31:うちに来ませんか?2
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翌日の朝、神崎はお約束通りなにも覚えておらず、二日酔いに頭を抱えていた。
朝食を食べ終えたあと、部下が姫川の迎えを知らせにきた。
連絡をとるまえに蓮井がベンツで迎えに来たのだ。
いったいどうしてここにいるのがわかったのか、と因幡と神崎は顔を青くさせた。
その数分後、今度は因幡の迎えが来た。
桜だ。
清楚で容姿端麗な桜に、ほとんどの部下達は見惚れていた。
因幡はひょっこりと玄関に顔を出し、桜を見るなりバツが悪そうな顔をする。
神崎は「しっかり仲直りしてこい」と小声で言って背中を軽く押した。
因幡は小さなため息をついたあと、「世話んなったな。ありがとよ」と肩越しに神崎に言って、靴を履いて桜の横を通過して玄関を出る。
「妹がお世話になりました」
桜はそう言って礼をしたあと、少し早歩きになって因幡の背中を追いかけて隣に並んだ。
それを見届けた神崎は「大丈夫か、あいつら…」と呟いて心配そうに姉妹を見る。
「オレからも追いこんどいたから…」
その隣で姫川は言って、「おまえの方こそ大丈夫かよ、二日酔い」と問う。
「まあな…。寝起きよりだいぶマシだ。……オレ、昨日なんかしたか?」
「「「「なにも」」」」
姫川と、なぜか部下達まで一斉に首を横に振った。
「??? …そっか?」
*****
神崎の家をあとにしたあと、因幡と桜はただ黙って肩を並べて歩いていた。
時折桜が心配そうにチラチラと因幡の横顔を窺う。
「……オレが初めて母さんに怒られて家出した日のこと…、覚えてる?」
「へ?」
唐突に口を開いた因幡に、ビクリと桜の肩が震える。
「小学生の時、オレがボッコボコにした奴の親が出てきて…」
懐かしい思い出だった。
今思えばコハルがちゃんと怒ったのを見たのは、アレが最初で最後かもしれない。
金持ちばかりが通う小学校だっただけに、子ども同士の喧嘩にはほとんど親が口を出していた。
「おたくの娘さんの柄の悪さったら」、「教育がなってないんじゃないの」「うちの子にケガをさせて」と。
きっかけさえなければ、因幡もすぐには喧嘩しなかった。
だから自分が悪いとはこれっぽっちも思わなかった。
それをわかっていたのか、コハルも因幡を強く責めなかった。
素直に謝り、相手をなだめ、相手の気持ちが落ち着けば優しい笑顔を向ける。
父兄にはよく効いた。
しかし中にはそれを面白くなく思う親もいた。
『その白い髪はなに? 気味が悪いわ』
子どもにはまったく関与しない悪口だった。
それが因幡の怒りを買った。
『うるせえババア!! ブッ殺すぞ!!』
その罵倒に、母子どころか付き添っていた教員も委縮した。
『桃ちゃん!!』
いつもは優しいコハルも、怒鳴ると同時に因幡の前にしゃがみ、パチンッ、とその頬をひっぱたいた。
それが因幡の初めての家出に繋がったのだ。
コハルがバカにされて怒ったのに、どうしてコハルに怒られなければならなかったのか。
子どもながらに理不尽に思って学校を飛び出し、町のあちこちを走った。
半日中行くあてもなく駆けまわって疲れ果て、雨も降ってきて橋の下で雨宿りしていたところに桜が迎えに来たのだ。
桜もそのことは覚えていた。
懐かしそうに朝の空を見上げる。
「そんなこともあったわね…。桃ちゃんが「殺す」を控えたキッカケにもなった…」
「「ブッ転がす」はセーフっておかしな話だよな…」
そう言って2人は笑う。
少し間を置き、今度は桜が話し出す。
「母さんは昔、とある屋敷に住んでて…、私は…、母さん…―――コハル様の侍女悪魔だったの」
「!」
はっと桜の横顔を見ると、桜は口元を緩ませながら言葉を継ぐ。
「コハル様が生まれた時からコハル様の面倒を任され…、時には屋敷の庭のガーデニングもしていたわ。…コハル様の一族は、代々、シロトとクロトという2匹の契約悪魔を継ぐしきたりがあった。契約悪魔は親から子へ引き継がれ、コハル様は無事にシロトを引き継がれた。でも、ある時を境に、コハル様は婚約もシロトの譲渡も破棄され、屋敷を飛びだされた。私もその時に…」
一緒に屋敷を飛び出したのだという。
「どうして今オレにそんな話…」
「本当はコハル様に口止めされていたのだけど…、いつまでも隠し通せるとは思ってないし、私だって辛い…」
「……………」
「家を飛び出され…、コハル様はある人に拾われ、しばらくそこでお世話になった。ちゃんとコハル様は高校にも通われたわ。幻術で変身した赤ん坊の私を連れて。それから高校3年の時に父さん…日向さんと出会い、結婚して、そしてあなたと春樹が生まれた…」
初めて知った、コハルと桜の過去。
「……どうして母さんの娘として?」
「コハル様は、家族を欲していたの。コハル様の両親は、コハル様とまともに会ったことさえなかったから…。私も境遇は同じ。それを知って気を遣われたのか、「じゃあ私が母親になる」と真っ先に言いだされて…」
押しに負けた桜はコハルの娘として、コハルとともに第2の人生を歩んだのだ。
因幡と春樹が生まれたあとは、その成長に合わせたらしい。
「今まで隠してて、ごめんなさい」
最後に桜は謝った。
だが、まだ肝心なことを聞けていない。
すべてを隠していたコハルがどこへ行ったかだ。
今の桜に問い詰めれば聞けるかもしれない。
今度はコハルの口からすべてを聞けるかもしれない。
しかし、因幡はそれをしない。
「……話してくれてありがとう…」
それだけ言って因幡は笑みを向けた。
てっきりコハルの居場所を聞かれると思っていた桜は、驚いたように目を見開く。
「それだけ知れたら今は充分だ。…また、話したくなったら話してくれ。…それと、昨日は酷いこと言ってごめんな、姉貴」
「……うん」
また「姉」と呼んでくれたことに心から安堵した桜は、静かに頷いた。
「ところで…、母さんが生まれた時から面倒見てたってことは…、今、年いくつ?」
素朴な疑問に、桜は足を止めて優しい笑みを貼り付けたまま硬直する。
コハルより年上なのは確かだ。
「…精神年齢は19歳よ」
(年齢気にするおばさんにありがちな答えキタよ…っ!!)
こうして、因幡と桜の間にある姉妹愛は、以前より固く結ばれた。
しかし、ほっとしたのも数日のこと。
数日後、因幡は半年築き上げた友情の危機にさらされることになる。
.To be continued