34:ウソツキは誰ですか?
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棄見下町に漂う霧は、夕日が沈むとより一層濃くなっていた。
それを、棄見下町の一角にある8階建ての廃ビルの屋上から眺め、好物のヨーグルッチを吸う神崎。
じゅこ、と音が鳴って飲み終わったことに気付く。
「嫌な役をやらせてしまったな」
そこへやってきたのは、火の点いてないタバコを咥えた明智だ。
「明智…」
「けど、これでよかったんだ…」
神崎の隣にきて町を眺めながらそう言うと、胸ポケットから緑色のライターを取り出し、火を点ける。
「……………」
神崎はストローを咥えたまま、欄干にもたれる。
明智は横から吸いかけのタバコを神崎の目前に差し出し、「一口吸うか?」と尋ねた。
神崎は首を横に振る。
「未成年は喫煙禁止」
「ははっ。真面目な不良だな」
小さく笑った明智は再びタバコを咥え、ふう、と夜空に煙を吐き出した。
「神崎…、明日のことだが…、もし因幡が諦めずに来たらどうする?」
「オレが止める」
「カッコいいねぇ。けど、「次はねえ」と宣言した以上、オレも手加減しねえからな。示しがつかねえし」
「わかってる。…なぁ、ここらへんに自販機ねえか?」
カラのパックをぷらぷらと振ると、察した明智は「買いに行かせるけど?」と言うが、神崎は「いや、自分で買いに行く」と断る。
「自販機ならこのビルの横に設置されてたと思うが…、壊されてるかも」
明智は人差し指で足下を指さした。
こちらも不良の巣窟だ。
金欲しさに自販機を壊す輩もいる。
「行くだけ行ってみる」
神崎は屋上の出入口へと向かった。
「ああ、外へ出るのはいいけど、地下には行くなよ」
「しつけーな。3回聞いた。なに隠してんだ。エロ本か?」
「地下全部使ってか?; 違ぇよ。下っぱ共の休み場になってるからあまりオススメしねーだけ。今、早々からちょっかいだして呆気なくやられちまったヤツらの手当てしてるところだし…」
男鹿にやられて運びこまれてきた連中を思い出す。
「…わかった」
頷いた神崎は階段を下り、外へ出る。
入口に立っていた2人のノーネームが神崎の姿を見ると、反射的に「おつかれさまっス」と一礼した。
神崎は右側の路地を見たが自販機はなく、左側の路地に移動してそれを見つける。
近づいてみたが、ガラスはヒビ割れ、蓋は力ずくでこじ開けられていた。
下には缶ジュースが転がっていたが、いつのものかわからず、拾って飲む気も起こらない。
「―――ったく…」
足下に転がるお茶の缶を奥へ蹴飛ばし、踵を返して路地から出ようとした。
「ん゛っ!?」
そこで突然、背後から伸びた右手が神崎の口を塞ぎ、続いて伸びてきた左腕は腕ごと体をしっかりホールドし、奥へと連れ込む。
易々と捕まってたまるかと正体不明の輩に反撃しようとした神崎だったが、その前に左腕と右手を外され、両肩をつかまれてくるりと正面を向けられ、その人物にぎょっとする。
「姫か…っんぶ」
「しぃ~」
再び右手で口を塞がれ、姫川は空いている左手の人差し指を自分の口元に当てた。
「奥で話そうぜ」
親指で路地の奥を指すと、神崎は迷っているように視線を彷徨わせ、小さく頷いた。
路地の奥は、高い塀があり、行き止まりになっていた。
もし神崎が一声上げればすぐにノーネーム達が駆けつけ、姫川は逃げられない状況に追い込まれるだろう。
それがわからないほど、この男はバカではない。
それは神崎自身もよくわかっていた。
わかっていても話し合いの場にここを選んで連れて来たということは、神崎がそうしないと信じているからだ。
「話ってなんだよ…」
ちゃんと小声で話しかけてくれていることに、姫川は薄笑みを浮かべると、「わかりきったこと聞いてんじゃねえよ」と言った。
やっぱりそのことか、と神崎はため息をつく。
姫川は塀に背をもたせかけ、腕組みしながら神崎の言葉を待った。
「…因幡には話すなよ?」
上目遣いで念を押すように言うと、姫川は頷く。
「聞いたら大人しく帰る」
「…………学校休む前日、オレの家に一通の手紙が届いてた」
神崎は経緯をゆっくりと語りだす。
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