32:行くか行かないかは。
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因幡、姫川、寿の3人は近くのカフェに立ち寄った。
あの状態で話を続けていたら、警察を呼ばれそうだったからだ。
窓際の席に座り、先程自販機で飲んだばかりだがコーヒーを注文した。
寿の奢りだ。
因幡も落ち着いてきたのか、険しい顔はどこかへ行き、無表情で窓の外を見ていた。
寿は運ばれてきたばかりのコーヒーを一口飲み、いつ本題に入ろうかと考えたところで、姫川が尋ねる。
「夜叉って解散したんじゃなかったっけ?」
窓際を見ていた因幡は姫川を横目で見、「オレもそう思ってた」と刺のある口調で言った。
「あ…、ああ。黒狐の一件で、一度解散した。…で、去年、また再結成したんだ。因幡が黒狐を乱してくれたおかげで、あっちも一時解散になった。黒狐は“あの町”から煙たがられていたギャングだったからな。その活躍ぶりに憧れて、夜叉の再結成を願う奴らが増えた。おかげでオレもリーダーに再復帰できたんだ」
「よくまあ裏切っておきながら…」
姫川は気を遣わずに、ため息混じりに言う。寿は苦笑し、「それは…」と続ける。
「あの事件は、オレを含め数人しか事実を知らないんだ…。因幡が言いふらさなかったおかげで、真相は知られていない」
因幡に火傷を負わせたのは、強制した黒狐と、リーダーである寿と数人の仲間しか知らない。
真相を知らない者達は、寿達を助けようと身をていし、単独で解決しようと夜叉を抜けたことにされている。
それを知っても、因幡は「ああそう」と反応が薄い。
「てめーとは縁切ったつもりだったし、住所どころか、アドレス・電話番号まで変えた。なのに、なんでここがわかったんだよ」
「わかるさ。黒狐がまた復活したって聞いたら、警戒して向こうの動きを知りたくなるだろ。そしたら、ここ、石矢魔町で、因幡や石矢魔の奴らに潰されたっていうじゃねえか。アンタは、石矢魔の東邦神姫・姫川竜也さんだろ?」
寿は姫川に顔を向けて笑みを浮かべた。
姫川は「へぇ。オレも知られてんだ」とどうでもよさそうに返す。
「で、助けてくれってのは?」
コーヒーを一口飲んだ因幡は、カップをソーサーに戻して尋ねた。
一度間を置いて寿は切りだす。
「…因幡、“ノーネーム”って集団知ってるか?」
「“ノーネーム”?」
聞いたこともなかったが、姫川は別だ。
「素性の知れないあぶれ者どもの集まりだろ? 全員、本名は明かさず、統率者を中心に、他のギャング共を潰したり、逆に仲間に引き入れたりしている。最近また勢力が一気に拡大したらしいな。そこらへんのヤクザでも手に負えねえ。それにあの黒狐も手を焼いたらしい。…んで、こいつはそういうのに疎い」
そう言う姫川は因幡の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
因幡は「逆になんでおまえはそんなに詳しいんだよ」と顔をムッとさせて横目で睨みつける。
「オレだったら、素性の知れねえ奴の下にも上にもつきたくねえが、どうやって集めて従わせてるのか…」
姫川がケータイをいじりだして独りごとのように呟いたとき、寿は悔しげに歯を噛みしめ、目を伏せて語りだす。
「数日前、そいつらが夜叉に取り入ろうとしてきた。当然、オレと、仲間達は断固拒否した。夜叉がただの“名無し”になっちまうのが嫌だったんだ。そしたらあいつら…、オレらの仲間を数人連れ去りやがって…」
「気が合いそうな奴らだな」
「姫川っ」と因幡は肘を小突いてたしなめ、寿に問う。
「ケーサツに、ってわけにはいかねー連中なんだな?」
寿は頷いた。
「近々、奴らが攻めてくる。その際、オレの答えを聞いて、場合によっては潰しにかかるだろう。…その時は確実に潰される…! 戦力が足りねえんだ」
「それで、オレに参戦してほしいってか?」と因幡。
「随分と都合の良い話じゃねえか」と姫川。
すると、寿はまた頭を下げた。
「マジで頼むよ、因幡…。過去のことは水に流せとは言わねえ。ただ、連れ去られた奴らの中には、おまえの背中を追って入った奴らもいる…! 頼む、オレと一緒に…棄見下(すみか)町に…」
「……………」
因幡はぬるくなったコーヒーを見つめ、答えに悩んでいた。
「ダ」
「…………!?」
目の端に、見たことある赤ん坊が窓に貼りついてこちらを見た気がして、勢いよく振り向く。
しかし、そこにはなにもいない。
「因幡?」
突然の因幡の反応に姫川は心配そうに顔を覗きこむ。
「いや…。…とにかく少し考えさせてくれ…」
「……ああ」
寿はそこから先引き止めることなく、紙ナフキンに書いた自分のケータイの番号を因幡に手渡し、コーヒー代を置いて店を出て行った。
窓でその背中を見つめる因幡に、姫川はその横顔を見て声をかける。
「―――で、どーすんの?」
「……行かねえかもな…」
「そっか…。無駄話だったな…」
店を出たあと、因幡と姫川は駅で別れた。
ひとりシートに座り、電車に揺られながら考えごとをしていると、因幡のケータイが一件のメールを受信した。
気付いた因幡はポケットから取り出して画面を開いてメールを確認する。
夏目からだ。
“心配になって神崎君の家に行ってきたよ 神崎君 ここ数日家を開けてるみたい 場所は”
次の文章を見たとき、因幡の目が大きく見開いた。
“わざわざ教えてくれて ありがとう”
メール文を打って夏目に送信したあと、ポケットから紙ナフキンを取り出し、そこに書かれてある携帯番号を自分のケータイに打ち込んだ。
ちょうど目的の駅に到着し、着信ボタンを押して耳当てながら電車を降りる。
(あの町に呼ばれてるみたいだ…)
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