32:行くか行かないかは。
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河原をあとにした2人は、町中の自販機の前で買ったばかりの温かいコーヒーを飲んでいた。
冷えていた手も温まる。
「足の調子でも悪いのか? ここ最近、挨拶代わりの蹴り一つねえじゃねーか」
自販機の横に背をもたせかけ、ブラックコーヒーを口にする姫川はふとそんなことを尋ねた。
カフェオレを飲み、自販機の前でしゃがんでいた因幡はニヒルな笑みを浮かべて答える。
「最強すぎて…、封印してるとこだ。隠していて悪かった」
「アホか」
「ははっ」
笑っているが、本当の話だ。
人の腕を骨折した感触は、今でもリアルに思い出せる。
いつかその気もないのに、人を蹴り殺してしまうのではないかと、因幡は恐怖を感じていた。
だから冗談でも迂闊に手をあげるならぬ足を上げることもできない。
そしてそれを、正直に姫川達に相談することもできなかった。
それを証明してみせて、「バケモノ」と蔑まされることが一番恐れていることだからだ。
「…今日も神崎来なかったな」
一口飲んで、因幡が何気なく口にする。
「……張り合いねーな」
「!」
てっきり生返事を返されるかと思ったが、意味深な言葉に大袈裟に振り向く。
「寂しいのか!? 寂しいんだろ!?」
「反応が異常なんだよ! さすがに数日続くとだな…。てめーだって、何度も神崎の席チラッチラ見てんのバレバレだっつーの」
因幡の後ろの席なので姫川にはバレていた。
「風邪…にしては長続きだな」
「? 風邪なのか?」
「いや、オレが勝手に思ってるだけだけど、違うのか? なにか聞いてる?」
「あのバカが風邪引くわけねーだろ。…てっきり…、どっか行っちまったんじゃねえかと…」
「どっか?」
「わかんねーけど、そんな気がすんだよ…」
それを聞いて、シロトの一部を持つ姫川が、同じくシロトの一部を持つ神崎の居場所が無意識にたどれることを思い出した。
それは神崎も同じだった。
姫川が神崎がどこかへ行ったと言うのなら、きっと神崎はその「どこか」に行ったままなのだろう。
(旅行か…?)
そう考えながら、因幡は自販機の横に設置された缶のゴミ箱に直接捨てた。
「因幡…!」
「「!」」
突然声をかけられ、因幡と姫川はそちらに振り返る。
セミロングの直毛の黒髪、こめかみにナイフで切ったような傷痕、細目で中性的な顔立ちをした男がそこに立っていた。
因幡は目を大きく見開き、男を凝視していた。
姫川は因幡と男を交互に見る。
(知り合いか…?)
「4、5年ぶりだな…。マジで」
男は微笑みながらも、おそるおそる因幡に近づいていく。
「寿(ことぶき)…」
因幡は小さく呟く。
(寿…? どこかで聞いたような…)
姫川は怪訝な目で、寿という男を見た。
「よかった…。オレのこと覚えて…」
寿が嬉しそうに両腕を開いたときだ。
因幡は一歩下がり、姫川に駆け寄ってその腕をつかんで引っ張る。
「行くぞ、姫川」
「!」
その声は震え、顔は険しい表情だ。
逃げようとする因幡の背中に、寿は慌てて手を伸ばす。
「マジで待ってくれ因幡!! 同じ夜叉の仲間だろ!!」
(夜叉…!)
その単語で、姫川は寿が何者なのかを思い出した。
因幡は舌を打って立ち止まり、背を向けたまま寿に返す。
「今更…、なにしに来たんだ? リーダーヅラしにきたのかよ」
寿は、中2の時に因幡がいた夜叉の元・リーダーだった。
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