31:うちに来ませんか?2
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“あー、やっぱり神崎君と一緒でしたか”
春樹のケータイから、桜がコンタクトをとってきた。
ケータイ同士で会話するのはこれが初めてだ。
姫川もケータイの内容を聞きとろうと神崎のケータイに耳を寄せる。
桜の困惑している声に神崎は「なにがあった?」と野暮だと自覚しつつ尋ねる。
“母さんと2人で、あのコに隠し事ばかりしてしまって…。おまけにひっぱたいちゃいまして…”
重たく沈んだ空気がケータイから伝わってきた。
((沈んでるなぁ…))
実際桜は床に正坐し、落ち込んだように肩を落として会話していた。
その傍らに立つ春樹は「オレが気絶してる間になにが…;」と落ち込む桜を心配そうに見下ろしている。
“私…、やはり姉の資格ありませんね…。隠しごとをしてたばかりに…、桃ちゃんに嫌われてしまいました”
「……………」
それを聞いた神崎は、ある人物のことを思い出していた。
「まあ確かに隠し事されてると知ったら怒るだろな。オレだって怒る。…けど…、そう簡単に嫌いにはならねーよ。あいつの場合、難しいだろ」
「…神崎?」
急に真面目な顔つきになって諭すように言う神崎に、姫川は首を傾げた。
「決め付けはよくねーぞ」
“そ…、そうですね…。私…、桃ちゃんのこと…わかってるつもりでいたのに…”
「……なにを隠してたかなんて野暮なことは聞かねえよ。ちょっとでもいいから晒してやりな。あいつのこと、妹だと思ってんだったらよ…。そしたら、落ち着いて話くらいできるだろ…」
家を出たのはいいが、どうしたらいいかわからないのだ。
ただ、それだけ。
家を継ぐのが嫌で出て行った兄貴より単純な話だった。
“ええ…。ありがとう…、神崎君”
「オレからもあいつに言い聞かせとくから…。ああ。じゃあな」
それだけ伝えて神崎は通話を切った。
切る前に、春樹の「オレも神崎さんと話s」と聞こえたがかけ直しはしない。
通話も終わったところで隣を見ると、姫川は感心したようにこちらを見つめていた。
「な…、なんだよ…」
「おっとな―――。おまえ、あんな大人びた発言できたのか」
「…今すぐてめーを池の鯉のエサにしてやろうか」
神崎がそんな物騒なことを言っている頃、因幡は温泉旅館に設置されているような大きなヒノキ風呂を堪能していた。
ヒノキの香りを楽しみながら湯に浸かり、「んー」と背伸びする。
「気持ちぃ~。あいつ毎日こんなとこ入ってんのかぁ。神崎も姫川に負けず劣らず坊っちゃんだなぁ~」
独り言が浴室に響き渡る。
天井近くには窓があり、そこから湯けむりが出て行くのが見えた。
「……………」
天井を見上げ、最後に見た桜の顔を思い出す。
痛そうな、辛そうな表情だった。
(隠し事してた…あっちが悪いんだろ…)
それでも因幡の胸は、ズキズキと罪悪感を訴えていた。
本当の姉でないことがわかったのだから、こんなに苦しむ必要はないというのに。
「はぁ…」
ため息をつき、湯けむりと混ぜ合わせる。
鼻の下まで浸かり、ボコボコと泡を立てた。
風呂でも癒えない、胸の奥の傷。
今日はともかく、この先ずっと神崎の家でお世話になるわけにはいかない。
どうしたものかと考えていたとき、突然引き戸が引かれた。
入ってきたのは、ボディービルダーのような体つきをした強面の部下5人。
その手には石鹸とタオルが持たれていた。
「若の御友人!!」
「「「「お背中流しやすっっっ!!!」」」」
瞬間、先を考える因幡の思考が停止した。
同じ頃、神崎と姫川は、因幡が風呂から上がるまでとテレビの前でコントローラーを握りしめながらゲーム対戦をしていた。
「くっ…、この…っ」
「悪いな、神崎。3連勝、いただくぜ」
「させるか…! あ、そういえば」
そこで神崎はあることを思い出した。
「なんだよ、オレにそんな手は…」
「オレ、あいつらに因幡の本当の性別教えてねぇ」
「それ、重要なことなのか? つうか今言うこと?」
「あいつ今風呂入ってんだろ。うちの奴ら、たまに余計な気ぃ遣うから…」
「「「「ギャアアアアアア!!!!」」」」
ちょうど、5人分の叫び声が家中に響き渡った。
はっとした神崎と姫川は顔を見合わせ、すぐに一時ゲームを中断させて悲鳴の方向へと走った。
そこには、バスタオルと殺意を身に纏った因幡が浴室に侵入してきた部下5人をボッコボコに殴っていた。
その両手にはボクシンググローブのようにタオルが巻かれ、返り血が付着している。
「ひぃぃっ!!」
「許してぇっ!!」
「オレ達なにも見てません―――っ!!」
「やめてくだせぇっ姉御―――っ!!」
このままでは部下が殺されると危機感を覚えた神崎は、果敢にも因幡を後ろから羽交い締めにし、姫川も正面から因幡の血にまみれた両腕をつかんでバンザイさせて抑える。
「放せコラァっっ!! こいつら全員セメント詰めにして海の底にブッ転がぁすっっ!!!」
「許してやれ! おまえの性別教えなかったオレが悪かったから!」
「つうかおまえも見られたくらいで暴れるな! そこまで男になりきれねえのか!?」
こうして、ボスの息子と友人の御曹司によって、部下達の命は救われた。
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