29:刺客がきました。
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神崎達は今、焔王と桃鉄のゲーム対戦中だった。
前回、見事勝利をおさめた石矢魔チームだったが、焔王が「今のはなし。あと100回勝負じゃ」とごねるので、別のゲームで対戦することとなってしまったのだ。
そこで別の部屋に移り、大画面のパソコンで他のオンラインゲームをすることになった。
それが桃鉄だ。
午前2時にコンビニの買い出しから戻って来た因幡は、ゲーム中だった春樹を、一緒にコンビニに行っていた古市を交代させ、部屋の隅へと連れて例の雑誌を見せた。
「はぁ!? おふくろ、行方不明中じゃなかったっけ!?」
春樹は声を抑えて驚いた声を上げた。
「そのはずなのにな…。おまえ、なにか聞いてないか?」
「聞いてるわけねえだろっ。オレだって今初めて知ったっつの! なにこれ、おふくろなにがしたいの!?」
「とりあえず手に入れたネタでシメ切りは守ったんだろ…」
問題はどうやって手に入れたかだ。
どこかで監視でもしているのだろうかと、ここに戻るまで気配を探ってみたが欠片も感じなかった。
シロトですら気配を探知できなかったのだ。
「なに話してる。因幡、交代だぞ」
コンビニから帰ってきたら城山と交代の約束をしていた。
「オレは一度寝たい」と目の下に隈をつくり、城山はコントローラーを差し出す。
「あ、一服してからでいいか?」
「一服?」
「そ。一服」
因幡が取り出したのは目も覚めるカフェインたっぷりコーヒー味のキャンディーだ。
まるで本当にタバコを吸うように、靴を持ってベランダへと出て行く。
「シロト、母さんの気配、近くに感じないか?」
ベランダの欄干に背をもたせかけ、因幡はキャンディーを咥えながらシロトに尋ねる。
“感じれば貴様に報告しておろう”
「だよな…」
期待していなかったように返し、振り返って夜の街並みを見下ろした。
目が眩むような高さだが、眺めは絶景だ。
ぬるい風が吹き、髪が乱れそうになったのを手のひらで撫でて直す。
「……なぁ、シロト…」
“なんじゃ?”
「悪魔だろうが、人間だろうが、母さんが何者かは置いといてだ…。オレに悪魔の血が少しでも流れてるなら、姉貴や弟はどうなんだ? あいつらもクォーターってやつなのか?」
“…ほう? その質問をするのか…”
その一度置いた質問を待っていたというのに。
シロトは意外そうに言った。
「おまえは母さんから受け継がれた契約悪魔ってやつなんだろ? どうしてオレに受け継がれたんだ? …次女のオレが…」
“……ワシがメスとしか契約できないからじゃよ。確かに弟にも悪魔の血が入っておるが、貴様と違ってスズメの涙ほどじゃ。しかし、普通の人間よりは強いはず…”
「確かに」と因幡は頷いた。
春樹も、並の人間よりケンカの腕は相当なものだ。
他校の不良中学生など、一瞬で吹っ飛ばすほど。
肩越しに振り返り、神崎が座るソファーの後ろに立って画面を眺めている春樹を見た。
“どうもこの血は、争いを好むようじゃ…。コハルは珍しく温和で、衝動を抑える奴だったがな”
「なら、姉貴は…? 姉貴がオレらみたいにケンカしてるとこ、見たことないけど…。それに、女に継承されるなら、普通は長女の姉貴じゃね?」
“……………”
「……おい…」
“……………”
突然黙りこむシロトに、因幡は望まない可能性を思いつき、はっとする。
「まさか、血が繋がってないとか言わないだろうな? 連れ子とか…」
“「そうだ」と言ったら…?”
「………っ」
因幡はその返答を聞いて、欄干を握りしめた。
(普通の人間である、父さんの連れ子…)
そんな話は聞いたことがなかった。
物心ついた頃から、そこには当たり前のように母親がいて、父親がいて、姉がいて、あとから弟が生まれた。
血のつながった当たり前の家族だと思っていたのに、まさかこんなところで悪魔から告げられるとは思わなかった。
「……オレ…、ずっと、最初から一緒だったのに…、家族のこと…、なにも知らねえ…」
家族の好きなもの、嫌いなもの、性格など、この17年ですべて知った気でいたというのに、ショックを隠せなかった。
母親は悪魔と関係があったこと、桜と血が繋がっていないこと、自分と春樹の中に悪魔の血が流れていること。
この町に来て、たった半年のうちに家族の裏側を見てしまった。
「因幡、いつまでのんびり一服してんだ! 城山がそろそろ限界だぞ」
その時、神崎がベランダの窓を開けてこちらにやってきた。
「!」
「? どうしたおまえ? なに落ち込んでんだ?」
酷く悲しげな因幡の顔を見た神崎は、首を傾げる。
因幡は慌てて作り笑いを浮かべた。
「い、いや…。悪い、そろそろ行くから…」
「眠いなら他の奴らに代わらせるぞ?」
「大丈夫大丈夫」
心配してくれる神崎に因幡は手をひらひらとさせながら靴を脱いでダイニングへと上がる。
「まぁ、あんまムリすんなよ?」
そう言って、神崎は通過される前に因幡の頭を撫でる。
いつもなら「髪が乱れる」と払うところだが、因幡は素直にそれを受け入れ、か細い声で「ありがとう」と言った。
その光景を、夏目と姫川はコントローラーを操作しながら見ていた。
「…因幡ちゃん、なにかあったのかな?」
「さぁな…。……………なぁ、もしかして神崎って因幡のことが好きなのか?」
「ぶっ!!」
一度大きな間を置いて声を潜めて尋ねる姫川に、夏目は思わず噴き出してしまった。
「な、なに笑ってんだよっ!」
「なんの話っスか?」
それをソファーの後ろで聞いていた春樹は背もたれから前を乗りだして尋ね、姫川の裏拳を食らって黙らされる。
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