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黙ったまま徒歩で数十分歩いていくと、先頭を歩く因幡は途中で路地に曲がり、直進する。
しばらくすると、住宅街に出た。
そこからさらに歩き、ふと、荒れた空き地を見る。
部外者が入れないように有刺鉄線で隔たれ、“売却地”と書かれていた。
一度立ち止まった因幡はそれを見つめながら、「やっぱりな」とため息混じりに呟く。
「なにが?」
男鹿に尋ねられ、振り返った因幡は無表情で親指で空き地を指さす。
「オレが住んでたとこ。まさか更地にされてるとはな」
「!」
はっとした古市は空き地を再び見る。
「寂しくなっちまったなぁ」
因幡は呟くように言ってから歩きだした。
後ろから見ても、落ち込んでいる様子はない。
それどころか、鼻歌を歌いだした。
しばらく進んだところで、目の前に、鋼タイドアーチ橋が見えてきた。
その先は別の町並みが見える。
因幡は指をさした。
「ここから先が棄見下町だ」
活気ある阿利華町と違い、昼間だというのにどこか雰囲気は暗く、あちらの町だけ薄く霧がかっているようだ。
車どころか、人通りもない。
「さよなら」
「させません」
古市が一歩たじろぎ、一気にダッシュで逃げられる前に男鹿は首根っこをつかんで止める。
「どこの“サイレント・○ル”だっ!! 絶対なにかあるしっ!! オレのヘタレ本能が行くなって全力で警告してんだよっ!!」
「……………」
微かだが、因幡は橋の向こうに魔力を感じ取っていた。
それは男鹿も同じだ。
古市をホールドしながら鋭い目付きで因幡と同じ方角を見据えている。
「オススメはしねーぞ。ここから先は冗談抜きで危ねぇからな」
そう言いながら、因幡は先に歩きだす。
古市を引きずる男鹿と、姫川はそれに続いた。
それを目の端で確認した因幡は、棄見下町について語りだす。
「阿利華町が発展していくにつれて古くからある棄見下町は活気が衰え、商店街も次々と潰れ、そこに住んでた奴らのほとんどは隣の阿利華町に引っ越した。オレがこの町に引っ越してくる前からそうだった。いつの間にか不良共のバカデケェ溜まり場になっちまって、治安は最悪。どいつもこいつもあの町で汚れに磨きがかかって…、そう言っちまったら矛盾になるか。…んで、暴れ足りない時は阿利華町にちょっかいを出す。ケーサツは、事件があれば真っ先にこの町に通う奴らを疑ったが、よほど大きな事件じゃないかぎり、深くは関わってこない。キリがねぇからな。それに、報復も恐れてる。深夜に交番が奇襲されたとか、おまわりさんがボッコボコにされたとか、よく聞いた」
「帰るぅぅ!!! オレもう帰るうぅっっ!!!」
予想以上の悪の巣窟っぷりに古市はバタバタと暴れたが、それでも男鹿は無表情のまま放さない。
「ほう?」となにを期待しているのか目を輝かせている。
「さすが、詳しいな」
姫川としては褒めたつもりだったが、因幡には皮肉にしか聞こえず、「フン」と鼻を鳴らすだけだった。
橋の長さは160m。
棄見下町に到達した因幡達は、シャッターがすべて閉まった商店街の道の真ん中を歩く。
阿利華町と違い、人の気配はなく、辺りは静まり返っていた。
まさにゴーストタウン状態だ。
「肝試しに最適だな」と姫川。
「遊び感覚でやった奴は、翌日真っ裸で橋の前に捨てられてたけどな」と笑う因幡。
「ケッサクだったろうなぁ」と笑う男鹿。
「キャッキャッ」と笑うベル坊。
(笑い事…っ!!?)
古市の顔はさらに蒼白になる。
どちらかと言えば真っ裸にするメンツの会話についていけないうえに笑いどころも見つからない。
「古市」
「え。帰っていいのか!?」
不意に男鹿に声をかけられ、古市は期待をこめて尋ねる。
「しゃがめ」
瞬間、男鹿のコブシが目の前まで迫ってきた。
「うわっ!?」
反射的にしゃがんだ古市の頭上を通り越したコブシは、古市のすぐ後ろにいた人間の顔面に当たり、派手に後ろに吹っ飛ばした。
「「!!」」
因幡と姫川は立ち止まって振り返る。
「早速おでましかよ…!」と男鹿。
周りを見ると、商店街の路地から次々とガラの悪い人間がぞろぞろと出て来た。
仲間が吹っ飛ばされたというのに、男鹿の強さに怯んだ様子は見せない。
「あーあ、あんなに吹っ飛んじまいやがって…」
「あいつ…、えーと…」
「ポチじゃなかったっけ?」
「どうでもいいだろ、名前なんて…」
その会話だけで連中が何者かを悟る。
(ノーネーム…!!)
