33:友達は選びましょう。
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やってきた棄見下広場は、芝生が広がるだけの殺風景な場所だ。
薄い霧が立ちこめ、視界も悪い。
これでも、まだ活気があった頃は子ども達の遊び場になっていたらしい。
「…!」
近づくにつれ、人影が見えてきた。
広場の中心に立つのは、真っ白な短髪で、左耳にいくつものイアリングを連ねた男だった。
瞳は大きく、意外にも甘めの童顔で、口に咥えたタバコが不釣り合いだ。
体つきや身長も古市と並ぶほどいかついわけでもなかった。
「あいつが明智ってヤツか?」
「ああ」
因幡の問いに頷く寿の目は真剣だ。
油断を許さないといった空気を纏っている。
「明智さーん、助けてー」
名護が棒読みで助けを請うと、明智はタバコの煙を吐き出し、露骨に舌を打った。
「呑気につかまってんじゃねーよ、名護。正直見捨てようかと思った」
「ううん。明智さんがツンデレなの知ってる」
「今すぐここで捨てるぞ」
そう言ってから寿を睨みつける。
「寿、てめーの答え、出たんだろうな?」
「い、言ってるだろが。オレはてめーらの下にはつかねえよ! 夜叉は渡さない! これが答えだっ!」
寿が意思をぶつけると、明智は「あ、そ」とタバコの煙を吐き出す。
興味がなさそうな顔だ。
「人質交換だ。ちゃんと連れてきたんだろうな?」
因幡が凄むと、明智は「あー…」と視線を上に向け、ドーナツ型の煙を吐き出してからタバコを足下に捨てる。
「あれは、ナシだ」
「あ!?」
ゴッ!
背後から聞こえた鈍い音にはっと振り返ると、名護の右足が寿の腹にめり込んでいた。
「うげ…っ」
「寿!!」
前のめりになった寿の手元からロープが離れると、名護は明智に向かって駆けだす。
「逃がすか!!」
男鹿は宙に浮いたロープの先端をつかんで寿の動きを封じようとしたが、名護の笑みは消えない。
「お粗末」
ブチリッ、と簡単にロープを引き千切ってみせた。
「ただいまぁ」
「次はねえからな」
あっという間の出来事だ。
名護はいつでも逃げられるとわかった上でわざと捕まり、夜叉の好きなようにさせていた。
「あいつ…、初めから…!」
「ザマァ」
名護は因幡達に指をさしてバカにする。
「てめーの答えも聞けたことだし…、潰す」
明智が宣言すると、敵意を受け取った因幡は寿の前に立って睨み返す。
(あいつが因幡か…)
明智が目を細め、動き出そうとした時だ。
「待てよ」
明智の背後から声がかけられた。
薄霧から出てきた人物に、因幡、姫川、古市は目を見張る。
金髪、口と耳を繋ぐチェーン、迷彩服の上に青と白のジャージ。
今ではすっかり見慣れた姿だ。
「神崎…」
「神崎先輩…!?」
姫川に続き、古市も我が目を疑うようにこぼす。
「おまえ…、どうしてここに…?」
夏目のメールにあった、神崎が向かった場所がここだと知って、まさかとは思っていた。
それは姫川も同じだった。
考えたくはなかったが、ノーネームと関わりがあったとは。
混乱しまいと耐え、因幡は神崎に声をかける。
「か…、神崎…。なぁ…、なんで……」
「アホが。それはこっちのセリフだ。てめーの後ろにいるヤツに一生モンの傷背負わされておきながら、なんで平然と戻ってこれんだよ。神経疑うぜ」
「オレは…っ」
神崎がここにいると聞いて、と話そうとしたところで止めた。
たとえ神崎がここにいなかったとしても、自分なら寿のところに駆けつけたのではないかと考える。
口を噤む因幡に、神崎はため息をついて姫川を睨んだ。
「てめーも、のこのこついてきてんじゃねえよ…!」
「あ゛!? それよりまずは質問に答えろや。てめーがそいつらについてるわけを! 納得いくようにな!」
低い声で催促する姫川に、神崎は隣の明智の肩に手を置いて口を開く。
「こいつはオレの古なじみだ。わけあって協力してる…」
「はっ。東邦神姫の神崎一が敵の側近に格下げかよ。見損なったぜ」
「そんなんじゃねえよ。知った口叩くなフランスパン」
「はぁ…!?」
険悪になる空気に耐えられず、古市は「ちょ、ちょっと…、先輩方…」と間に入ってなだめようとする。
因幡はぐっとコブシを握りしめ、一歩一歩ゆっくりと神崎に近づいていく。
「引けよ、因幡。2度とこの町に戻ってくんな」
「そういうわけにはいかねえんだ…。こっちにも事情がある。そっちこそ引いて、仲間を返してくれ…」
「夜叉に良い思い出なんざひとっつもねーだろ! てめーが体張る筋合いはねえんだ!!」
「あったからここにいるんだ!! どけよ!! 神ざ…」
その時、ドンッ、と肩を突き飛ばされ、尻餅をついてしまう。
突然のことに、因幡は目の前が真っ白になった。
神崎はそんな因幡を見下ろし、「帰れ」と警告するように言う。
「……オレ達より…、そっちにつくのかよ…。神崎…」
うつむきながら漏らしたその声は震えていた。
「……因幡、オレとそいつ、どっち選ぶ気だ?」
「先に質問してんのはこっちだっ!!」
「てめーが答えろ!!」
2人の間に、静寂が流れる。
「……もう答え、出てるんだろ?」
その呟きとともに因幡は勢いよく立ち上がり、
ゴッ!
神崎のアゴに頭突きを食らわせた。
「ぐ…っ! この…バカがっ!!」
ガン!
負けじと神崎もその脳天に頭突きをやり返す。
その光景を明智の背後から眺めていた名護は「あーあ」と言葉をこぼす。
「だから…、行かない方がいいって言ったのに…」
.To be continued