33:友達は選びましょう。
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因幡、古市、姫川はその光景に唖然としていた。
ノーネーム達が全員焦げた臭いを漂わせながらノビている。
「…天災でもあったのかよ…」
姫川は傍で倒れているひとりの頭を、スタンバトンの先端でつつく。
死人のようにピクリとも動かない。
因幡はゼブルブラストをまともに受けた男達を見下ろし、ガラスが砕け損ねた男達は呻きながらもこちらを睨んでいた。
数分後、また動き出すだろう。
(…ノーネームと、悪魔が関わってる…?)
そんなことを考えていると、
「因幡! こっちだ!」
近くの路地から声がかけられた。
全員がそちらを見ると、寿が手を振っているのが見えた。
「もしかして、夜叉のリーダーって、あの人ですか?」
電車に乗っている間、古市と男鹿は因幡から事情は聞いていた。
「そうだ」
無表情の因幡からは今の心境は読みとれない。
「スゲェ…! これ全部ひとりで…!?」
倒れたノーネーム達を見下ろして驚く寿に呆れた因幡は、「そんなわけねーだろ」と自分の後ろにいる男鹿達を指さした。
「だ…、だよな? とにかくここは離れた方がいい。他のノーネームの奴らが騒ぎを聞きつけてくるかもしれない…! マジで」
「まだいるのかよ。軽く学校が作れそうじゃねえか」
肩を落とすが、ぐずぐずしてはいられない。
遠くから足音が聞こえてきた。
また面倒なことになる前に、寿についていきそこから離れる。
寿を先頭に到着した場所は、廃墟になったパチンコ店だ。
割れたガラスのドアから入り、奥へと進む。
「この町に集会所作るなんて…」
因幡は敵地にアジトを作った寿に呆れを隠せない。
寿は前を歩きながら言った。
「どこに作っても同じだ。奴らはどの町へ逃げても攻めてくる。阿利華町で、仲間が次々と捕まったし…」
パチンコ店に電気はない。
薄暗い店内を歩き、奥へと向かって行くと、数十人の青年がいた。
全員“夜叉”だ。
因幡を見るなり、「あの人が因幡さん…」とざわめく。
尊敬の眼差しを向ける者もいた。
「それにしてもびっくりした…。マジで。姫川さんどころか、あのアバレオーガまで連れてくるとは…」
男鹿の噂はこの町まで届いていた。
因幡としては連れてくる予定は微塵もなかった。
「こいつらは成り行きだ」
パチンコ店の奥につくなり、各々が椅子やら床に座り、会議が行われる。
男鹿、古市、姫川は椅子に座り、因幡はパチンコの台の上に座った。
「連れ攫われた連中は、中坊がほとんどだ。どいつも、帰宅途中に襲われた」
パチンコ台に背をもたせかけて言う寿に、因幡は尋ねる。
「親とかは? 数日くらい姿消したら警察沙汰だろ」
「それが…」と寿が説明しようとしたところで、姫川が割り込む。
「簡単だ。攫った奴らに電話かけさせりゃいいんだ。親に。「友達の家に泊まる」とか」
「そ、そうだ…。詳しいな…」
「まあな」
それを聞いて、攫われた経験のある古市は失笑してしまう。
「それで、寿、おまえはオレ達にどうしてほしいんだ?」
「ノーネームを潰して仲間を取り戻してほしい」
「簡単に言ってくれるけどな…」
「いや、因幡達ならできる…。あんな人間離れしたノーネームをブッ倒したんだ。できないことはない…! マジで言ってんだぞ、オレは!」
それを聞いて、夜叉達も「あいつらを…」「そりゃ頼もしい」と驚いた様子だ。
被害にあったのか、見回せば、包帯やガーゼをしている者も少なくない。
寿も右手に包帯を巻いていた。
「あいつらが攻めてくる前にこっちから攻めて、仲間を奪還する…!」
「意気込みはいいが、具体的にどうするかって話だ。相手のアジトの場所は? 内部は? 仲間が捕まってる正確な位置は? リーダーはどんな奴だ?」
姫川が苛立ち混じりに問い詰めると、寿は「えーと…」と目を泳がせる。
「ほぼノープランかよ」
「リーダーの名前は明智ってことしか…」
「名前だけでもな…」
姫川は呆れて項垂れる。
「寿、ちょっと席を外していいか? すぐ戻る」
「え…? ああ…」
寿から許可をもらい、パチンコの台の上からおりた因幡は、男鹿に声をかけて2人でスタッフルームへと移動する。
周囲の怪訝そうな視線を背中で受けつつ、扉を閉めたあと、「こっちはこっちで話まとめようぜ」と言った。
「あ?」
「悪魔が無差別契約してるって話…。敵の体の一部についてたガラスが、たぶんその“契約”の証だと思う。人間離れした理由もそれだ」
「…確かにな。それはオレも思った。おまえが関わってる、ノーネームだっけ? それと繋がってるってことか?」
