29:刺客がきました。
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「うわっ、とっ、ほっ!」
ピトスは激しい突きを繰り出すが、春樹は狙いを目で追って大きくかわさず器用に体を傾けながら避ける。
「さすが、こちら側の血が混じっているだけありますねぇ!」
「なにわけのわかんねーこと言ってんだ、ババア」
避けながら2度目の暴言を吐かれ、笑みを保つピトスの額にとうとう青筋が立つ。
「…はぁ゛?」
春樹は、尊敬する人間にはとことん尊敬し、逆に一度でも嫌悪を感じた人間にはとことん嫌悪感を示す、極端というか自分に正直な面がある。
「今度はこっちから…」
「!」
腕を伸ばした春樹はピトスの胸倉をつかみ、そのまま振り返り際に勢いをつけてピトスを床に叩きつける。
「があっ!!」
ピトスが叩きつけられた床にはヒビが刻まれた。
「女だろうが、オレは優しくしねーぞ」
見下ろす春樹の目は冷たい。
身内を想うのは、因幡だけではなかった。
守るためなら、女だろうが容赦はしない。
「春樹…」
“ほう。弟もやるのう…”
ピトスはその場に血の混じった唾を横に吐き捨て、春樹を見上げた。
「あったまきましたぁ…。ピュクシス!!」
「!!」
ピトスが叫ぶと、春樹は不意に背筋が凍りつく感覚に目を見開いた。
「な…!?」
春樹の背後の自分の影から出現した真っ黒な十字架が、磁石のように春樹の体を引き寄せて磔にし、動きを封じる。
「たかが人間に、私達のスタイルを使うことになるとはぁ…、非常に不愉快です」
「どうなって…!」
春樹は力づくで動こうとするが、体が小刻みに震えるだけでビクともしない。
立ちあがったピトスは額の流血を手の甲で拭い、楽しげに嗤う。
「さて…、嬲り殺しタイムと…いきましょーかぁ!!?」
ゴッ!!
「ぐぁっ!」
いきなり横っ面を魔力の塊で撲りつけられた。
続いて、先程の仕返しとでもいうように脳天、肩、腹とムチャクチャに撲られていく。
「春樹ぃっっ!!」
「あとであなたも嬲り殺してあげますよぉ!」
興奮しているピトスは甲高い声で叫んだ。
「やめろ…! 春樹が…!!」
足が震えて立ち上がれない。
誰かを呼ぼうとポケットに手を突っ込み、ケータイをつかんだ。
(神崎達を…。ダメだ…、あいつらと悪魔(こいつ)を関わらせるのは…! クソッ!! 動けよ、オレの足…!!)
足を引きずるように這い、春樹に近づいていく。
「姉…貴……」
意識を失う直前、春樹は呟くように言った。
「あっは!」
「春樹ぃぃいいいっ!!」
ガッ!!
その時、ピトスの棒が半分に折られ、魔力を纏った部分は天井に突き刺さった。
「………ぁれ?」
折れた部分を見つめたあと、ピトスはエレベーターがある方へ顔を向けた。
「“パンドラ”。関わったターゲットは不幸な死を遂げる…。なるほど、ピュクシスで動きを封じ、ピトスとカーメンが嬲り殺しにする…ってことね…。そのやり方に、同業者からも忌み嫌われてる理由がわかったわ…」
そこにいたのは、姫川にマンションに入れてもらった少女だった。
怯える様子もなく、冷静な顔で近づいてくる。
「なんですかぁ? このコ…」
「お、おい、危ねえから…っ」
因幡が声をかけると、少女は因幡に近づき、小さなその手で頭を撫でた。
「私は大丈夫よ、桃ちゃん」
「…なんで…、オレの名前…。!!」
目を見開いた因幡は、その少女にある人物の面影を重ねた。
「ターゲット以外は嬲り殺したくないんですけどぉ?」
「私は、あなた達が捜してるターゲットよ?」
ずずず…、と少女の背中から大きな三日月形の悪魔の片翼が生え、少女が手を背中にまわしてそれを引き抜くと、長い柄の漆黒の大鎌が手におさまった。
「あなた、同類!?」
同じ悪魔であることを知ったピトスは、新たな棒を出現させて構える。
「あなた達と一緒にしないで…。ふぅ…。重いわね…」
すると、少女の体は黒い煙に巻かれ、大人の姿となってそこに現れた。
それは、因幡のよく知る人物だった。
「この鎌を使うのも、何年ぶりかしら…」
「………あ…、姉貴……!!?」
因幡を守るようにその前に立ち、大鎌を構えるのは、因幡が普通の人間だと思いこんでいたはずの、桜だった。
.To be continued