29:刺客がきました。
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時刻は午前5時をまわった。
レッドテイルとは違う別室で仮眠をとっていた春樹は欠伸をしながらゲーム部屋に戻ってきた。
「姫川さん、交代の時間で…す……」
ドアを開けて飛びこんできた光景に、春樹は足を止めた。
「おう」
ソファーに座ってコントローラーを操作する姫川は、平然と返事を返した。
その右脚には、コントローラーを持ったままの神崎が背と頭をもたせかけて口を開けて眠り、神崎の伸ばされた脚の太ももでは因幡が枕にして同じく眠っていた。
(おふくろがネタにしたくなるの、わかっちまった…)
「ちょうどよかった。オレはいいから、古市も叩き起こして神崎と代われ。こいつら途中で寝オチしやがった」
ここぞとばかりに姫川は神崎のつむじをプッシングする。
すると、神崎は「んが…」と不満そうに眉をひそめた。
「あはは。わかりました」
小さく笑った春樹は別室で眠る古市を起こそうと背を向け、ドアノブにかけた手を止め、もう一度振り返った。
「…どうした?」
「いえ…」
春樹の視線はすやすやと眠る因幡を見、口元は微笑みを浮かべていた。
「桃姉がそうやって他人の傍で寝るなんて…、珍しい光景だと思って…」
「…?」
「昔はずっと気を張り詰めてばかりだったんです…。夜叉にいた時は抗争のことばかりでゆっくり休むヒマもなく、夜叉と黒狐の事件後はすっかり人間不信になっていたので、オレなりに心配していました。オレがいるのに、「口出しすんな」って冷たかったし、まったく関わらせてくれなかった…」
そこで春樹は腰を低くし、頭を下げた。
「神崎さんと姫川さん達には感謝しています。おかげで桃姉から、こうしてオレも輪の中に入れてくれたし…」
「勝手に懐いてきたのはこいつだ。オレ達はなにもしちゃいねーよ。感謝すんな。かゆい」
姫川はそう言いながら因幡の額を撫でた。
「そうですか」
それでも春樹の口元の笑みは崩れなかった。
姫川がそう言うのなら、そういうことにしておこうといった表情だ。
「あ、ちなみに気をつけてください」
ガブッ
同時に、姫川の手が因幡に噛まれた。
「痛てぇっっ!!」
「姉貴、寝てる時たまに噛みます」
「早く言えよっ!!」
歯型のついた指を撫で、姫川は持っていたコントローラーを春樹の額にぶつけた。
*****
午前7時。
因幡の家の前にひとりの巨漢が立ちつくしていた。
紫の長いおさげが特徴的だ。
「ココ…、ターゲットノ…家」
小さなメモを見て確認したその男は、早速インターフォンを鳴らそうと指先を伸ばす。
「あら…、お客さん?」
そこへ庭からこちらに来たのは、麦わら帽子を被った桜だ。
先程までガーデニング中だった。
「新聞屋さんじゃなさそうね…。なにか御用かしら?」
愛想の良い笑みを浮かべると、男も笑みを返し、ゆっくりと頷いた。
「用……アル…」
「? っ!!」
すると、いきなり男は桜の細い首をつかみ、壁に押しつけた。
突然のことに桜は目を見開き、被っていた麦わら帽子が足下に落ちる。
「う…くっ…!」
「オレ、“パンドラ”ノ、カーメン…。マズハ、一人…」
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