「たぶんな。理由はわからねえけど、そいつらに加担してる悪魔がいるってことじゃねえか? それで…、大魔王とやらに頼まれておきながら、ヨメが来ないのはなんでだ?」
ヒルダが悪魔だと知った上で聞く。
ベル坊の侍女悪魔なら、同行するべきだろう。
「あー…、なんか、この町、契約してない悪魔には厳しんだと。体に害を及ぼすからって」
「害?」
「吐き気を催し、すっぱいものが食べたくなるってよ」
「つわり!?」
「そういう空間にされちまってるって」
移動手段であるアランドロンも入ることができなかった。
偵察に行って戻ってきた際、「貴之の子どもかと思いました」と非常に気色の悪いことを言っていたのを思い出し、男鹿は再び「おえっ」と気持ち悪くなる。
「…おまえが害受けてんじゃ…」
「いやこれは別の害だ」
因幡は腕を組んで考える仕草をする。
「……なるほど。それも、ノーネームについてる悪魔の仕業か…」
人間と悪魔が契約した男鹿とベル坊、因幡とシロト。
シロトになにも影響がないのもそのおかげなのだろう。
「おまえ、悪魔についてよく聞いてくるよな。普通は信じねえんじゃねーの? オレ話したっけ?」
「オレも悪魔と契約してるからな」
「は!?」
さすがに驚く男鹿。
「どこの魔王と?」
「いや、オレのは魔王じゃなくてな…」
説明に困りつつ、因幡は右足の靴の爪先で軽く床を叩いた。
「おまえのことはうちの悪魔からちょっと聞いてる…。けど、オレも、おまえらや悪魔に関しては深いとこまでは知らねえんだ。一応オレは人間らしいし、流れで契約されちまったけど、その悪魔とは今喧嘩中」
こうしてなにも喋ってこない。
「??? 曖昧っつーか、面倒っつーか」
「ぶっちゃけすっごく面倒だ。どうしてこうなったか経緯をじっくり話したいとこだけど、また今度でいいだろ。とりあえず今は、ノーネームの奴らに無差別契約してる奴を引きずりださねえと…。そうすれば、オレの問題も解決しそうだ」
「利害一致だな。…で、どうする?」
互いの悪魔関係を明かしてすっきりしたところで、因幡と男鹿はスタッフルームから出てきた。
「姫川、作戦役任せていいか?」
「今、そういう話をしてるところだ」
姫川はいつの間にか夜叉達の中心に立っていた。
古市と夜叉達は困惑げな表情を浮かべている。
「けど…、それじゃあ…」
寿が意見しようとしたところで、姫川は「やったらやり返せだ」と厳しい口調で言う。
「人質には人質だ。そんじょそこらの下っ端じゃなくて、そのリーダーの側近的な存在を捕まえて人質交換に出せば、向こうだってやむなく出すはずだ。潰す潰さないはそのあとでいいだろ。それか、金使って…」
「外道なやり方だが、人質作戦は賛成だ」
遮るように因幡は前者の提案に同意した。
寿の表情は不服そうだが、甘いことも言っていられない。
「寿、仲間助けたいなら手段は選ぶな。昔から甘いんだよ、おまえは」
それを聞いて、寿は懐かしげに微笑んだ。
「…その言葉を聞くのも懐かしいな。マジで。昔もそう言って引っ張ってくれたっけ…」
「……………」
因幡も懐かしさを覚える。
寿はリーダーとしては思い切りが足りず、背中を押したことは何度かあった。
夜叉にいた頃の思い出が頭をめぐったとき、姫川のてのひらが頭に載せられる。
「ああは言ってるが、おまえもけっこう甘ちゃんだからな?」
「うるせーよ姫川」
「見下ろしてんじゃねえよ」とその手を払ったとき、寿は「そういえば」と思い出したように言った。
「側近なら、名護ってヤツが…。あとひとり、名前は知らないけど、最近入った金髪の男が…」
「「!!」」
因幡と姫川は同時に寿に顔を向けた。
「金髪って…!」
ひとりの人物しか思い当たらない。
因幡が問い詰めようとした時だ。
「面白そうな話してるねぇ。オレにもkwsk」
「「「「「!!?」」」」」
いつからそこにいたのか、パチンコ台の上に同じ年頃の男がしゃがんで因幡達を見下ろしていた。
ワカメのような黒の長髪を後ろに束ね、目の下には隈があり、緑のツナギを着ていた。
その右のこめかみには、あのガラスが埋め込まれている。
それに気付いた因幡達が距離を置くと、手を額に当てて敬礼のポーズをとる。
「ども。噂の名護でーす。気軽に「名護ちゃん」と呼んでくれ。ただし、女子に限る!」
その視線は因幡に向けられていた。
「いつからそこに…」
「随分真剣な話してるからずっと聞かせてもらった。そしたらオレを捕まえるとか聞こえてくるし。ワロタ」
首を傾げ、口元に不気味な笑みを浮かべた。
「つ、つかまえろっ!!」
寿が怒声を上げると、夜叉達が一斉に飛びかかった。
名護は触れられる前にジャンプして夜叉のひとりの背中を踏んで、姫川の目の前、因幡の背後に着地する。
「だが断るっ」
(こいつ…!)
