29:刺客がきました。
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「「「あ…」」」
花澤、大森、谷村は画面を凝視していた。
「す…、すごい。ついに…、ついに桃太郎パークを買い占めたっスよー!!」
「やったやった!! これで勝ったも同然なんでしょ!?」
「なんだか急に相手が弱くなりましたね!!」
「弱いっつーかアホッスねー!」
一気に有利になり、はしゃぐレッドテイル。
「どーせまたラミたんの彼氏が一人でやってんスよ」と花澤。
「ありうるわね」と大森。
「確かに」と谷村。
「あれ? そーいや、ラミたんは?」
古市とともに、まだ戻ってきてはいなかった。
それをテーブルの席に座って缶コーヒーを飲みながら眺めていた姫川は、怪訝そうな顔をし、舌打ちする。
「―――…ちっ。どーなってんだ…」
端末から、相手は隣の部屋にいることが判明したのに、いざ足を踏み込めばなにもなかった。
気付かれたと思ってすぐに逃げたのではないかと考えたが、こうして何事もないかのように相手もゲームを続けている。
「隣の部屋ってのがフェイクなんじゃ…」
キャンディーを口に咥えながらそう言いだしたのは因幡だ。
「それに使用したものが隣にないのもおかしな話なんだよ」
「キレイだったもんね、隣。形跡一つなかったし」
夏目はポテチを一枚食べて言う。
「じゃあずっとこのままゲーム続けんのか? オレらの身がもたねーぞ;」
神崎はそう言ってヨーグルッチを飲んだ。
「だからと言って、こちらから負けるのも癪っスね。3日徹夜してるわけだし…;」
欠伸をしながらそう言う春樹は、ガラスのコップにペットボトルの水を注いだ。
(確かにこのままじゃ、ラチがあかねーな…。みんなそろそろ体力限界みたいだし…)
キャンディーを舐め切った因幡は席を立って一度外へ様子を見に行こうとする。
ドゴォッ!!!
その時、轟音とともにマンションが揺れた。
それを感じた全員は顔を上げる。
「なんの音だ?」
「―――…!!」
“桃!”
先程までなかった魔力の気配が突然出現した。
気付かなかったのが不思議なくらい膨大な魔力だ。
「ちょ…、ちょっと様子見てくる」
因幡は神崎達にそう告げ、シロトを履いて廊下へと飛び出した。
すると、古市とラミアがエレベーターに乗り込む瞬間を目撃する。
「あ、おまえら!」
2人がこちらに気付くことなくエレベーターのドアが閉まり、上へと向かう。
先程の轟音が関わっているのだろうと察した因幡はそれを追いかけようと走り出した。
「見ぃつけたぁ」
「!!」
はっと振り返ると、そこには同じ年頃の女が黒いローブを纏って立っていた。
真っ黒で少し乱れた長い髪、鼻筋には縦の赤いラインが引かれている。
「……………」
“気をつけろ、こいつは…”
「わかってる…。鮫島の時よりはっきりとな…」
(こいつも…、悪魔)
睨み合っていると、先に女からにこりと笑いかけてきた。
「どぅも。私、ピトスという…、あなたを殺しに来た“パンドラ”でございますぅ」
おどけたような喋り方だが、殺気は十分に伝わってきている。
「パンドラ…?」
「はぁい。まぁぶっちゃけ殺し屋のことですね。私、ピトスと、カーメン、ピュクシスの3人で営んでおりましてぇ…。あなたと、その血縁者も殺せとの依頼を受けましたぁ」
「…!!」
血縁者、という言葉にはっとした。
自分だけでなく、コハル、春樹、桜、日向まで狙われていることになる。
「カーメンはあなたの姉と父親を殺しに行ってますのでぇ、私達2人がお相手になりますぅ」
2人、と聞いて因幡は辺りを見回したが、どう見てもピトス一人しかこの場にいない。
「…何人でもかかってこいよ…。けどな…、オレの家族には手出しさせねえぞ…!!」
コブシを握りしめ、ピトスを睨む因幡の目は真っ赤に変色していた。
「へぇ。その目が噂の…」
呟くように言うピトスが右手を横にかざすと、長い木の棒が出現した。
棒術を使うのかと構えていると、ピトスはすぐに懐に飛び込んできた。
「!!」
(速い…!)
顔面目掛け突き出された棒の先端を反射的に顔を傾けて避けようとしたが、頬をかすめ、そこから血が流れた。
「…っ! この…っ」
目の前のピトスを蹴ろうと右脚に勢いをつけたが、
「!!」
鮫島と戦った時のトラウマがよみがえり、当たる寸前で止めてしまう。
「あらぁ? それじゃあ…」
ピトスの棒の先端に漆黒色の魔力が球状に纏われ、因幡に振るわれた。
ゴッ!!
「―――ッッは…」
鉄球でも受けたような衝撃を腹に食らってしまい、因幡の背中は壁にぶつかり、めり込んだ。
「簡単にぃ、死んじゃいますよぉ?」
「ぁ…っ」
床にうつ伏せに倒れた因幡は、未だに残る痛みに腹を抱え、不気味に笑うピトスに視線を上げた。
(これが…、悪魔の力…)
“桃! なにをビビっておる! 死んでもいいのか!? 殺す気でいけ!!”
「…っ」
殺す気で。
たとえ悪魔と知っていても、それができなかった。
「あーあ、つまんない仕事でしたぁ」
ピトスは魔力が纏った棒を振り上げ、因幡にトドメを刺そうとした。
“桃!!”
「おい」
「「!!」」
振り上げた瞬間、棒がつかまれた。
「うちの姉貴になにしてくれてんだ、ババア」
「春樹!!」
嫌な予感を覚えて部屋を出た春樹が、それを止めた。
棒を握り潰しそうなくらい強く握りしめ、ピトスを睨みつける。
現れたターゲットに、ピストは口を、にたぁ、と歪ませた。
「口の悪いコですねぇ…。先に殺しますかぁ?」
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