あっという間に囲まれた因幡達は背中合わせになり、相手の様子を窺い、戦闘準備に入る。
姫川は腰からスタンバトンをつかんで構え、因幡は右手をポケットに突っ込み、男鹿はコブシを鳴らした。
「―――で、こいつらブッ飛ばしていいのか?」と男鹿。
「じゃねえと、オレらがやられちまうだろ?」と姫川。
「これだよ。こうなると思った」と古市。
「アイサツといこうじゃねえか」と因幡。
「たった4人でオレらと喧嘩しようってか?」
目測で50人はいるだろう。
せせら笑う男に、男鹿は肩に乗るベル坊を親指でさす。
「よく見ろ。5人だろ」
「ダウィ~」
ベル坊は、オレを忘れんな的に親指で自分を指した。
「ああそりゃ悪かったなっ!!」
ひとりが角材を持って男鹿に突進する。
ワンパンで終わりだと思った途端、いきなりその男が一瞬のうちに男鹿のすぐ目の前まで迫って来た。
「「「「「!!?」」」」」
その動きに一瞬驚かされた男鹿だったが、顔面目掛け横に振るわれる角材が目の端に入り、膝をついて避け、
ゴッ!!
アッパーカットを食らわせた。
確かにワンパンで終わらせたが、その額には焦りの汗が滲んでいた。
(なんだ今の動き…!)
男鹿に襲いかかった男だけかと思えば、他の男達も同じように素早い動きで因幡達に襲いかかる。
ガゴッ!!
振り下ろされる鉄パイプを、因幡は横に飛んで避けたが、空振りした角材はアスファルトの地面を割った。
「う…っ!?」
すぐに身を翻し、ポケットから取り出したものをその男の脇腹に当て、スイッチを入れた。
バチィッ!!
「ぎゃあっ!!」
スタンガンだ。
姫川のスタンバトンの威力ほどではないが、体を麻痺させることはできる。
「わっ!!」
古市が襲われそうになり、敵の鉄パイプを奪った因幡は相手の金属バットを受け止めるが、押し負けそうになる。
「ぐ…っ」
「因幡!!」
姫川は因幡と押し合いになっている男の脇腹を蹴り飛ばして助ける。
(男鹿や因幡先輩が押されてる…!?)
男鹿の力をよく知る古市は現状に我が目を疑っていた。
男鹿、因幡、姫川が倒した敵は、しばらくすると目覚め、また襲いかかってくる。
まるでゾンビのように。
「この町の奴らって修業でもしたのかよ…!?」とノーネームの強さに驚かされる姫川。
「そんな真面目そうに見えるか? けど、昔はこんなんじゃなかった…! オレらが鈍ったんじゃね?」と口元だけ笑わせる因幡。
「それはねーな」と自分の強さに自信満々な男鹿。
「…! あれ。ひとりひとりに、なにかガラスのようなものついてません?」
古市はあることに気付き、目の前の男を指さした。
見ると、小さな、ひし形の透明のガラス製のものが首筋に埋め込まれるようにつけられていた。
他の連中を見ると、額につけている者や、手の甲につけている者もいる。
「ノーネームの印みたいなもんじゃねーか?」
姫川は推測する。
ギャングが自分のチームの象徴であるタトゥーを彫ったり、装飾をつけたりするのは珍しい話ではない。
「…!」
目を凝らして見た因幡は、そのガラスが黒く淀んだ空気を纏っていることに気付いた。
そこで思い出したのは、男鹿が言っていた、「悪魔と無差別契約している」話だ。
右頬にガラスをつけた男がこちらに向かってくると同時に、因幡も駆けだした。
相手はくの字に折れ曲がったゴルフバットを握りしめている。
「因幡先輩!?」
相手はゴルフバットを振りかぶった。
因幡は相手の足の動きを目で追い、自分より遅いことを確認すると、相手が振り下ろすより早く鉄パイプを横に振るう。
パリィン!!
右頬にめり込むと同時にガラスも粉々に砕けた。
相手は地面を転がり、そのままノビる。
それを見たノーネームはざわめいた。
「あのガラスを壊せば…!」
ただの人間に戻る。
「男鹿、姫川、ガラスだ! 壊せば弱くなる!」
「そんなバカな」
呟く姫川の前に、左手の甲にガラスをつけた男が迫る。
男はそのコブシで殴りかかろうとし、姫川は目でガラスの位置を確認し、その手に向けてスタンバトンを振るった。
すると、ガラスは簡単に砕け、男は「あ」という顔をして姫川の第2打撃に気絶させられる。
「…!」
先程はすぐに起き上がられたが、沈んだままだ。
「なら、一気に片付けてやる…!!」
男鹿の腕に、蠅王の紋章が広がる。
(あの時の…!!)
因幡はバレーボールで敵を全滅させた時のことを思い出した。
「離れた方がいい?」と因幡。
「ですね」と古市。
「なにがだ?」と姫川。
因幡と古市は姫川を引っ張り、男鹿の後ろに避難する。
「ゼブル…ブラストォッ!!!」
カッ!!!
稲光が辺りを包みこみ、ノーネーム達の悲鳴は轟いた。
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