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遡ること、数十分前。
因幡の家に、最初の来訪者が訪れた。
インターフォンに出て、玄関の扉を開けたのは因幡だ。
「よう」
「…よう、姫川」
複雑な表情で返す因幡。
部屋にあげた因幡は低いテーブルを間に挟み、姫川と向かい合った。
姫川は胡坐をかいて因幡の部屋を見回している。
因幡から声がかかるのを待っているかのように。
察した因幡は苦笑混じりに切りだす。
「おまえが誘いもしてねーのに、オレの家に来るなんて珍しいじゃねーか」
「…そうか? …そういや、母親は帰ってきたのか?」
「まだだ。今日も知り合いの家に一件一件電話かけてみたけど、誰も知らぬ存ぜぬだ」
因幡が首を横に振って答えると、姫川はまた質問を投げかける。
「おまえ、母親のこと、どれくらい知ってる?」
「…オレが生まれる前のあの人のことは知らない。…最近になって、触り程度だけ知った」
悪魔と関係がある人物だと。
言える話ではないが。
「…何モンなんだ? 鮫島とも知った関係のようだった」
さてこの質問にどうして説明したものかと頭を悩ませた時だ。
姫川が言葉を継いだ。
「たとえば…、鮫島は実験大好きなマッドドクターで、おまえの母親はそれを追うどこぞの組織のスパイとか…、漫画的な」
「……………」
(それだ―――!!)
「ああ。実は、鮫島は実験大好きなマッドドクターで、母さんはそれを追うどこぞの組織のスパイなんだ…」
そのまま言っただけだが、姫川はサングラスの奥の瞳を輝かせた。
「やっぱりそういうことか…!!」
「ああ!! そういうことだ!!」
(アホが2人…)
2階の会話の内容を玄関で聞いていたシロトは呆れ果てていた。
ネタができれば、デタラメを並べるのは簡単なことだった。
「……神崎がその実験の対象者だったとか?」
そこで因幡はピンときた。
今になって質問責めにするわけも、すべてはその質問に繋げたかったからだ。
内心で黒い笑みを浮かべた因幡は力強く頷いた。
「神崎が鮫島に執拗にからまれてたのは知ってるな?」
「ああ」
「神崎は、特定の人物にキスされなきゃ衰弱しちまう体にされちまったんだ。ウサギみたいなシッポが生えればその危険信号」
姫川は昨日のことを思い返していた。
「……特定の人物? 鮫島じゃないのか?」
「当の本人はそのつもりだったらしいが、他にも相性のいい人間がいた」
「……………」
姫川はこちらに耳を向けてはいたが、すでに視線を逸らしている。
ここで因幡は意地悪してみることに。
「…放課後」
「…!」
ピクリと反応した。
「空き教室で」
「!!」
「……頭のコブはもういいのか?」
「お…まえ……っ」
姫川がゆっくりと因幡に顔を向ける。
その口元の笑みは引きつっていた。
「ほれ」
因幡はケータイをいじり、昨日の決定的瞬間の写メを見せた。
途端に、姫川の顔に大量の汗が浮かび、肌の色は蒼白になると、いきなり立ち上がって目の前のテーブルに足をかけて因幡にスタンバトンを向けた。
「…消せ…!! すぐにっっ!!」
「や、やだよ…」
「消せええええええっっ!!!」
このあと、部屋で小さな追いかけっこが始まった。
スタンバトンで因幡に電撃を食らわせ、ケータイを壊すつもりでかかってくる。
因幡は振られるスタンバトンを飛び避けながら説得した。
「待て!! これはまだ誰にも見せてねえし!見せる気もねえ!!」
「じゃあ持ってても意味ねえだろ! 消せ! じゃねえと、てめーごと消すぞコラァ!!」
「うわっ!」
ぴょんぴょんと逃げ回る因幡に疲れを覚えた姫川は、一度止まって肩で息をする。
「……いくらだ?」
出た、と因幡は呆れた顔をする。
「…1億円」
「わかった」
「わかるなっ!!」
冗談で言ったつもりが、姫川はケータイでさっそく1億円を取り寄せようとする。
姫川に対し、金の冗談は言えないものだ。
「回りくどい話はなしだ。とにかく、おまえは神崎の風邪薬で、神崎にシッポが現れたらおまえが治してやるんだ。キスで!」
「クソ。なんて、むちゃくちゃな話だ。大体、あいつは嫌がるだろ!」
(…もしかして満更でもないのか、おまえは)
それはさすがに聞き出せず、因幡は違うことを返す。
「別に昨日みたいに口同士じゃなくていい。手の甲とか、頬とか、姫川の口が神崎のどこかに触れるだけでいいらしい」
「それもけっこう勇気いるぞ?」
普段がバイ菌みたいに扱われているだけに。
「…オレもそれなりに神崎説得してみるから」
面倒なことだが、鮫島(設定・マッドドクター)の実験台にされたことやらなど。
「……………」
「姫川、なんで神崎の口同士だったんだ? これ、明らかに机がぶつかる前にしてるよな?」
ケータイの写メを見せながら尋ねると、姫川は真剣な顔になり、肩をすくめた。
「オレにもわかんなかったからここに来た。…オレもなにかの実験されたのか?」
「……………」
確かに姫川もシロトの一部を取り込んでしまっている。
けれど、神崎に口同士でキスをしたのは姫川の意思だ。
本人はそれを自覚していないだけ。
それをうまく説明することができず、いや、答えを知っても自分の口から告げることはできず、因幡は「おまえは知らねえよ」と曖昧に答えた。
玄関を出て家の前まで送り出した因幡は、姫川と向かい合う。
「それじゃあ…」
「因幡…」
姫川は因幡の耳元に口を寄せ、「今日のことは誰にもしゃべんじゃねーぞ」と囁き、因幡は薄笑みを浮かべ、「わかった」と頷いた。
「じゃあな」
「車じゃねーのか?」
「いちいちそんな大層なモン使ってられるか」
徒歩で因幡の家を去る姫川。
因幡はその背中を見届け、「さて、どうするか…」と呟く。
「どうやって…、キスさせようか…」
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