32:行くか行かないかは。
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桜が作った朝食を食べたあと、因幡は、先に家を出た春樹より遅れて玄関へ行こうとした。
「行ってきま…、なに笑ってんだよ」
見送る桜の口元は笑っていた。
振り返ってそれを見た因幡は怪訝な目をする。
「学校行くの、楽しくなってきた?」
「…そりゃまあ、退屈しねーし…。つうか、それ、今更じゃね?」
「母さんと私のことを知っても、変わりがなくてよかった…。むしろ、以前より楽しそうだから、つい、ね…」
「家族のこと、知れたからな。ただ…」
「うん?」
「いや…、行ってきます」
そう言って因幡はダイニングを出て、玄関へと向かった。
途中でコハルの仕事場をのぞいてみるが、誰もいない。
「……………」
ドアを閉めて廊下を渡り、ドアの曇りガラスから日が射す薄暗い玄関についた。
自分の靴を見下ろし、声をかけてみる。
「シロト」
契約者である名を呼んでも、シロトは返事を返さない。
あの時からだ。
『てめーは黙ってろ!! 2度とオレに喋りかけてくんな!!』
家族に隠しごとをされたことと、すべてを知らないのに悪魔と契約させられたことが重なり、耐えきれずに吐き捨てた言葉だった。
今思えば、ただの八つ当たりだ。
因幡も自覚していた。
罪悪感もある。
桜と和解して、あれから数日が経過したというのに、いくら呼びかけてもシロトは自分から話しかけてくることも、話しかけてもシカトを続けた。
ただの靴としてそこにいる。
(いい加減なにか言ってくれてもいいだろが)
無視を通すシロトにムッとした因幡は、「おい」と低い声をかけた。
「いつまでもガキみたいに拗ねてんじゃねーよ。そのまま続けるなら…、うんこ踏んじまうぞ」
踏むのは因幡のため、自己犠牲になる。
それでも黙り続けるシロトにため息をつき、因幡は靴をはいて玄関を出た。
駅に到着すると、改札の前では夏目と城山が待っていた。
「おはよー、因幡ちゃん」
「おはよー。…今日も神崎休みなのか?」
男鹿とベル坊が入れ替わった日から、神崎は学校を休むようになってしまった。
3日以上休んでいるため、風邪ではないかと心配になる。
電話をかけても、メールを送っても、返事はない。
それは因幡だけでなく、夏目や城山も同様だ。
「夏目、神崎からなにか聞いてないのか?」
吊り皮につかまり、電車に揺られながら因幡は隣に立つ夏目に尋ねる。
「ううん。…けど、悪魔野学園の奴らが全軍率いてくるって言ってたし、それがいつなのかもわからないから、今のうちに修行してたりして」
「だったらオレを誘ってくれてもいいじゃないですか、神崎さん…」
城山は露骨に落ち込んだ。
「もしもだよ、城ちゃん」
夏目は苦笑し、慰めるように城山の背中を軽く叩いた。
「神崎が修業…」
因幡は想像する。
“乳酸菌”と縫われた胴衣を着て、頭に“ヨーグルッチ”と縫われた青いハチマキを巻き、大木を踵落としで叩き割る神崎を。
“乳酸菌最強伝説が、今、始まる…!!”とナレーションまで流れて来た。
「乳酸菌最強…ッッ」
口元に手を当て、ひまわりの種を詰め込み過ぎたハムスターのように頬を膨らませながら、必死に笑いを堪えていた。
「因幡ちゃん? なに想像してるのかな?」
そんな因幡達を、隣の車両から窺う視線があった。
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