31:うちに来ませんか?2
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神崎と姫川の順で風呂に上がったあと、3人はゆったりとした着物に着替えた。
風呂から上がっても、姫川はリーゼントを保っていた。
「おまえ風呂上がりもリーゼントって…」
つっこむ神崎に、姫川は「ちゃんと洗ってセットした」とリーゼントを指さす。
「意味あるのか」
因幡もつっこむ。
そのあと、食事処へ案内され、部下達も交えて遅い夕食をとる。
客人が来ているので、それこそ旅館に出てくるような気合いの入った豪勢な食事が長いテーブルに並べられていた。
「ここ、旅館じゃなかったよな…?」
姫川も思わず呟く。
鯛の生け作り、海鮮盛り合わせ、炊き込みご飯など。
先程の怒りは完全に鎮火したようで、因幡は目をキラキラと輝かせていた。
思わずヨダレまで垂れてしまいそうになる。
そんな因幡にぎょっとする神崎だったが、咳払いをして声をかけた。
「ま、まあ、遠慮せず食え」
全員、座布団に座って夕食を食べ始めた。
しばらく黙ったまま目の前の料理に箸をつけて口に運ぶ因幡だったが、炊き込みご飯を食べたあと、
「神崎、オレ今日からここに住むわ」
口端に米粒をつけた顔を神崎に向けて宣言する。
「なに決意を新たにした顔してんだっ。メシに釣られんなよっ」
そこで同じメシを食べていた部下達が言いだす。
「まあまあ、若、べっぴんの姐さんじゃないですか」
「気の強そうな姐さんだ」
「若ともお似合いで…」
ピクリと姫川の耳が動き、「お似合いだと?」という怪訝な目で神崎と因幡を交互に見る。
「こいつとはただのダチだっつーの」
「そーそー。そんな色っぽい関係でもねーよ」
2人は特に意識しあうこともなく、手をひらひらとさせた。
その様子に姫川は内心ホッとする。
「若ー、一杯どうぞ」
「リーゼントのボウズもどうだ? ジュースだが」
酒も入っているのか、部下達は時間が経つごとにわいわいと宴会のように騒ぎ出した。
組長である武玄もいないため、はめを外しているようにも見える。
神崎はその様子に「客人の前だっつーの…」と呆れながら、ちびちびと飲む。
「親父さんの部下とも仲良さそうじゃねーか」
「……まあ、兄弟みたいなもんだからな…」
「兄弟…」
真っ先に頭に浮かんだのが桜の顔だ。
「オレが生まれた時からそこにいた奴も多い」
「……けど、実際血が繋がってるわけじゃ…」
「逆に聞くけどよ、それって大事なことか? 繋がってなきゃ、親しくしちゃいけねーのかよ」
「え…と……」
因幡は言葉を濁し、目を泳がせた。
「まあ、繋がってたら結婚はできねーけどな」
そう言って神崎は小さく笑い、コップにおかわりを注いで飲みだす。
「仮にオレが、「おまえの本当の兄ちゃんだ」とか言われたらどーする? 因幡はオレのこと、「兄ちゃん」って呼んでくれるのか?」
「……それは…ないな。ないない。…姫川も含めて…兄貴みたいだとは思ってるけど…」
たとえ本当の兄弟であっても、今更そんなくすぐったいことはしない。
それを聞いた姫川も小さく笑い、コップに入ったジュースを口に運ぼうとした。
「だろ? 重要じゃねーんだよ。一緒にいるだけでなんにでもなれるんだ。親でも、兄弟でも、恋人でも、ダチでも…な…」
その言葉に、姫川は不意に手を止める。
「……神崎のクセに、まともなこと言ってんじゃねーよ」
思わずそんなことまで言ってしまう。
それでも神崎はうつむいたままなにも言い返さない。
「……………」
因幡は考え込むようにコップのジュースを見下ろした。
揺れるそれに映るのは、ある思い出だ。
家出をしたのは1度ではない。
それはまだ因幡が11歳の時だった。
家を飛び出したのはいいが、どこへ行っていいかわからず、雨も降ってきたので近くの橋の下で数時間ほどうずくまっていると、傘もささずに桜が迎えに来てくれたのだ。
「見つけた」。
そう言って桜は安堵の表情を浮かべ、すっかり冷え切った因幡の体を抱きしめ、「あとで母さんに「ごめんなさい」しようね?」と優しく言った。
「……帰りたくなったか?」
向かい側の席に座る姫川がからかうように聞いてきたので、はっとした因幡は心を見透かされたような気がして、「べ、別に…」と複雑な表情を浮かべた。
「本当に?」
「ほ、ホントだって…。オレの家出の決心はかてぇんだ…」
「頑固な奴だなてめーもよぉっ!!」
その時、突然声を荒げた神崎はテーブルにコップにヒビが入るほど乱暴に叩きつけ、隣の因幡を睨んだ。
「か…、神崎…?」
先程の大人びた雰囲気はどこへ行ったのか。
その顔は赤く、目は焦点を合わせない。
口から漏れる息からはアルコールの匂いがした。
「うわっ。酒臭っ!」
因幡はたまらず顔をしかめて自分の鼻をつまむ。
神崎のコップのヒビからは水のように透明な液体が漏れ出て畳を濡らしていた。
「神崎おまえ、酒飲んだんじゃ…」
すでに神崎は向かい側の姫川に睨みを移した。
じっと睨まれ、姫川は「な、なんだよ…」と酔っぱらった神崎に困惑げに睨み返す。