(さっき戦ったヤツらとは違う…!)
姫川はスタンバトンを振るい、因幡は振り向き際にパンチを振るったが、紙一重でかわされてしまう。
「お?」
迫るは男鹿。
手を伸ばして胸倉をつかまれそうになるも、名護は腰をひねり、上半身を反らして避ける。
「!」
「暴力反たー…い!?」
その時、名護は背後からホールドされてしまった。
「あの…、捕まえました」
とんだ伏兵・古市。
「しまった! モブすぎて気付かなかった!!」と名護。
「よくやったモブ市!!」と男鹿。
「大した奴だモブ市!」と因幡。
「そのまま放すんじゃねえぞ、モブ!」と姫川。
「「「「「モブゥッ!!」」」」」と歓声を上げる夜叉達。
「褒めてるんですよね!!?」
活躍したのに古市は素直に喜べなかった。
古市の活躍によって、名護はロープで腕と胴体を一緒に縛られたが、平然と胡坐をかいて座っていた。
無駄な抵抗をする素振りは今のところ見せていない。
「飛んで火に入る夏の虫だな」
大人しく捕まる名護を見下ろしながら、姫川は呆れるように呟く。
「今は秋」
「季節じゃねーよ。ことわざだ」
つっこむ名護に言い返す姫川。
名護を縛る縄の先は寿の手元にあった。
「人質は手に入ったが、このあとは?」
古市が尋ねると、姫川は名護に近づき、ポケットを漁った。
「え、なになに?」
「動くなボケ」
取り出したのは、スマホだ。
アドレス帳を開き、リーダーの番号を見つけた。
“明智翔”。
「これだな」
確認したあとは躊躇なく電話をかける。
「ちょ…っ!」
心の準備もしていないのに勝手に通話しようとする姫川を止めようとした寿だったが、相手はすぐに出た。
「あーもしもし? 夜叉だけど、人質は預った。相手は誰だかわかるよな?」
すると姫川は名護の耳にスマホを当て、「なにか喋れ」と促す。
名護はバツが悪そうな顔をして、咳払いをしてから声をかけた。
「……てへぺろっ」
途端に、電話越しに怒鳴り声が聞こえた。
名護は姫川に「もう少し離して」とお願いする。
「ふざけてないよ。どうしてこうなったか…。オレだって捕まるの予定外だったし…」
姫川はもう一度耳元に戻す。
「―――で、取引しねぇか? 交換条件はわかってんだろ? 場所は…」
取引場所を指定されると、姫川は「じゃあそこで」と通話を切った。
とんとん拍子に話が進み、寿達は唖然としていた。
「この近くに広場ってねえか? そこで人質交換だ」
「…さすがよ、マジで」
寿は思わず笑みをこぼした。
「……じゃあ、行くか」
因幡が一歩踏み出した時だ。
「アンタは行かない方がいいと思うぜ?」
名護が意味深な言葉を口にした。
「あ?」
因幡が振り返り睨むと、名護は憐れむような目を向けていた。
ゾッと背中に悪寒が走ったが、強気に出る。
「…ふざけんな。次に妙なこと口走ったら転がすぞ」
そして、寿達と共に取引場所へと向かった。
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