32:行くか行かないかは。
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因幡は昔ほど気にはしていないが、大きな傷を負わされていた。
裏切りという心の傷と、その証である後ろ首の火傷だ。
なかったことにできない思い出。
自分を傷つけて仲間を助けるか、仲間を傷つけて自分が助かるか。
“黒狐”に強制されていたとはいえ、選択肢は自分にあったにも関わらず、リーダーである寿と他の仲間達は自分の身かわいさに、後者である仲間―――因幡を傷つけて助かる道を選んでしまった。
結果、因幡は暴走。
黒狐と自分を傷つけた仲間に大怪我を負わせ、たった独りで黒狐を壊滅に追い込んでから夜叉を去った。
当然、寿もそのことを忘れたわけではなかった。
はっとし、すぐさまその場で土下座する。
「マジ、あの時は悪かった!! けど、おまえも逆の立場なら、同じこと…」
「一緒にすんなっっ!!」
怒鳴ると同時に因幡は寿に振り返って睨みつける。
「夏休みに、黒狐がオレに復讐しに来た。あの時のゲームもやらされた。だが…、今つるんでるこいつと他の奴らは、オレじゃなくて自分自身の犠牲を選択したんだ!! おまえらみたいな腰ぬけと一緒にすんじゃねえっ!! 転がすぞっ!!」
まだ夜叉より一緒にいた日が浅いことにも構わず、神崎達は因幡を傷つける選択をしなかった。
それどころか、因幡が黒狐に傷つけられそうになったところを、身をていして助けてくれたのだ。
一緒にされるのはガマンがならなかった。
「わ…、悪かった…。マジで」
因幡の剣幕に気圧され、寿は再び額がつくほどアスファルトの地面に土下座する。
通行人は何事かとその光景を遠巻きに見ていた。
「4年前の言い訳しにきたんだったら、とっとと“あの町”に帰れ」
「…頼みがあるんだ。そのために…」
「ダメ。帰れ」
「おまえにしか頼めないことなんだ…」
「帰れって…」
「マジで頼む…。助けてくれ…」
「帰れよ!!!」
満喫しているこの日々を、捨てたはずの過去に今更踏み込まれたくなかった。
周りの人間を見ると、こちらが酷いことをしているように見えたのか、視線が冷たい。
「因幡、行くぞ」
そこから動き出せない因幡に、姫川はその肩をつかんで歩を促した。
「話だけでも聞いてくれるだけでいいんだ!! 夜叉の奴らを助けてやってくれ!!」
「…………姫川、ちょっと待ってくれ」
「……はぁぁ…」
姫川は深いため息をつく。
(鬼になりきれねえ奴だな…)
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