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姫川を先頭に到着した先には、30階建ての高級マンションだった。
因幡達は茫然とそのマンションを見上げていた。
最上階にはヘリポートまである。
「なにしてんだ。とっとと入れよ。別に、もてなしゃしねーけどよ」
そう言いながら、姫川は玄関に設置された掌紋認証でマンションのエントランスへ続くドアを開ける。
「こ…、ここ…、アンタのうち…? ヘリポートあんだけど…;」
動揺する大森の問いに、姫川は平然と答える。
「あ? こんなしみったれたマンションが家なわけねーだろ。借家だ、借家。高校通ってる間、使ってるだけだよ」
「一人暮らし!?」
エントランスホールを通った姫川達はエレベーターに乗り込み、25階へとのぼる。
エレベーターは中も広く、ドアの向かい側は窓になっていて夜景の町が見渡せる。
「ネトゲで例のガキ捜すんだろ? てめーらを招き入れんのは不本意だが…、ウチなら一通り揃ってるからな」と姫川。
「どこまで登るのだ…?」と花澤。
「たかーい」とはしゃぐのはラミア。
「けっ…。要するに自慢してーだけだろ? 小っちぇーやろーだ」
「神崎君ちでだって出来るもんねぇ」
「そういえば、おまえらオレの家にはちょくちょく遊びにくるクセに、自分の家に招いたことねーよな…。どっちも凄そうだけど」
超金持ちとヤクザの家だ。
一般の家とは次元が違うことは予測している。
そのうちひとつはこれから判明されるところだ。
ぽーん、と軽い音が鳴り、エレベーターが止まる。
「着いたぞ」
ドアが開き、エレベーターから下りる。
「どの部屋だよ?」
「ゲーム部屋は2501~2505だ」
「は?」
尋ねた神崎は目を丸くした。
「ほい、カギ」
姫川が出したのは、輪にかけられた5本の鍵だ。
「おいおい、てめー、まさか…。このフロア丸々てめーのもんとか言うんじゃねーだろな!?」
「バーカ。こっから上全部だ、ハゲ。とにかく手分けして捜すんだから数がいんだろ」
先を進んでいた姫川は立ち止まって振り返り、人差し指を上に向けながら言った。
((((―――…。ひくわー))))
大森は「これだから金持ちってやつは…」と呆れている。
ゲーム部屋の一部屋に入った姫川は、先に靴を脱いで上がり、部屋の明かりをつけた。
「以前知り合いとネトゲにハマってた時期があってな。一部屋6人。全部で30人が同時にプレイ出来るようになってる。もうほとんど使ってないがな…」
「意外。トモダチいたのか」
因幡がからかうように言うと、姫川は軽く睨みつける。
「知り合いだっつってんだろ」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!! ネットゲームなんて私やったことないわよ? どーやって捜すのかもわかんないし…」
「あ?」
大森が言いだし、古市、花澤、城山、因幡も頷く。
「あっ…、オレもっス」
「ウチもウチも」
「オレもだ」
「オレも。ネットはねーな」
「だから、ネットゲームってなによ」
「はぁ!? てめーら、なにしに来たんだよ…」
「とりあえずあがろう」
「おじゃましまーす」
玄関でかたまっていた因幡達は、靴を脱いで遠慮知らずに部屋に上がる。
古市、花澤、ラミアはベランダに駆け寄り、外の夜景を楽しんだ。
「いやいや、姫ちゃん。実際難しいと思うよー? それはかなり…」
一方、夏目、神崎、因幡は自然な動作で冷蔵庫を開けて中をあさっている。
「姫ちゃんがどういうつもりかは知らないけど…、匿名が基本のオンラインゲームで見ず知らずの人間を特定するなんて、ほぼ不可能に近いからね」
「なんもねーな。消費期限大丈夫か?」
「おっ、ハムみっけ」
「といいつつ人んちの冷蔵庫、あさってんじゃねーよ。盗賊か、てめーら」
夏目は冷蔵庫から見つけたジュースの入った瓶をとって蓋を開けて飲みだす。
「大体、相手がどんなゲームやってるかもわかんないわけでしょ? 一体世の中にオンラインゲームのタイトルがいくつあると思ってんの? 軽く3桁はいくよ。―――ま、せめてハンドルネームだけでも知ってりゃ、別だけどね…」
「ハンドルネームって…?」
「おそらく、運転免許証のことじゃないか?」
ネットゲームに手をつけたことのない大森と城山がこの調子だ。
「ちがうよ。ネット上の名前。ペンネームみたなもん。ダメだ、こいつら」
「おまえもけっこう詳しいな、夏目」
そう言いながら因幡は手持ちのキャンディーを取り出して咥える。
「…これ、やっていい…?」
棚に並べられたゲームソフトの数々を目を輝かせながら見ていた谷村は、そこから1本のゲームソフトを取り出した。
「あん? ストⅣか…。おまえ…、格ゲーなんてやるのかよ…」
「かなり…得意…!!」
谷村はパソコンの電源をつけるとソフトを挿入し、席についてゲームをスタートさせる。
「なになに? ストⅣ」
「千秋、あんなゲームするの?」
谷村の周りに、姫川、夏目、大森、因幡が集まる。
「弟と…よく…する」
「「「「……………」」」」
((((それだっ!!))))