すると神崎はマナー違反上等とばかりに片脚をテーブルにのせ、手を伸ばして姫川の胸倉をつかんだ。
「てめー、姫川このやろーてめー、はっきりしやがれ…」
「は?」
「ああ? しらばっくれる気かぁ?」
「だからなにが?」
「オレと因幡、どっちが好きなんだ!!?」
「「は!?」」
「「「「はあああああああ!!?」」」」
部下達の酔いが一気に吹っ飛ぶほどの爆弾だった。
「若ぁっ!!」
「誰がバカだコラッ!!」
「言ってません!! なに血迷ったこと言ってんですかっ!!」
「マヨチキってなんだ!?」
「言ってません!! 姉御はともかくそいつ男ですよっ!!」
「こいつは水戸黄門じゃねえっ!!」
「言ってません!! だめだ会話にならねえっ!!」
明らかにキャパオーバーに飲んでいた。
ちびちび飲んでいたのにどうして気付かなかったのか。
部下達の間では「誰だ若に酒飲ませたのは」「おまえか」「若は未成年だぞ」と怒鳴り合っている。
「落ち着け神崎、水飲め。な?」
未だに胸倉から手を放さない神崎に、姫川はなだめるように言った。
下手に刺激してはまたなにを言われるかわかったものではない。
神崎は部下達から姫川に視線を戻し、「てめぇ…」とうなる。
「オレの初めて奪っときながら平然としやがって…」
「「「「あ゛あ!!?」」」」
すぐに部下達は意味深なその言葉に反応し、一同起立して刀と銃を取り出した。
「誤解招くような言い方すんじゃねえっっ!!;」
タマをとられる危機を感じた姫川は弁解を含めてつっこむ。
「…………いつ?」
「真に受けんなてめえもっ!!」
カラのジュース瓶をマイク代わりに向けてドキドキと期待に満ちた顔で尋ねる因幡にも怒鳴る。
(こいつ酒飲むとめんどくせぇっ! つうかそのナリで酒飲めねえのかよっ!! 飲めろよっ!!)
「責任取れやコラァッ!!」
酔っぱらってがなる神崎の相手になにを言ってもムダそうだ。
仕方なく話を合わせることにする。
「責任ってなんだよ」
すると、神崎はしばし黙り、耳まで真っ赤にさせた。
予想外の反応に姫川も「え」と顔をきょとんとさせる。
「そ…っ、それをオレに言わせんじゃねーよっっ!!!」
神崎は1本背負いで姫川を投げ飛ばし、姫川の体は障子を突き破って池へと放りこまれ、ドボーン、と大きな水飛沫と鯉が上がった。
水面から出た姫川のリーゼントは解け、サングラスは池のどこかに落ちたようだ。
突然池から現れたイケメンに部下達は「誰だ?」と動揺している。
「この…酔っ払いがぁ!!!」
セットしたてのリーゼントが解け、青筋を浮かべた姫川は池の鯉を投げ始めた。
1匹数百万の鯉は神崎の顔面に当たり、神崎も「やったなこのやろう」と座布団や空き瓶を投げつける。
「おい若を止めろっ!」
「あのイケメンもだ!」
因幡は止めるのも面倒な様子で、池から飛んでくるものを避けながら食事を続けていた。
「…?」
そこで部屋の隅にあるものを見つけた。
1、2滴の血痕だ。
*****
騒ぎもおさまり、途中で気絶するように眠ってしまった神崎は自室のベッドに運ばれ、呑気に寝息を立てて眠っていた。
時間は午前0時をきった。
別室に敷かれた布団の上で仰向けに寝転がっていた因幡は、ふと体を起こし、外へと出た。
引き戸を開けて出ると、すぐ目の前は縁側になっている。
そこに腰掛けるイケメンバージョンの姫川を見つけた。
「…よう」
気配に気付いて姫川は振り返らずに声をかけた。
因幡は「おう」と言ってなにを思うことなく姫川の隣に座る。
先程2度目の風呂に入ったのか、姫川からは微かに湯気がたっていた。
2回目は面倒なのかリーゼントをしていない。
「眠れねーのか?」
「元々夜型だからな、オレは」
姫川はそう言って、風で揺れる水面を眺めていた。
「……これ」
渡すかどうか躊躇ったが、因幡は着物の袖から1枚の写真を取り出して姫川に突きつけた。
「!」
横目でそれを見た姫川は一瞬だけ目を見開いた。
「マンションが吹っ飛んだ時、足下に落ちてたの見つけた。…ゲームソフトの間に挟まってたものだったから、大切な写真かどうかはわからなかったけど」
そこには、姫川ともう1人の人物が写っていた。
撮影場所は写真を見つけたゲーム部屋だ。
姫川は無愛想な顔で、もう一人は無邪気な笑顔を浮かべていた。
因幡は、姫川と一緒に写っているのは誰かとは聞かない。
姫川の横顔を見てそう判断した。
「ああ…、おまえが持ってたのか」
受け取った姫川は、数秒眺めたあと、写真の端と端をつまんで2つに引き裂いた。
「!! ちょ…っ」
因幡は止めようとしたが、姫川は躊躇なく重ねては裂き重ねては裂きと散り散りにして、夜風にのせて飛ばした。
「神崎の言う通り…、ずっと一緒にいればなんでもなれる。…けど、一度粉々に壊れちまえば…なんでもねえ…ただの赤の他人だ。…本当の家族でもな。因幡…、てめーも、ただの他人になっちまうのか?」
「……………」
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