25:失敗から得たもの。
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「「逃げられたぁ!?」」
昨夜について話していた5人。
昨夜の出来事ことはコハルがなにか関わっていて詳しいのではないかと尋ねたところ、因幡は苦い顔で、コハルが失踪したことを話し、神崎と姫川はハモった。
「そう。煙のようにな」
タバコ代わりのキャンディーを口内でガリガリと噛み、キャンディーの包みで折り紙のように折り始める。
「警察とかには届けたのか?」
城山の問いに因幡は首を横に振った。
「父さんが…、「腹が減ったらそのうち帰ってくるだろう」みたいな…;」
「放し飼いのネコかっ!!」
つっこんだのは神崎だ。
「シメ切前に逃げ出すのとは違うから、目立つことはしないと思う…。…待つしかねえな。編集者の相手、面倒だけど…」
このまま2度と帰ってこないのではないか、と不安はないといえばウソになる。
昔話でもある、正体を知られてしまった、ツルのように。
キャンディーの包みは、小さなツルの形に折られていた。
(昨日は学園祭といい、拉致事件といい、色々あったな…。終わったあとは、こんなに静かなもんか…)
曇った顔でため息をつくと、対照的に明るい顔と声とともに古市が教室に入って来た。
「いやー、参りましたよ!! さっき、そこで女の子に「試合見ましたー」なんて声かけられちゃって。オレの活躍、見てくれてたんですねー」
((((活躍……? したっけ?))))
教室にいる全員が思った。
出馬の、その名の通りの魔球に逃げ回った場面しか思い出せない。
「あ、因幡先輩、昨日聞きそびれたんですけど、応援にきてくださった桃ちゃんって、どこの学校…」
「絶対に教えねぇ…っ!! 気安く「桃ちゃん」言うなっ!!」
まさか、迫力満点に睨みつけている者とは思わないだろう。
たじろいだ古市は「す、すみません」と怯えながら謝る。
「あれ? 今日はヒルダさん来てないの?」
「さぁな…」
席に着くなり問いかける古市に、前の席に着いていた男鹿は振り返らずに答える。
「―――しかしまぁ…、平和になっちまったもんだな」と姫川。
「まったく、はりあいねーぜ」と神崎。
その時、もうすぐHRの時間だというのに、男鹿が教室から出て行った。
それを追いかける者は誰もいない。
HRに備え、皆、自分の席に着いた。
(…母さんの手掛かり…、悪魔のこと…)
因幡は前を見据え、昨夜の出来事を思い返す。
昨日の今日だ。
鮫島は素知らぬ顔で保健室に戻っていることはあり得ない。
あの場にはもう一人いたはずだ。
突然現れた、バンダナを巻いた中年。
コハルとも顔見知りの様子だった。
「珍しく遅いな…」
後ろの席から姫川がそう呟いたので、「なにが?」と振り返る。
姫川はケータイをいじりながら答えた。
「HR。もう過ぎてる」
「…佐渡原の奴、時間は守ってたのにな…」
HRの時間はとっくに始まっていて、5分が経過していた。
その時、教室の扉がガラリと開き、石矢魔生徒全員が目を見開いた。
中年の男が、あの男鹿と東条を肩に担いで教室に足を踏み入れたからだ。
入ってくるなり、2人を席に座らせ、教卓へと向かい、黒板に自分の名前を書く。
“早乙女禅十郎”
「―――というわけで、よろしく。今日からおまえらの担任になる、早乙女だ」
因幡と神崎は唖然とし、大口を開けたまま固まっていた。
((どっかで見たことある…っ!!))
男鹿と東条は、頬を腫らして白目を剥いたまま気絶していた。
石矢魔最強の2人の現状に、教室内は通夜のように静かだ。
「はっはっはっ。どーしたぁ!? 元気ねーぞ、このクソッタレ共が!!」
元気よく笑い声を上げる早乙女。
そこで邦枝がおそるおそる手を小さく挙げた。
「私達、なにも聞かされてないんですけど…、佐渡原先生はどうなったんでしょうか?」
「んー」
邦枝の問いに、早乙女は後頭部を掻き、邦枝の顔をじっと見つめながら聞き返す。
「おまえ、名前は?」
「え? あ…、邦枝です」
「そうか…。かわいいな、くそったれ」
「は!?」
「彼氏いるのか?」
「いませんっ!! てかなんの話ですか!!」
それに黙っている大森と飛鳥ではなかった。
勢いよく席を立って教卓に近づき、早乙女に凄む。
「おいこら。てめぇ、うちの姐さんにずいぶんなれなれしい口きいてくれんじゃねーか。つぶすぞ」
「セクハラで訴えられてーのか、このエロ教師!!」
「お? 特攻服か…。なつかしいな…」
怯むどころか、早乙女は大森に手を伸ばし、特攻服の襟をつかむ。
「触んなっ!!」
大森は顔面目掛けコブシを振るったが、早乙女は首を傾けてかわし、「いい突きだ」と褒め、大森と飛鳥の頭の上に手を置いた。
「心配すんな。前任の先生なら了承済みだ。もともとオレが来るまでの臨時だったからな。マゾ原先生も、今頃、肩の荷がおりてほっとしてるだろーよ」
「佐渡原先生です」と邦枝がつっこむ。
「ん? そうか? まぁ、どっちでもいいさ。サドでもマゾでも。こまけーことは気にすんな。くそったれ」
そう言ってまた呑気な笑い声を立てる。
((((本当に教師か…!? こいつ…))))
HRも終わり、早乙女が一度教室を出て行く。
それを見計らい、因幡はそれを追い、階段を下りる前に声をかけた。
「おい!」
早乙女は踊り場で立ち止まり、因幡を見上げる。
「アンタ、昨日の夜、いたよな!? 母さんと一緒に…」
「……あんなハデに暴れておきながら覚えてるのか…。……オレがあの場いたらどうする?」
「今朝、母さんがいなくなった。アンタなら居場所くらい知ってんだろ!」
「質問はそれだけか? だったら知らねえ。オレが出て行くように催促したわけでもねーしな」
「質問はまだある! 魔界とか、悪魔とか、契約とか、譲渡とか…。色んなことありすぎてこっちは混乱してんだよ!」
湧きあがる焦燥感。
吐き捨てるように言うと、早乙女はまた後頭部を掻いた。
「全部説明するのは面倒臭ぇ。だから、てめーの契約悪魔に聞いてみろ」
「契約悪魔……」
因幡ははっと、今朝、自分の顔面に蹴りを食らわせた靴を思い出す。
「おいおい知っていくことになるだろ…」
早乙女はそう言って階段を下りようとしたが、「待て」と因幡は止める。
「最後! コレだけは答えてくれ」
「?」
「オレは、人間か?」
早乙女は、フ、と笑った。
「人間だ。スカート穿けば、完璧な女子高生だな」
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