古市達ははっとした。
「それっスよ!! 姫川先輩!!」
「どれだよ?」
「格ゲーっス、格ゲー!!」
「その子供は、ゲーセンでずっと格ゲーの対戦台に座ってたんスよ!! しかもネトゲをやり始めてまだ日が浅いんです。同じタイトルの格ゲーをネットでやってる可能性ありますよ!!」
「なるほどな…。じゃ、とりあえずあそこにあった全タイトルを手分けして捜すか」
「はい!! あと、ハンドルネームなんですけど…、もし「エンオウ」と読める奴がいたら、教えてください」
「エンオウ?」
「なんだよ、エンオウって…?」
「なんでもいいです。漢字でもカタカナでもローマ字でも」
ハンドルネームとはいえ、本名を使っている可能性は高かった。
「あの…、それ…、今、戦ってる人かも…」
画面には、「YOU WIN」の文字。
「マジかよ」と姫川。
「どれどれ」と夏目。
「まさか…、そんな…、いきなりは…」
古市は相手の名前を確認する。
ENOH。
(おぉぉぉ…、確かに!! エンオウと読める…!!)
「なになに…?」と大森。
「いたの?」とラミア。
「弱い…と思います。簡単に勝てたし…」と谷村。
「なっ…、なにか喋りかけてみてよっ!!」と古市。
「なにかって?」
「なんでもいいからちょっと挑発してみてみるとか…」
その時、メールを受信した。
「おっ…、むこうからメール来たぞ」
姫川がそう言うと、谷村はメールを開いて内容を確認する。
全員も谷村の後ろからそれをのぞいた。
“ムキ―――っ!! おぬし調子にのるなよ!! 再戦じゃ!! 再戦!! 余の恐ろしさをとくと味あわせてくれるっっ!! (゚皿゚"メ)”
((絶対こいつだ…!!!))
古市とラミアは確信した。
「こいつだ!!」
「こいつです!!」
「「こいつしかありえないです!!」」
「落ち着け」と姫川。
「マジかよ」と神崎。
「一発で…」と因幡。
「なになに? 本物?」と大森。
「パネェ」と花澤。
「…どうすればいいの?」
コントローラーを手に、谷村が古市に尋ねる。
「とにかく返信してみよう。言う通りに打って」
“焔王坊っちゃまですか? お久しぶりです。古市です(^_^) この間貸したゲームはいかがでしたでしょうか? 出来ればまた直接会って一緒にゲームしたいですね(^^)/~~~”
古市の言う通り、谷村はキーボードを打って送信する。
「送信…と」
それから1時間近く待ったが、午後7時をまわっても、返信は返ってこない。
(全然返ってこねぇ…)
「なにかを嗅ぎとったのかしら…?」
「わからん。とにかく、もう一通送ってみよう」
“ネットゲームは楽しいですね(^_^) ところで焔王坊っちゃまは今どちらにお住まいなんですか?”
「ちょっと露骨すぎない?」
「いいから」
再び送信する。
さらに1時間後、返信はまったく返ってこない。
「もう落ちてんじゃねーか?」と神崎。
「てゆーか絶対警戒されてるわよ、これ。もっと慎重にやりなさいよ!!」
「…………「再戦する?」…」
「さいせんする…? と…」
すると、1秒もかからず返信が返って来た。
“うむ。”
「おまえ嫌われてんだろ、古市」と因幡。
「とにかく勝って!! べこんべこんにヘコまして!! そしたらあいつまた泣きついてくるから!!」
無視された怒りを谷村に託し、対戦はラウンドワンに入る。そこで姫川はメールの受信を確認した。
「待て。もう一通メールが来てるぞ」
“この勝負に勝てば教えてやらんこともないぞ?”
