31:うちに来ませんか?2
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崩壊した姫川のマンションから、自分よりも図体の大きい弟・春樹を背負って家に戻って来た因幡は、手当てをしたあと春樹を自室に寝かせ、1階のダイニングにおりてきた。
キッチンには、平然と夕食の準備にとりかかる桜のエプロン姿があった。
「今日は疲れたでしょう? 父さん遅くなるって。桃ちゃん、シチューとカレー、どっちがいい?」
じゃがいも、にんじん、たまねぎ、肉…。ルーもどちらもある。
とりあえず具を切ろうとする桜の背中に、因幡は低い声をかけた。
「……アンタはまだオレの質問に答えてない」
「……………」
桜はにんじんを切ろうとした手を止め、宙を見た。
「アンタ一体何者なんだ!?」
生まれた時から知っていた。
そこにいたから、姉だと信じていた。
しかし、その事実は今日をもって覆されてしまった。
桜の体から出て来た大鎌―――ファントムサイズ。
普通の人間でないことは確かだ。
「母さんのことも知ってる、オレのことも知ってる、シロトのことだって…。知ってて…、なんで黙ってたんだよ…?」
どうして隠し事をされなければならないのか。
因幡は知りたかった。
桜は一息つき、包丁をまな板の上に置いて因幡に振り返る。
「桃ちゃん…、それを話す機会がくるまで、待っててもらえないの? 母さんのことは、シロトからなにも…」
「待ったさ!! 確かにシロトから聞きだせば知りたいことも知れる! 母さんが何者なのか、どうしてオレが悪魔を受け継がなきゃならなかったのかも…。けどオレは…、母さんの口からそれを聞きたいんだ!!」
「…!」
だからあえてシロトには深く追求せず、ひたすらコハルを待ち続けていた。
母親ならば、その口から告げてくれることを信じて。
「なのに…、母さんもアンタも隠しごとが多すぎる…。…母さんはどこ?」
「答えられない」
真っ直ぐに見つめる因幡の瞳が直視できず、桜は苦しげな顔をして因幡から顔を逸らした。
「アンタは何者?」
「……………」
「…はっ」
自嘲するような笑みを浮かべた因幡は、「いつまでだよ…」と呟く。
「いつまで家族ゴッコしてりゃ、教えてくれるんだよ!!!」
パァンッ!!
桜の平手打ちが因幡の頬に炸裂した。
横を向いたまままったく動かない因幡に、桜は自分がしでかしたことにはっとし、おろおろと手を彷徨わせる。
「…っ、桃ちゃ…」
その右肩に指先で触れようとするとそれは手の甲で払われ、因幡はダイニングを出て玄関でシロトをつかみ、自室に戻って扉の鍵を閉めた。
それから薄暗い部屋の中、クローゼットから眠っていたキャリーバッグを取りだし、そこへ適当に服や小物をつめる。
“なぜ荷造りを…”
突然の行動に、シロトは驚いていた。
「決まってんだろ! 出てくんだよっ!」
“桃…”
「てめーは黙ってろ!! 2度とオレに喋りかけてくんなっ!!」
“……………”
因幡の声は震えていた。
耐えられなかった色々なものが隙間から溢れだしているように思えた。
むちゃくちゃな荷造りも終え、因幡はベランダでシロトを履いて飛び下り、家から出て行ってしまう。
桜はそれを1階の窓から見上げていた。
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