29:刺客がきました。
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時刻は午前9時をまわった。
古市達がレッドテイルと因幡にゲームを交代してもらい、買い出しに行ってる頃、一度外に出た姫川はマンションの玄関前で、耳にケータイを当て、蓮井と連絡を取り合っていた。
対戦相手の端末を調べ、居場所を突き止めようとしている最中だ。
ブラックの缶コーヒーを口にしながら待っていると、不意にシャツの裾を軽く引っ張られ、視線を見下ろした。
「!」
そこには、ウェーブのかかった茶の長髪で、桃色のワンピースを着た、4・5歳くらいの少女がこちらを見上げていた。
普通の少女が姫川を見れば、その威圧感のあるリーゼントを見て怖がることだろう。しかしこの少女は気にすることもなく、愛らしい笑みを向けている。
「……なんだ?」
ケータイを耳に当てたまま少女に尋ねた。
しゃがんで同じ視線になろうとしないのは実に姫川らしい。
少女はマンションの玄関ドアを指さした。
「ここに入りたいの」
(同じ住人のガキか…)
出たのはいいが、入れなくなってしまったのだろう。
そう思った姫川は無愛想な顔のまま、掌紋認証に手を当て、少女のためにドアを開けてあげた。
「ありがとう」
最後に満面の笑みを向け、少女はドアが閉まる前に中へと入り、姫川に手を振った。
それを見届けた姫川は、それにつられて小さく手を振り返す。
少女は玄関を真っ直ぐ歩き、ジャンプしてエレベーターのボタンを押してそれに乗り込み、ガラス張りの壁から石矢魔町を見下ろしてほくそ笑む。
「侵入成功…」
*****
「あれ? 古市君とラミアちゃん、帰ってないの? おかしーな」
「ただいまーっス」
しばらくして、買い出しに行った夏目と花澤が戻ってきた。
だが、一緒に行ったはずの古市とラミアがまだ戻ってきていなかった。
焔王の侍女悪魔であるヨルダを見つけた古市とラミアはそれを追いかけ、夏目達より先にマンションの中に入ったというのに。
まさか、焔王が潜む隣の部屋に引っ張り込まれたとは知らないその場にいるメンバーは首を傾げる。
その中には因幡も含まれていた。
「一緒じゃなかったのかよ…?」
そう言いながら神崎は、夏目が手に提げているコンビニ袋を受け取り、「ハラへった」と中身を漁りだす。
「いや、途中まで一緒だったんだけど」
「おまえら…」
夏目がそう返したとき、姫川がケータイを手に部屋に戻って来た。
「対戦相手の居場所をつきとめたぞ」
「「「「!!」」」」
このまま永遠とゲームの相手をさせられ続けるかと諦めていたので、全員がその言葉に食いついた。
「姫ちゃん」
「マジかよ」
「あぁ、なんてことはねぇ。ネット上で相手の端末調べりゃ一発だったんだよ。それより、どこだと思うよ。ちょっと笑えるぞ…?」
そう言う姫川は苦笑を浮かべた。
「「「「?」」」」
笑いごとではなかった。
それを聞いた全員は言葉を失った。
「隣っ!?」
相手は、すぐ隣に存在していたのだ。
早速、姫川、神崎、城山、夏目、因幡、春樹の6人は部屋を出て隣の部屋へと向かう。
「まじかよ!?」と因幡。
「つか、隣もおまえの部屋だろ!? 気付かねーか、ふつう!!」と神崎。
「普段使われてないからって…」と春樹。
「灯台下暗しというやつか…」と城山。
姫川は隣の部屋の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
「あぁ。我ながらマヌケな話だぜ。ナメやがって…。悪魔野学園だかなんだか知らんが、出るトコ出て、きっちりカタつけてやるっ!!」
姫川は口元を吊り上げつつ、その顔には青筋が立っていた。
まさか自分の部屋に殴り込むことになろうとは思わなかっただろう。
勢いよく玄関のドアが開け、姫川達はずかずかと部屋へと上がり、先頭の姫川はリビングの扉も乱暴に開けた。
「おらぁっ、そこまでだっ!! 人んちでずい分好き勝手してくれたなぁ!!」
しかし、そこにあったのは誰もいない静かな空間だけだ。
「―――…誰もいねぇぞ?」
部屋の隅々まで見渡して見るが、人影も気配もない。
そもそも、自分達がいた部屋とは違って家具もほとんどなく、隠れる場所はどこにもなかった。
「あれ?」
「おい」
唖然とする姫川に、神崎はどうなってんだと言いたげに声をかける。
「……………」
因幡も気配を辿ろうとしたが、魔力の欠片も感じ取ることができなかった。
「一体どうなってんだ…」
(古市とラミアの行方も気になるし…)
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