((((ほう))))
願ってもない条件だ。
「おおおっ!! きたきた!! チャンスじゃない!?」と夏目。
「千秋っ!! やってやんな!!」と大森。
「アキチーファイッ!!」と花澤。
「つーか「余」て!! どんだけ偉いんだこいつ!? 王子かっ!!」と神崎。
((王子です…。悪魔の…))
(……まさか…)
因幡は少し勘づいた。
「大丈夫…。勝ちます」
普段大人しい谷村が燃えている。
「おぉ!? なんかスイッチ入ってる…!?」と古市。
「ガンバレー」とラミア。
3本先取の対戦が始まり、ラウンドワン、ラウンドツーと続いて谷村が勝ち続けていく。
「よぉぉぉしっ!! あと一本っっ!! 楽勝だぜ!!」
「いけるぞ!!」
「てゆーか、なにこのゲーム」
先程から戦いを見て、負けた相手は必ず全裸になっている。
疑問に思った大森に、夏目が説明する。
「ストリートキングオブファイターズⅣ。通称ストフォー。脱げば脱ぐほど強くなる裸の戦士達が闘う格ゲーだ。プレイヤーはダメージを受けると服が破けていく。そして破けるごとに大技が出せるようになり、一発逆転が可能になる。ただし、全裸になった負けだ」
素人にもわかりやすい説明だ。
「かなり玄人向けの格ゲーだが…、谷村は相当うまいよ」
「あぁ…。なかなかやるじゃねーかおまえ」
神崎まで褒める。
「あっそ」
3本目の勝負。
これに勝てば、焔王の居場所がわかる。
しかし、相手のキャラクターに変化が起きた。
ゆっくりと動き、残像が現れた。
「あれは…!! ゼロフレーム浮かし脱ぎっっ!!」
「通称“ゴーストストリップ”!!」
夏目と神崎は声を上げた。
“YOU LOSE”
優勢であったはずの谷村のキャラは、一撃で全裸にされてしまった。
「え? なに? 負けたの?」
勝負の流れについていけなかった大森は驚いている夏目と神崎に尋ねる。
「ありえねぇ」
「あぁ。ほとんどハメに近いウルテクだ。噂には聞いてたが、本当に使える奴がいるなんて…」
谷村はコントローラーを握りしめ、画面を見た。
「プレイヤーが…、変わった…」
その後は谷村の全敗だ。
30連敗した谷村は部屋のソファーでふて寝し、他のメンバーは交代しながら対戦するが、相手は無敵に強かった。
谷村に続き、神崎、夏目と相手をしているところだ。
傍観しているメンバーは後ろから応援するだけだ。
「キリあるのかよ、コレ…」
そろそろ応援に飽きてきた因幡は棚の方へ向かい、「他のゲームじゃダメなのか…」と呟きながら棚に並べられたソフトを見る。
「…!」
上から2段目のソフトとソフトの間になにか紙のようなものが挟まっている。
ゲームを観戦している姫川を肩越しに確認してから、棚を開け、つまんで取り出そうとしたが、ソフトがぎゅうぎゅうにつまっているため、一度ソフトを1本だけ取り出さなければ破れてしまう。
なので、適当に1本取り出してからその挟まってるものを取り出す。
見ると、1枚の写真だった。
「…!」
写っているのは…、
「なにしてんだ因幡」
「!!!」
不意に背後から姫川に声をかけられ、因幡は急いで写真を棚に戻してスライド式の棚のガラス戸を閉めようとした。
ガッ!
「~~~っ!!」
だが、慌てて閉めたため、誤って自分の左手の人差し指、中指、薬指を挟んでしまう。
激痛に声も出ない。
「おいおいおい、大丈夫か? うわ、痛そ」
姫川は因幡の左手をとり、挟んで赤く腫れる指を見る。
「痛く…ねえ…っ」
涙目で言う因幡に説得力はない。
「強がんな。…ん? そのソフト…」
姫川は因幡が仕舞い損ねたソフトに目をつけ、因幡は涙目のまま首を傾げた。
そんな2人を見つめる神崎は、対戦中の夏目に何気なく「なぁ」と声をかける。
「ん?」
「姫川って、因幡のことが好きなのか?」
「は!!? あ!!!」
思わず神崎に振り返ってしまい、次の瞬間には相手に一撃で倒されてしまった。
すると、因幡が適当につかんだソフトを手に、姫川が戻ってきた。
「夏目、かわれ。オレが相手と交渉する」
.To be continued