26:秘密の放課後。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
授業が始まる前に戻って来た因幡だったが、教室には神崎の姿がなかった。
「……神崎は?」
席に着いた夏目に問うと、夏目は「神崎君ならトイレに行ったよ。恐い顔で」と答えた。
ならすぐに戻ってくるだろう、と自分の席に着くと、机の横にかけられたシロトが言いだす。
“……具現化したようじゃな…”
「!」
“渇きが限界に近づき、“尾”もガマンもできず出現してしまったようじゃ…。貴様が興奮して、目が赤くなるように…”
「尾って…、まさか神崎の奴…」
それに気付いて出て行ったとでもいうのか。
神崎の席の横にあるカバンはそのままだ。
早退したわけではない。
その時、ちょうど早乙女が教室に入って来た。
因幡は、姫川の方はどうなのだろうかと振り返ったところ、席に着く前にはいたはずの姫川がいなくなっていた。
「…姫川?」
“無意識じゃが、“皮”の奴もなにか感じ取ったようじゃのう。安心せい。尾が奴と接触すれば、渇きも治る”
「…?」
シロトが、口元に笑みを浮かべたような気がした。
*****
その頃、神崎は旧校舎のつうか空き教室でひとり、自分の尻に出現したシッポをどうにか抜こうと奮闘していた。
「く…っ!」
シッポと教卓に紐をくくりつけ、引っ張って取ろうとする。
「イデデデッ!!」
当然、雑草を抜くように抜けるわけがない。
教卓が動くだけだ。
「うぐぅ…っ。クソ…ッ、こんなもん誰かに見られたらいい笑いモンだ…」
東邦神姫の神崎一はウサギのシッポが生えている。
本人は笑えない噂だ。
そんな屈辱的な噂を流してなるものかと顔を上げ、もう一度挑戦しようとした。
「なにしてんだおまえ」
「うおわぁっ!!?」
いつの間にいたのか、ドアの手前に立った姫川が声をかけた。
「……………」
姫川の視線が、神崎の尻に移る。
少しずらしたズボンの上から、白くて丸いふわふわの毛が見えた。
「ひ、姫か…」
「なにこれ、アクセサリー?」
近づくなり、いきなりシッポを握ってきた。
「ギャァ゛!!」
「あ? どうなってんだこれ、抜けねえ…」
そのうえ躊躇なく引っ張られ、神崎の目に涙が滲む。
「痛ってえよボケェ!!」
「うおっ!?」
コブシを振るわれ、姫川は後ろに一歩退いて避けた。
口と耳を繋ぐチェーンを引っ張られた時のように怒った。
神崎は仕方なく、突然ウサギのシッポが生えたことを正直に打ち明けた。
信じ難いといった顔をした姫川だったが、改めて痛くない程度に触り、付け根に生えていることを確認した。
「……生えてるな。ウサギに恨みでも買ったか?」
「身に覚えがねえ…。寝てる間に宇宙人に攫われて実験台にされたとか…」
非科学的なことを考えざるを得ない。
姫川は怪訝な顔をしたが、こうして非科学的なものを目の当たりにしているので、宇宙人説は頭の片隅に置いた。
「つうか、よくオレがここにいるって…」
「なんとなくだよ。トイレに行こうとしたら…。そういえばなんでここに来ちまったんだろ?」
「オレに聞くなっ」
神崎も人のことは言えなかった。
病院の前で姫川を待っていたのも、姫川がそこにいると感じたからだ。
姫川も似たようなものだ。
トイレから戻ってこない神崎のことを一瞬気にしただけで、どこにいるのか勘づいた。
「とにかくキツネやオオカミのシッポとかだったら、アクセで通せたけどよ…。コレだぜ?」
「なるほど。だから放課後全員が帰るまで待つか、こうしてひとり除去しようと奮闘してたわけだな?」
「……まあな」
「よし。じゃあ、ケツ出せ」
どこから取り出したのか、姫川はハサミを構えた。
「出せるかぁっ!! なに物騒なモン出してんだ!! 神経繋がってんだぞ!!」
「切らずにどうすんだよコレ。抜く方が激痛モンだろ」
人差し指の先で、つんつん、と突かれ、神崎の背筋にゾクゾクと寒気が走った。
「へ、ヘンな触り方すんなっ」
その手を払い落とし、「他に策はねえのかっ」と偉そうに言う。
「他力本願な奴だな…。病院に…」
「絶対ヤだ」
良くて笑いものになるか、悪くてテレビ局に通報されそうだ。
「白黒頭の腕のいい無免許医なら考えるけどな」
某漫画のヤブ医者を出してもしょうがない。
「シッポもそうだが、おまえ、熱あんじゃねーのか? 具合悪そうに見えるけど?」
そう、神崎は悪化していた。
「あ? 熱はねえって夏目が…」
そこで不意に目眩を覚えた。
「…っ」
「おい!」
倒れそうになったところを咄嗟に手を伸ばして受け止めた姫川だったが、勢いよく倒れてきたので支えきれずバランスを崩してしまい、その場に尻餅をつき、積まれた机に背中をぶつけてしまった。
「つ…っ」
「あ…、ワリィ…」
「…!」
力の抜けた声で謝る神崎を見下ろすと、神崎の頭は自分の鎖骨辺りにあった。
困惑してしまう状況に、「早くどけ」と言おうと口を開けたとき、神崎は「姫川…」と声をかける。
「姫川…、おまえ、香水つけてる?」
「……いや…」
姫川は神崎のつむじを見下ろしながら否定した。
神崎は鼻をすんすんと鳴らす。
「なんか…、いい…匂いが……」
「…あー…、風邪引くといつもと違う匂いがするって…」
「落ち着く匂いだ…」
「……………」
姫川は焦った。
この場面を誰かに見られるんじゃないか、とかではなく、早鐘を打つ心臓の音を神崎に聞かれてしまうのが。
.