか、捨て駒としてか…。そこで、神崎…」
「要は、できれば因幡には参戦してほしくないってか? 苦戦しそうだもんなぁ。オレに止めてほしいっつーのはそういうことか」
「……ぶっちゃけ、そうなる」
勘の良さに明智が苦笑すると、神崎は笑い返してケータイを取り出した。
「まあ、その方がいいだろうな。回りくどい言い方しねーで、正直に言えよ」
すぐに因幡と連絡を取ろうとしたが、思い留まり考える。
止めるとは言ってもどうしたものか。棄見下町に行くな来るな、と言えば来そうだ。
あちらが、好奇心が旺盛なのもお節介なのも、この半年で十分理解している。
「……神崎?」
「…理由を話さずに留まらせるにはどうしたらいい?」
「は?」
神崎が今から直接石矢魔に戻って留めることも考えたが、寿が先に動き出しているかもしれない。
すれ違いになるのもバカな話だ。
耳から煙が立つほど考えたあと、神崎は静かにケータイを閉じる。
「電話しないのか?」
「…あいつが来るかもしれないっていうのが本当かわからねーし、あいつがもし過去を水に流して、そのリーダーについてくるようなことがあったら、オレが全力で追い返す」
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