28:ゲーム開始の時間です。
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朝早く起きた因幡は、枕元に置いたケータイを開いて時間を見て、弟の春樹の部屋をのぞいてから下の階へとおりた。
リビングに入っても春樹の姿はない。
「…しまった…。先に行っちまったか…」
「どうしたの?」
「!」
リビングのベランダから庭を見ると、姉の桜がそこにあった。
長いウェーブの髪は風に揺られ、カワイイピンクのワンピースを着ている。
今時のゆるふわガールとはこのことだろう。
因幡とは正反対だ。
その姿で、庭の花壇の花に、水色のジョウロで水をやっているところだ。
「姉貴ー、春樹の奴、もう学校行ったのか?」
「ヤな予感がしたからってさ」
先読みされていたようで、因幡は桜から目を逸らして密かに舌打ちした。
相変わらず勘だけは冴える。
「…姉貴、母さんから連絡は?」
「音沙汰なし」
笑顔で答えるようなことではない。
ちょうどジョウロの水がなくなり、桜は水を汲みに水道場へと歩む。
「これから学校サボってどこ行くの?」
「………姫川の家」
私服で会ったのはまずかった。
白状する因幡に桜は小さく笑い、「父さんには内緒にしてあげるから、チョコミントのアイス、よろしくね」と好物を要求する。
「…ところで、姫川君の家に? ひとりで?」
再び花壇の花に水をあげながら、期待に満ちて尋ねる。
「んなわけねえだろっ。神崎達と一緒だよ;」
「夏目君も一緒?」
「一緒だけど…、なんでそこで夏目が出てくるんだよ」
「悪くないと思って」
「意味わかんねーし」
勝手なことを言う桜に肩を落とす因幡。
「姉貴、大学は?」
「行くわよ。その前に花壇に水やって、雑草抜いてから」
大学は電車通学だ。
毎度ながら思うことだが、そんな悠長にやってていいものか。
それでも、こうして桜が手入れしてくれるおかげで、家の庭は人に見せても恥ずかしくないものだ。
花だって、枯れたところは見たことがない。
「じゃあ、行ってくる」
「ええ。行ってらっしゃい」
「母さんの手掛かりがつかめたら連絡よろしく」
「はいはい」
庭から桜に手を振られ、因幡はロールパンを一口で食べて咀嚼しながら玄関へと向かい、シロトの宿る靴を履いて外へと飛び出すと同時にジャンプして近所の屋根へと飛び乗った。
「さて…」
桜とのんびりと喋ってしまい時間をロスしてしまったが、走れば、まだ間に合うかもしれない。
急ぎ足で屋根を飛び移っていくと、その見覚えのある背中はすぐに見つけることができた。
「はーるーきっ!!」
「え。うわ!?」
いきなり目の前に因幡が着地し、通学路をひとりで歩いていた春樹はびっくりして立ち止まる。
「なになになに!?」
戸惑う春樹に、因幡は至極楽しげな笑みを浮かべながら春樹に近づいてその首に腕をかけた。
「春樹ー、兄ちゃんと一緒に学校サボろうぜ?」
「はぁ!?」
それは普通、友達に言うものだろう。
「いや、ホントは昨日の夜言いたかったけど、オレ帰ってきたの、10時過ぎだったし、おまえ寝てたし…」
「ちょっと待てよ桃姉。ワケを話せ、ワケを」
大概のことはこの身勝手な姉に振りまわされてきた春樹だったが、一緒に学校をサボろうと言われたのは初めてのことで困惑もあった。
因幡は面倒臭そうに昨日のことを一から離した。
悪魔野学園のこと、主謀者である子供を捜索したこと、姫川の家のオンラインゲームで一発で見つけてゲーム対戦して途中でボロ負けたこと。
「―――んで、今日、姫川が指定したオンラインゲームで敵と戦うことになってさ。11人いるんだけど、ひとり足りねえんだよ。おまえゲーム得意だったろ? オンラインゲームをやったことは?」
「あるけど…、他の友達に頼むだろ、そういうのは」
あまり乗り気ではない春樹に萎えたのか、因幡は冷たい目を向けて春樹から離れた。
「……そうか。…おまえのこと推薦したの…、神崎!! なんだけど…」
瞬間、わかりやすいほど春樹の体がピクリと反応した。
それを視界の端に入れた因幡は悪い忍び笑いを浮かべる。
「わかった。おまえの言う通り、別の奴に頼むわ」
わざとらしくそう言った因幡は塀から屋根へと飛び移った。
「待って!! 桃姉!! 待って!! 待ってえええええ!!」
因幡のような離れ技ができない春樹は、塀をよじ登りながら叫んだ。
その光景は、「行かない」と言っておきながらも、出かける親を必死に追いかける子供の図だった。
「オレも行く!! オレも行くからああああ!!」
「オレはおまえのそういうカワイイところが好きだぞ」
たとえ当の昔に身長を抜かそうがガタイがよくなろうが、いつまで経っても、姉に勝てない弟だった。
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