26:秘密の放課後。
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桜が作った夕飯を食べたあと、因幡は玄関から自分の靴を持って自室へと戻った。
外はとっぷりと日も暮れ、薄暗い部屋の中、愛用靴を机に置いて「おい」「聞こえてんだろ」「契約悪魔」「反応しろ」など、声をかける。
靴に話しかけるなんて妙な光景にも程がある。
しかし、靴はうんともすんとも言わない。
今朝はあれだけ騒ぎを起こしておきながら。
「…!」
その時因幡は肌にチクリと刺すような気配を感じとり、窓を見た。
外は至って静かだが、胸がざわめく。
「……なんだ?」
夕方、校内にいた時もそうだった。
神崎達と話していたとき、突然、体を押しつけられるような圧迫感に襲われたのだ。
それに気付いていたのは、因幡だけではなかった。
「……………」
因幡は靴を手に取り、ベランダで履いてそのまま2階から出かけようと欄干に足をかけ、隣の家の屋根に飛び移ろうとした。
“待て”
「ぶっ!」
しかし、靴が欄干に密着し、足が固定されたままベランダの壁に体の前面を打ちつけた。
(口きくの遅ぇよ…)
因幡は一度部屋に戻る。
「なんで止めた?」
“悪魔の気配を感じ取った。人間を蹴ることさえ戸惑ってしまった貴様が行っても、死ぬだけじゃ”
先程のだんまりはなんだったのか、机に載せられた靴が人間のように喋り出す。
「また悪魔…。…鮫島か?」
“あの男とは違うな…。悪魔は一人ではない。しかも、現在戦闘中のようじゃ。…蠅の王も派手に暴れておる”
「蠅の王?」
右足の靴がぴょんぴょん跳ねる。
“いつも赤ん坊を連れている男がおるじゃろう”
因幡の脳裏を真っ先によぎったのが、男鹿の顔だ。
「男鹿…? あいつも悪魔なのか?」
“いや、奴にしがみつく赤ん坊がそれじゃよ。ただの悪魔ではない。どういう経緯か知らんが、大魔王の赤子じゃ”
(つまり…、魔王ってことか?)
霧矢を倒した時の男鹿とベル坊の姿を思い出した。
あの時のただならぬ気配は気のせいではなかったということだ。
“ついでに、男鹿という男の嫁も悪魔じゃ。さしずめ、侍女悪魔というところかのう…”
続いて、ヒルダの顔が浮かぶ。
見たこともない生き物に乗って飛んだり、仕込み剣を使用したり、殺人サーブを打ったり、普通の人間ではないとは前から思っていた。
岩を足で吹っ飛ばす因幡が言えたものではないが。
ますます因幡の頭が混乱してくる。
ずっと普通の人間として過ごしてきたのだから無理もない。
聞きたいことが頭の中で積もっていくが、因幡は自分のことを先に解決するべきだと考える。
「………おまえはなんだ?」
“さっき声をかけておったじゃろう。契約悪魔…と”
「契約悪魔って…」
鮫島が言っていた、契約悪魔の譲渡の話を思い出す。
“人間とある契約を交わした悪魔のことじゃ。男鹿という男の契約悪魔があの赤ん坊であるようにな。昨夜からワシはコハルから貴様の契約悪魔となった。桃”
「母さんの?」
“そう。遅めの契約じゃったがのう。…仕方ない。コハルは、桃にはワシを受け継がせないつもりだった。普通の人間の娘として育ってほしかったのじゃ…。じゃが、桃は、悪魔の力―――魔力があった。それも、自身で抑えのきかぬほどの膨大な魔力…。普通の人間として生きていくには難しかった。成長していくごとに、桃の悪魔は暴走したのじゃ”
「オレは人間のはずじゃ…!」
早乙女は「人間だ」と言ってくれた。
まさか、慰めの言葉だったとでもいうのか。
“人間じゃよ。悪魔の血が入ったな。…まあ、クォーターってやつじゃ”
素直に安堵していいのか。
因幡は複雑な顔をする。
“昨夜、貴様は友が殺されたと思って、ついに過去最大の暴走を始めた。己の身を滅ぼしかねず、コハルは仕方なくワシを桃に譲渡したのじゃ。制御剤としてのう。ワシがいる限り、暴走することはたぶんない”
「たぶんって…」
ガッ!
「ぐは!」
喋ってばかりだと油断していたため、因幡が肩を落とすと同時に右足の靴が因幡の左頬を蹴った。
「やめてくれる!? 突然そうやって攻撃してくんのっ!! 痛いし、びっくりするし…」
“黙れミミズ! ワシに確信を持たせないのはそもそも契約が失敗したからで…!”
「なにが失敗したってんだ!?」
今朝もそんなことを口走っていたことを思い出す。
“「契約の際は部外者を陣に入れてはならぬ」。”
「?」
“ワシは“依代”という、契約者の想い入れのある物体に、己が身体の代わりとして入り込む”
「人形に死者の魂が乗り移る、みたいな?」
テレビで見たことを思い出して言うと、シロトの口調は一層不機嫌になる。
“たとえが気に入らんがそんなものじゃ…。ワシが入り込む物体は、人間でも可能なのじゃよ。しかも想い入れのバランスが良かったのか悪かったのか、ワシの身体が、この靴と、2人の人間の身体に分散してしまった…!”
「…誰?」
“己の胸に聞いてみろ!! ……円陣の中におったのは…、貴様の友人じゃ。誰かは言わずともわかろう…!”
契約時の記憶は曖昧だが、屋上にいたメンツを思い返してみる。
元・契約者であるコハルと、会ったばかりの早乙女、殺しかけた鮫島は除外され、残った2人が頭に浮かんだ。
「…!! 神崎と姫川?」
その時、より一層強い魔力を感じ取った。
遠くの方で爆音が聞こえた気もする。
「この気配…、学校にいた時にも…!」
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