25:失敗から得たもの。
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躊躇はあったが、因幡は先程まで自分に蹴りを入れていた靴を履き、夏目と肩を並ばせて学校への道を歩く。
「…夏目、体の調子はもういいのか? 昨日の今日だぞ」
「うん…。起きた時は、だいぶだるかったけど…」
「だったら…、オレのこと心配して、こんな朝早く来ることなかっただろ…」
「神崎君や姫ちゃんと違って、因幡ちゃんのことは聞いてなかったらね…。あいつになにかされたとかなくてよかった…、本当に…」
神崎は危うくキスされて命を取られるところだったが、と因幡は半目になるが、口にはしない。
代わりに軽く夏目の脇腹を小突く。
「って」
「オレが大人しくなにかされるタマに見えるか?」
「…そうだね」
納得するように頷き、夏目は小さく笑った。
電車に乗って目的地の駅で下車し、駅から出た時だ。
因幡と夏目の前に数人のガラの悪そうな他校の不良達が立ち塞がった。
「そろそろ来る頃だと思ったぞ」
「石矢魔の冷酷兎・因幡桃矢だな?」
「ちょっとツラ貸してもらおうか…」
通過されないように、V字隊形だ。
因幡は露骨に鬱陶しそうな顔をする。
「因幡ちゃんも、すっかり他の不良のアイドルだねー。東邦神姫や男鹿ちゃんと並ぶんじゃない? 冷酷兎とか異名までつけられちゃって…」
夏目は状況を楽しんでいる様子だ。
目の前の不良より怒りを覚える。
「強ぇ奴ならともかく、こういう身の程知らずの奴ら片付ける方が面倒なんだからな。オレひとり相手するのに全員角材持ってるし…」
「言うじゃねえかコノヤロウ!!」
「部活の朝練みたいにぞろぞろと押しかけやがって…。てめーらもさっさと学校行けよ」
因幡は迷惑そうに言いながら、夏目にカバンを持ってもらう。
まずは先頭にいたひとりの、振り下ろされた角材を横にとんで避けた。
そのまま膝蹴りを腹に打ち込んで終わり、のはずだった。
「っ!!」
不意に、脳裏に鮫島の右腕の骨を折った記憶がフラッシュバックし、とっさに体勢を変え、右コブシでアゴを殴り付けた。
「!」
違和感を感じない夏目ではなかった。
食らった不良は気絶はせず、アゴを両手で押さえて悶えた。
「ぐ…うっ!」
「…っ」
元々、殴り合いは不得意な因幡だ。
コブシの痛みに右目をギュッと瞑る。
「因幡ちゃん! 前!」
ゴッ!
「っく…!」
隙を突かれ、右肩に角材を食らってしまった。
よろめいたが、第2の攻撃は体を逸らして避ける。
足を伸ばせば相手に届く距離だったが、足は出さず、後ろに飛んで距離をとった。
「どうして…」
(どうしていつもの蹴り技が出ないんだ?)
夏目は疑問を浮かべ、その光景を眺めていた。
因幡の額には冷たい汗が浮かび、緊張しているのか息も荒い。脚も小刻みに震えていた。
(人を蹴るのが…怖い)
忘れられない。
人の骨を折った、感触。
アリのように踏み潰したいと思った、殺意。
今では鮮明に思い出せる。
「どうした! ブルっちまったか!?」
「殺せ殺せ!!」
身動きひとつしなくなった因幡の状態をチャンスととらえたのか、不良達が一斉に因幡に襲いかかる。
「因幡ちゃん!!」
始終傍観する予定だった夏目は、不良達と因幡の間に割り込み、一番距離が近かった不良を蹴り飛ばした。
ドン!
すると、因幡達とは反対の方向から不良を蹴散らす2人組がいた。
「! 神崎君! 姫ちゃん!」
「調子悪そうだな」と神崎。
「おい、こんなカス共になに手こずってんだ」と姫川。
さらに、もう一人。
因幡に角材を振りおろそうとした不良の手をつかむ男がいた。
「ぼうっとするな、因幡」
「城山…」
因幡が城山を見上げると、城山はつかんだ男をそのまま力任せにブロック塀の向こう側まで放り投げた。
参戦した4人のおかげで、不良達はあっという間に地面に転がされた。
「わ、悪い…」
「意外とピンチに陥りやすい奴だな」
姫川は肩を竦めて言った。
「つか、おまえら大丈夫なのか?」
「「「見ての通り」」」
神崎、姫川、城山は声をそろえた。
普段通りだと言いたげに胸を張る。
「……………」
因幡はまだ震える脚をムリヤリ動かし、いつものメンバーとともに学校へと向かった。
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