25:失敗から得たもの。
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因幡家が慌ただしい頃、姫川は病院を出て来たところだった。
シャツの胸元に人差し指をかけ、胸に巻かれた包帯を見下ろす。
「チッ…」
油断したとはいえ、胸を刺されてしまったのは失態だ。
気がつけば救急車に運ばれ、治療を受けていた。
気を失った間になにが起こったのか。
ケータイで車を呼ぼうとしたが、電池切れ。
昨夜といい、今日といい、ついていない。
「…!」
病院の門を潜ると、そこには神崎が背をもたせかけていた。
姫川と目を合わせると、「…おー、生きてたかー」と棒読み気味に声をかける。
「神崎…。どういう風の拭きまわしだ? オレを待ってたのか?」
「…近く通っただけだ。ついでにてめーの生死の確認。オレも情けねえ話、気ぃ失ってたからな」
「近くって…、おまえの家は別方向だろ」
うるさい、と言いたげに神崎の眉間に皺が寄る。
「オレにだって遠回りしたい時があんだよ。つーか、それ…」
神崎は自分の胸に指をさした。
「ん? …ああ、軽傷だってよ。一生残るモンでもねーらしい。…なに? 心配してくれてんの?」
姫川はニヤリと口端を吊り上げる。
「自惚れんなフランスパン」
確認しにきただけなのか、神崎は背を向けて行こうとする。
「待てよ、神崎」
車がないため、どうせ学校に行くならと姫川はそれを追いかけた。
「来んな。オレから15m以上離れやがれっ」
「傍から見たら逆にストーカーっぽくねえか? つか…、よくオレの居場所がわかったな。家に帰ってるかもしれねーのに…」
「ああ? なんとなくだよ。フランスパンから妙な電波とんでんじゃねーのか?」
「てめー、あんまリーゼント馬鹿にしてっと、変態にキスされそうになったこと学校中に言いふらすぞ」
「おまっ…、されてないからセーフだボケ! キモいこと思い出させんなっ!」
姫川目掛け回し蹴りを食らわそうとしたが、姫川は上半身を逸らしてそれをギリギリ避ける。
「あぶねっ! てめ、ケガ人だぞ、こっちは!」
「ピンピンしてんじゃねーかっ」
*****
スパンッ スパンッ
「痛いっつーの!!」
スリッパのように頭を叩かれ続けた因幡は、右手でそれを叩き落とす。
「契約とか失敗とか、わけわかんねーこと…」
“嫌でもそのミミズ並の脳でわかれ! これは貴様だけの問題ではない! 本来はすべて貴様に受け継がれるはずだった力が、貴様の仲間にも渡ってしまったのじゃからな! 人間の倍生きてきたワシにとって、これほど羞恥な失態はない! 前代未聞じゃ!”
「どういう…」
「因幡ちゃん! ごめん、入るよ!」
部屋の中の騒ぎが気になり、ずっとノックをしていた夏目はドアを開けて入ってきた。
「…なにがあったの?」
靴跡まみれの因幡の顔と体を見て、ぎょっとする。
「く…、靴が…」
床に転がる靴を指さすが、無言で転がっている。
因幡は試しに指先でつついてみるが、反応は返ってこない。
「靴…?」
「いや…」
まさかさっきまで蹴られていたとは説明しづらい。
「なにかあったかと思うじゃん。またあの先生が来たのかと…」
「ん…、ごめん…」
心配をかけてしまったことを反省し、因幡は差し出された夏目の手をとった。
「桃、朝から騒がしいぞ」
部屋に顔を出したのは、因幡の父・日向(ひゅうが)だ。
日向の目に飛び込んできたのは、サラシの娘とチャラそうな男。
夏目はコハルとケータイのアドレスを交換し合い、メールの交換をするほどの仲だが、父親との面識は一切なかった。
「……………」
「あ、お邪魔してま…」
夏目が会釈したとき、日向はフラリと一度その場をあとにし、釘付き金属バットを手に戻ってきた。
「人の娘に手を出しやがってこのガキ…!!!」
「なに勘違いしてんだよっ!!」
因幡は慌てて日向の行く手を阻み、金属バットを持つ手をおさえる。
普段は近所の奥様に好評つきのダンディーパパだが、時に、元・石矢魔生の血を騒がせる。
「さすが石矢魔OB」
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