32:行くか行かないかは。
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もしかしたら今日来る予定だったが、遅刻してくるのかもしれない。
因幡はそう期待しながら、授業中も休み時間も何度も神崎の席を見ていたが、席の主が息せき切らししながら来ることはなかった。
下校時間となり、因幡は夏目と城山とともに下駄箱の前にいた。
「……悪い、先に行ってくれねーか?」
下駄箱から靴を取り出した因幡は、うんざりした顔で夏目達にそう言った。
「ん?」
「告白されてくる」
自分の靴箱から取り出したのは、“はたしじょー”と書かれた封筒だった。
文字から見て、また頭の悪そうな奴らだと予想できる。
嫌なら行かなければいいだけの話だが、出向かわなければ「逃げた」「腰ぬけだ」などと他の不良達の間で広まるのはもっと嫌だった。
因幡としての不良のプライドというやつだ。
「はーヤダヤダ。姫川みたいな知的タイプとか、夏目みたいな黒幕タイプいないかな…」
「黒幕って…。オレ達が行かなくて大丈夫?」
「てめーひとりでこい、って話だ。ひとりで行く」
「あんまりムチャしちゃダメだよ。最近、ケンカしてないでしょ?」
「余計なお世話」
心配ない、と言いたげに微笑んだ因幡は、夏目の胸を軽くコブシで打ち、2人の間を通過した。
待ち合わせ場所である河原では、藍色の学ランを着た10人の他校の不良達がたむろしていた。
(こっちひとりなのに、あっちひとりじゃないし…)
帰ろうかと思った因幡だったが、その前にその中のひとりに現れたところを発見された。
「堀さん! 来ましたよっ」
掘と呼ばれた体格のいい男は立ち上がり、「来たか」と因幡を見る。
「この間はうちのヤロウ共を可愛がってくれたそうじゃねえか…」
「この間ってどの間だよ。心当たりありすぎなんだよ」と呟きながら、やる気なさそうに堤防を下りてくる。
「なにブツブツ言ってんだ。これからオレが倍にして返してやるっ! 最近のてめーは弱くなったそうだからな! こんなチャンス、逃しはしないっ!!」
指をさし、充分すぎるほど大きな声を出す。
因幡は怯むことなく、「あー、はいはいそうですか。課題にするから」と、弱くなったという噂があることは心に留めておく。
「このヤロウ…、余裕ぶってんじゃねえよっ!!」
舐めた態度に掘は怒りのままに、因幡に殴りかかった。
後ろの愉快な仲間達は「やっちゃってくださーい」「堀さーん」と野次を飛ばしている。
因幡は右足を地面にこすりつけて相手を蹴ることができるか考えるが、その額には、躊躇いの汗が滲んでいた。
そうしている間に、掘の巨体が迫る。
「グシャッといっちまいなぁっ!!」
(遅い…)
掘はコブシを振り下ろした。
因幡は寸前で一歩下がり、それをかわす。
「グシャッと…?」
前のめりになる掘を見、ニヤリと笑みを浮かべ、持っていた学生カバンを振り上げ、掘の頭上目掛け振り下ろした。
グシャッ!!
「!!?」
掘の頭に、学生カバンがめり込んだ。
その衝撃に、掘はその場に沈む。
「掘さああああんっ!!?」
「そんなバカなっ!!」
「一撃で…!!」
ざわつく集団に、因幡は「早く次の奴こいよー」と手招きした。
その5分後。
他校の不良達は頭に大きなコブをつくり、川に流されていた。
「5分か…。10人相手になんてザマだよ」
堤防に座って流れていく不良達を見下ろしながら、因幡は落ち込むように呟く。
「自己ベストタイムじゃねーのか?」
「! 姫川」
振り返ると、口元をニヤニヤとさせた姫川が立っていた。
下駄箱前で因幡が果たし状を受け取ったところを目撃し、そのまま気付かれないようにつけていた。
姫川は、因幡の横に置かれた学生カバンを手に取り、空いている手で叩いてみた。
重いうえに、こんこん、と金属音がした。
「……鉄板入れたのか」
「あ、バレた?」
学生カバンの中に入れたのではなく、わざわざ夜なべして、一度カバンの底を切って布と布の間に挟むように仕込んだ。
このカバンで殴られればひとたまりもない。
姫川の、防御+相手のコブシを粉砕するために腹に仕込んだセラミック板を参考にさせてもらった。
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